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一般的な指標からすれば、リマは決して住みやすい街とは言えないだろう。ひったくりや泥棒などの犯罪発生率も残念ながら低くはないし、市内の交通渋滞と運転マナーの悪さと言ったらそれはもうひどい有り様だ。青空を拝めるのは夏の間だけ。海霧の影響で1年の半分近くは曇天となるこの街では、湿度も高く衣類や靴をカビから守るのに苦心惨憺(さんたん)する日々が続く。
ではなぜリマに暮らしているのか。それは私にとってここが「バランスのよい街」だからだ。
まずは物価。同じラテン諸国であるアルゼンチンやチリに比べ、ペルーは物価が安い。しかしながら、リマには生活に必要な物がほぼすべてそろっている。国内の経済格差が激しいため富裕層向けの商品やサービスは日本より高いものも多いが、逆を言えば、ぜいたくをしなければそれなりに暮らしていけるのだ。自分の経済状況にあった暮らしが選択できるメリットは大きい。
気候でいえば、雨がめったに降らないところがいい。徒歩やバスでの移動が多い私にとって、傘を持たずに済むリマの暮らしは何物にも代えがたい。またカビを発生させる憎き湿気も、乾燥肌の私にはかえってありがたい存在だ。日本ではいつも冬の静電気に悩まされていたが、リマではそんなトラブルもなく実に快適である。
博物館も多く、祭りやイベントが頻繁に開催されるこの街は、いつも新鮮な情報を提供してくれる。ここに暮らしていると、古代アンデス文明からスペイン植民地時代を経て現在に至るペルー数千年の歴史がとても身近に感じられるのだ。自宅から世界遺産に登録されているリマ旧市街までは、バスでわずか40円。無料の催しも多く、庶民が文化や芸術に親しみやすい街でもある。
食べ物に関しては文句のつけようがない。海、山、ジャングルの恵みあふれるペルーでは、生鮮食料品が安い。米はキロ当たり100円前後、日本では高価なトロピカルフルーツも年中気軽に食べることができる。リマでは日系人や中国系移民のおかげで和食の材料も一通り手に入るので、日本人主婦にとっては大助かり。もちろん日本ほど種類はないが、そこは創意工夫で乗り切るだけ。そういえば日本に住んでいたころよりも、和食の献立が増えたように思う。
経済、気候、文化、食。生きていく上で必要なことがバランスよく整っているリマ。ここに、陽気でのんびり・いい加減なところもあるが憎めない「ペルー人」というエッセンスを加えれば、刺激に満ちた日常生活の完成だ。少しくらい空気が汚くても街にゴミが落ちていても、私にとってここより魅力的な街は今のところ思い浮かばない。バックパッカ―歴25年の私がお勧めする街、それが終の棲家、ペルーのリマというわけだ。