地震の初期微動をとらえ、大きな揺れが来る前に知らせる「緊急地震速報」の運用が始まって今年で20年となる。携帯電話から響くアラート(警告)音は、即座に、誰もが、不安に襲われるように設計されている。つくったのは、人々に癒やしを与えるべく作曲を続けてきた「環境音楽家」だった。
甲斐駒ケ岳を望む、山梨県北杜市の森のなかに、ログハウス型のスタジオがある。部屋の中には、パソコンやキーボード、大型のミキサーが並ぶ。
「ギュイッ ギュイッ ギュイッ」
12個のスピーカーから一斉に鳴り響くアラート音。「何度聞いても慣れることはないと思う」。サウンドデザイナーの小久保隆さん(70)はそう話す。電子マネー「iD」の決済音や、東京・六本木ヒルズで流れる環境音を手がけたことでも知られる。
「眠っていても、絶対に気づく音」
緊急地震速報は2006年8月、鉄道や病院など特定の利用者への先行運用が始まり、翌07年10月に一般の人を含めて本格的に始まった。これに伴い、気象庁はNTTドコモなど携帯電話事業者を介し、速報メールを端末に届けるサービスを始めた。
この際の受信音をどうするか。サービス開始の8カ月前、携帯電話各社を代表してドコモから制作を頼まれたのが、小久保さんだった。ドコモの役員が小久保さんのファンだった縁という。
ドコモからのオーダーは「眠っていても、絶対に気づく音」。
小久保さんは小鳥の鳴き声や川のせせらぎといった自然音を採り入れた「環境音楽」の専門家。ドコモの要望は、まったくベクトルの異なる音だった。
それでも「必要な条件をそろえ、『音を設計する』という意味で、根本的には同じプロセスなんです」と小久保さん。
「設計」にあたって参考にしたのが、様々な場面で、人々の注意を引くために使われてきた「サイン音」だった。
たとえば、戦時中、日本各地で鳴り響いた空襲警報。音程が切れ目なく変化する「スイープ音」を用い、「非日常」が表現されていた。寺の鐘の音は、不規則で複雑な周波数を含み、人間が聞き取りやすい。そして火の見やぐらの警鐘は、繰り返し鳴らすことで危機意識を高める――。
「みんながパニックになる」 初案は却下
最初につくった音はドコモに却下された。低音から高音への変化が急激で、鳴動時間も長く、「電車の中で鳴ったら、みんながパニックになってしまう」という理由だった。
記事の後半で、採用されなかった音も紹介してくれた動画をご覧になれます
音の変化の具合や鳴動時間を…
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