社会の変化に対応する力が求められる今、全国の女子大学に理工系の新学部が続々と誕生しているのをご存じでしょうか? 気候変動やエネルギー問題、AI化・デジタル化の加速など、世界は絶えず変化し、向き合う課題も複雑さを増しています。伝統ある3女子大学の学長が、女子大学の役割の変化、理工系教育の広がり、今後求められる女性リーダー像について語り合いました。

<鼎談参加者>

お茶の水女子大学 学長 佐々木泰子さん
日本女子大学 学長 篠原聡子さん
奈良女子大学 学長 高田将志さん

女子大学から生まれるネットワーク型リーダー

篠原 気候変動やエネルギー問題、地政学的な緊張など、世界が大きく揺れ動いています。このような時代に、世界では女性リーダーの活躍が際立つ一方、日本においては管理職の男女比率などを見ると男性とまだまだ大きな差があります。この現状をどうご覧になっていますか?

佐々木 この3大学はいずれもこれまで女性リーダーの育成を使命として、教育に取り組んできました。ただ、日本における女性の社会進出は進んできてはいるものの、世界経済フォーラムが発表した2025年のジェンダーギャップ指数では、148カ国中118位とG7諸国の中で最下位という結果となっています。まだまだ課題はあり、この状況を打破するためにも女子大学が果たす役割は大きいと考えています。

日本女子大の篠原学長
篠原聡子さん|日本女子大学 学長
しのはら・さとこ/日本女子大学家政学部住居学科卒業。同大学院家政学研究科住居学専攻修了。建築設計事務所勤務を経て、1986年に空間研究所を設立。集合住宅・教育施設などの設計を手がける。1997年から日本女子大学家政学部住居学科専任講師に就任し、同学科教授、大学院家政学研究科委員長などを経て、2020年に学長に就任。

篠原 そもそも各大学が創設された当時は、女性に高等教育の機会がありませんでした。当初は「学ぶ機会を確保する」ことが女子大学の役割でしたが、それも大きく変わってきています。私が思い描くのは、次世代を担う新たなリーダー像を女子大学から醸成することです。これまでは、競争型の社会の中で、誰もがトップを目指す構図がありました。ただ、これからの時代は、しっかり人の話を聞き、周囲を巻き込むタイプのリーダーが求められていると感じます。こうしたネットワーク型のリーダーシップは、女子大学という特色ある環境で育まれるのではないかと考えています。

高田 私の母は、日本女子大学の卒業生でした。生前は学部の同窓生や写真部のネットワークを駆使して人生を大いに楽しんでいたのが印象に残っています。奈良女子大学の教員として着任して感じたのは、女子学生たちが周囲の目を気にせず、“伸び伸び”と学んでいるということです。母はこういう環境で育ってきたのだと合点がいきました。私もここから次世代の新たなリーダー像が形成される可能性を感じます。

そこで重要になるのが、女性が大学で学び続けられる環境づくりです。学部レベルでは女性の大学進学率は、2025年に約56%まで上がりました。男性の約60%にかなり近づいています。次は大学院です。男性の進学率が約16%なのに対し、女性は約7%しかない。欧米では女性の大学院進学率が20%を超えるところもあります。これが女性管理職比率が高まらない現状にもつながっている可能性があるのではないかと考えています。

もう一つ、2040年に向けた少子化を考えると地方の課題が大きい。首都圏はまだしも地方では女性の進学率が男性と差があります。地方の女性の進学率を上げ、生産年齢人口の労働生産性を底上げすること。これは日本にとって、実は死活問題です。奈良県にある地方大学として、やるべきことは大きいと感じています。

全国の女子大学で理工系学部の新設加速

篠原 女子大学を取り巻く環境の大きな変化として、理工系学部の新設が挙げられます。これは昨今のAI化・デジタル化の流れを考えれば、必然かと思います。日本女子大学も2029年に「理工学部(仮称)」の設置を構想し、準備を進めています。奈良女子大学はすでに2022年に工学部を開設していますね。

高田 おかげさまで今年(2026年)3月に第1期生が卒業しました。同時に大学院人間文化総合科学研究科の修士課程に「工学専攻」を新設し、定員を大きく超える志願者を集めることができました。今後、工学系の博士課程の設置も検討しています。

お茶の水女子大の佐々木教授
佐々木泰子さん|お茶の水女子大学 学長
ささき・やすこ/お茶の水女子大学大学院人文科学研究科日本文学専攻および日本言語文化専攻修士課程修了。同大学院人間文化創成科学研究科教授、国際教育センター長、グローバル教育センター長、附属小学校長、理事・副学長を経て、2021年に学長に就任。現在は、AI・データサイエンス教育、グローバル女性リーダー育成を推進している。

佐々木 お茶の水女子大学もこれまでの理学部に加え、2024年に共創工学部を新設しました。本学は、明治期以来、「文科」と「理科」をほぼ同数で育成しており、現在の学生を見ても極端に文系が多いわけではありません。理学部はもちろん、生活科学部にも理系の学生は数多くいます。さらに、理系学生の約7割は大学院まで進学し、研究を続けています。こうした土壌の上に、共創工学部の学生たちが、新たなエネルギーを運んでくれているのが印象的です。30名くらいの「工学女子」たちのグループが、ヘルメットと作業着でイキイキと実験をしている様子を見ていると日本の未来は明るいと感じます。

篠原 日本女子大学も実は以前から理工系の基盤的な素養を持っています。本学は、もともと家政学部の規模が比較的大きく、30年以上前の1992年にそこから理学部が独立しました。私は建築が専門で、家政学部にあった住居学科で学び、大学院まで研究を続けました。一級建築士の受験資格を取得できたこの学科は、2024年に建築デザイン学部に改組されました。このような実践的な社会実装をめざす理工系の学びの蓄積が設置構想中の「理工学部(仮称)」の基盤になっています。

奈良女子大の高田学長
高田将志さん|奈良女子大学 学長
たかだ・まさし/東京大学理学部地学科卒業。同大学院理学系研究科地理学専攻修士課程修了。同博士課程単位取得退学。1995年に奈良女子大学文学部助教授として着任。第38次南極地域観測隊員や国立極地研究所助教授併任を経て、2008年より文学部教授。大学院人間文化総合科学研究科長などを経て、2024年に学長に就任。

高田 私は女子大学で取り組む工学というのは、これまでの社会のイメージとは少し違うのではないかと感じています。従来の工学は、どちらかというと「つくり手」の意識が強かった。これに対して、生活者の視点、つまり「受け手」「使う側」から考える意識が強くなってきているのを感じます。こうした新しい工学と女子大学の学びは、親和性が高いのではないでしょうか。

佐々木 私も「生活」という言葉は、これからますます重要になると思います。生活者の視点から学問を考える――。お茶の水女子大学と奈良女子大学は、共同で「大学院生活工学共同専攻」(博士前期課程は募集停止)を設置・運営してきました。生活者視点は、この3大学が共通して持つ軸だと言えると思います。

篠原 生活者視点というのは、使う側にとって便利かどうかの単なる「使い勝手」の話ではありません。その基盤には、自然科学、社会科学、人文科学の横断的な知識が生かされています。これらを駆使して、社会課題を解決するときには、周囲と対話し、横に協働していく意識も不可欠です。トップダウン型のバーティカル(垂直)な関係から、ネットワークを重視していたホリゾンタル(水平)な関係、さらに、企業などとのより大きな組織との共同研究ではダイアゴナル(斜め)な関係も重要になると思います。本学ではこれらを家政学部、理学部の教育の中で培ってきました。設置構想中の「理工学部(仮称)」は、こうした女子大学が持つ強みを結集した学びの場になると考えています。

佐々木 今後は少子高齢化が進み、男性・女性の社会的役割もどんどん変わっていきます。働き方改革や子育てを通じて、男性の意識にも変化が見られます。これからは男性にとっても生活者の視点を踏まえた、ライフサイエンスが極めて重要な分野になってくるでしょう。そのときに、女子大学が蓄積した「知」の資産を教育・研究に幅広く展開していくことが、日本のジェンダーバランスを変え、社会を前進させる大きな力になると私は考えています。

時代が求めるリーダー像は「競争」から「共創」へ

篠原 先ほど高田先生から“伸び伸び”という言葉が出ました。本学の学生も私が声をかけると「伸び伸びやりました!」とよく口にします。この“伸び伸び”とは何だろうとずっと考えています。私が学んだ建築の世界は、当時だと「三尺下がって師の影を踏まず」というような縦社会が厳然と残っていました。これはかつての日本社会を象徴するものだと言えます。女子大学にはそういう風土は少なく、横につながるネットワーク型の組織がつくられているのを目にします。

理工学の研究には、横の連携や共同作業が欠かせません。そのとき、女性だけの環境だとプロジェクトごとに柔軟に協働するようなフラットな組織をつくりやすい。その点で、空間や装置を共有し、多くの共同作業をする理工系の学問領域を女子大学で学ぶ意義は想像以上に大きいと思います。

鼎談

高田 従来のトップダウン型のリーダーから、ネットワーク型のリーダーへ。「競争」から「共創」の時代へのシフトということですね。

佐々木 まさに、そう思います。フラットな組織、ジェンダーバイアスから解放された環境だからこそ、従来の社会規範にとらわれない自由な発想、つまりクリエーティブな能力も育まれます。

篠原 自由な発想といえば、私の研究室にこんな学生がいました。建築デザインを学んだその学生は、「どうしても大きなものを現場でつくりたい」と現場監督を目指すと言い出したのです。もちろん、この分野には、意匠系に進みたい人もいれば、土木系・都市計画系に進みたいという人もいます。ただ、その学生を見て、私は「女子大学だからそう考えたのかもしれない」と思ったのです。ジェンダーバイアスから解放された環境では、周囲を見て「自分はこうあるべき」と限界を決めるのではなく、自由な発想で進路を選べる。「勘違いと身の程知らずは若者の特権」と私は常に学生に伝えています。いい意味での“勘違い”ができる状況が、女子大学にはあるのです。

鼎談

佐々木 業種・職種だけでなく、国境を超えて活躍する卒業生も生まれています。これまで、お茶の水女子大学の卒業生は教育・研究分野で活躍する人が多い印象でした。ところが進路を追跡調査してみると、アメリカのメガバンクで活躍している人、シカゴの商工会議所で活躍している人などがいることがわかってきたのです。現在は、20〜30名の情報ですが、きちんと収集して、幅広く発信していくべきだと考えています。女子大学からグローバルリーダーが生まれはじめているのです!

篠原 「AI時代」「人生100年時代」と言われるなか、求められる女性リーダー像も変わっていくでしょう。皆さんは、これから女子大学が育成すべき学生像をどのようにお考えですか?

佐々木 グローバルな視点、サイエンスの素養、課題解決力――。どれも大切です。ただ、今とりわけ求められているのは、社会課題を「見つける」こと、つまり課題発見力だと思います。AIに何かを尋ねるときも、どういうプロンプト(命令)を与えるかで出力は大きく変わります。そのやりとりには、篠原先生がおっしゃった女子大学ならではの自由な発想に加え、幅広い教養も不可欠です。そのためには、理工系の学びを重視するだけでなく、文学や哲学のような文系の素養も重要だと考えています。そこで、お茶の水女子大学では、学部1年次にリベラルアーツ的な科目を数多く設置しています。課題を発見し、解決へのアプローチの仕方を導く。そこは、AIがたどり着かない、人間の知恵が担う領域だと思います。

鼎談

高田 私は大学院の修士・博士課程まで研究を続け、独自のキャリアを切り開いていく女性を増やしたいですね。最近、東京大学の本田由紀さんが編纂された新書『「東大卒」の研究〜データからみる学歴エリート〜』を読んで面白かったのが、東大の理系女性は、学士・修士・博士と学位が上がるごとに社会的地位やキャリアが上がっていくという調査結果です。文系ではそうならず、理系の男性でもそこまで明確ではない。理系女性の場合のみ、学位が上がるごとにキャリアが上がることが、データとして如実に出ているのです。これは日本の未来を考える上で大きなヒントなのではないかと思います。今回、本学に大学院工学専攻ができてよかったのは、企業と共同して「実社会で何が求められているか」を経験する機会が一気に増えたことです。加えて、本学には文学部もある。小さな大学だからこそ、文理融合の環境もつくりやすい。奈良は文化財も多く、本物に触れながら理工学的な研究を深められます。それが奈良女子大学の強みだと思っています。

篠原 日本女子大学も「理工学部(仮称)」設置に向け、社会課題と正面から向き合い、研究成果を社会実装する道を開拓していきます。理学の基盤的な素養に工学を積み上げていく。そこで現代社会が抱える複雑かつ細分化された課題にきめ細かくアプローチできる人材を育成したいと思っています。
もうひとつ、これからは卒業後に大学で学び直しをする人も増えるでしょう。日本女子大学では、生涯にわたり卒業生をサポートする「JWUキャリアライフセンター」を設置し、リカレント教育やリスキリングにも力を入れていきます。

高田 奈良女子大学も女性が学び続けられる環境づくりに尽力していきます。その取り組みのひとつとして、大学院進学を支援する奨学金「Narajo Master Seedプロジェクト」をスタートしました。卒業生の皆さんや企業の方々からもご支援いただきながら、次世代の女性リーダーを育成していきます。

佐々木 女子大学にとって同窓会の存在は極めて大きいですよね。海外でも本学の同窓生が集まっていると耳にすることがあります。現在は、主に学部1・2年生を対象に、卒業生から話を聞く授業を開講しています。そこで「海外で活躍している女性管理職の多くは博士号を取得している」といった話をしてもらうと学生たちに強く響きます。海外の金融機関で働く先輩や大学で研究職に就く女性の先輩から受け取るメッセージには大きなインパクトがあります。

篠原 日本女子大学でも卒業生が参加するJWUキャリア科目を設置しています。身近なロールモデルである卒業生から女性ならではのキャリア形成に関するアドバイスをもらえるのは、女子大学の大きな強みだと言えます。女性のみ、少人数という環境では、個人に対する解像度が上がります。自分のやりたいことを極めたい人には向いています。あきらめずに頑張れる人、周りを見て限界を決めず、自由な発想を持つ人を私たちは歓迎します。ここには、あなたの挑戦を後押しする先生がいて、同じ志の仲間がいる。そして、生涯にわたるネットワークができる。今後も「ホームカミングデー」などのイベントを活用しながら、現役の学生と卒業生の交流の場をつくっていくつもりです。世界を舞台に活躍する女性たちにとって、「いつでも帰れるホーム」であり続ける。それが女子大学の存在意義だと考えています。

3女子大学における理工系学部の新設状況

2022年 奈良女子大学「工学部」開設
2024年 お茶の水女子大学「共創工学部」開設
2024年 日本女子大学「建築デザイン学部」開設
2029年 日本女子大学「理工学部(仮称)」設置構想中

お茶の水女子大の佐々木学長、日本女子大の篠原学長、奈良女子大の高田学長