パネルディスカッション
つながる都市と森 木造ビルが変える日本
つながる都市と森
木造ビルが変える日本

腰原 幹雄
東京大学生産技術研究所教授
室谷 拓
三井不動産ビルディング本部業務推進室業務推進グループ統括
森下 喜隆
三菱地所関連事業推進部長兼木造木質化事業推進室長
コーディネーター
竹山 栄太郎
朝日新聞SDGs ACTION!編集長
脱炭素社会の実現やSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて、建材に木材を使う「木造ビル」に注目が集まっています。このセッションでは、大手デベロッパー2社の担当者に、都市と森をつなぐ木造ビルの取り組みを紹介してもらい、研究者とともに未来の都市の姿について考えました。
進む防耐火・耐震技術、都市に広がる「木造ビル」
竹山腰原先生は、長年「都市木造」の研究に取り組まれています。この20年あまりの都市木造建築の進化について教えてください。
東京大学・腰原日本には法隆寺を代表とする1300年以上の木造建築の歴史があります。明治時代以降、産業建築が普及する中で、戦争などによる森林資源の減少や都市の不燃化のためにも、大規模な木造建築はつくれない時代が続きました。
1990年代になると、北米から木を輸入し、体育館など大きな木造建築が作られるようになります。そんなことを背景に2000年には建築基準法が改正されました。05年には5階建ての木造ビルなど低層ビルが建てられるようになります。
2000~10年ごろは防耐火、耐震など技術開発が進み、2010~20年ごろに普及活動があり、20年ごろから木造ビルが日本で建ち始めるようになったわけです。
竹山木造ビルの広がりの背景をうかがえますか。
腰原森には、木材や食材、工芸材料をつくる以外にも、文化的価値や大気の浄化、水源涵養(かんよう)、土砂災害防止、地球環境、生物多様性の保全など、さまざまな役割があり、都市に住んでいる人も恩恵を受けています。
そんな都市が森に貢献できることのひとつが、建築に木を使うことです。木を使ってビルを建てる技術開発が進み、まちづくりに木造という選択肢が生まれてきたのです。
竹山木造建築に取り組む背景について、デベロッパー2社のお二人にもうかがいたいと思います。
三井不動産・室谷私どもは北海道に5千ヘクタールの森林を保有しています。そこで「植える、育てる、使う」のサイクルを回しながら、持続可能な森林経営をしたいと考えています。
ただ、「使う」がうまくできていないことが課題でした。そこで我々の主要事業であるオフィスビルでの国産材の活用に貢献できないかと考え、木造オフィスの検討が始まりました。他にも、グループ会社の三井ホームが木造のマンションに取り組んでいたり、社員が間伐材で作った名刺を作ったりする取り組みをしています。
三菱地所・森下私どもはデベロッパーとして、快適な空間を提供するという基本使命のもと、CO2の削減などの木造建築の環境価値に注目しています。
2016年ごろから、コンクリートや鉄骨に代わる集成材の一種である「クロス・ラミネーティッド・ティンバー(CLT)」に注目し、木造中高層賃貸マンションから始まり、空港、ホテル、中高層オフィスビルまで多岐にわたり木造・木質化事業に取り組んでいます。
木と鉄筋の協奏、ハイブリッドな高層ビルを実現
竹山都市木造、木造ビルの現状について考えてみたいと思います。
東京大学・腰原木材が建築材料として特殊なのは、構造材料でありながら仕上げ材でもあることです。これは良いことですが、一方で、軽いため遮音性が低く、揺れやすい。燃えたり、腐ったり、シロアリの被害にあったりといった弱点もあるわけです。
ただ近代では、工学に基づいた新しい技術で、そうした弱点が克服されています。今は燃えにくい技術などを元に、都市の中での木造建築が模索されているところだと思います。
竹山そんな木を活用した建築の事例についてご説明いただきたいと思います。
三菱地所・森下「PARK WOOD 高森」(仙台市)は、2019年に竣工した10階建ての中高層木造賃貸マンションです。CLTと鉄骨のハイブリッドで、CO2換算量で141トンの炭素を貯蔵する建築物です。
「みやこ下地島空港ターミナル」(沖縄・宮古島市)は、CLTを現(あらわ)しで使った平屋ですが、リゾート感あふれる、魅力的な空港になっていると思います。
直近のプロジェクトでは、2021年に竣工した11階建てのホテル「ザ ロイヤルパーク キャンバス 札幌大通公園」(札幌市)があります。構造、外装・内装に合計1200㎥の木を使っています。上層階の9~11階が完全な木造、下層階は鉄筋コンクリート造で、日本の建築基準法を勘案したハイブリッド構造の建物です。
腰原公共性の高い大きな建築物は、すべて木造にすることを認めてもらうのが性能面で難しい。魅力を出すにはどういう使い方が良いのか、木造技術で足りない部分はどこなのかを整理し、部分的に木造を取り入れた。その発想がすごいなと思います。
建築時のCO2排出を削減。木造ならではの快適さを
竹山2社が計画しているオフィスビルの事例を交えながら、木造ビルの未来の姿についても考えてみたいと思います。
三井不動産・室谷三井不動産では、東京・日本橋に国内最大・最高層の木造賃貸オフィスビル(地上18階、高さ約84メートル、延べ床約2万8千平方メートル)の建設に向けてプロジェクトを進めています。今年1月に着工し、2026年の竣工を目指しています。
こちらもハイブリッド構造で、1~4階の一部が鉄骨造です。その上の階は、柱や梁(はり)に木を使いますが、火事が起きても構造を支えている柱や梁に影響を及ぼさない技術を導入します。
ビルの構造材には、三井不動産が北海道に保有する森の木などを含め、1100m³超使う予定です。それによるCO2固定量は約800トンで、一般的な鉄骨オフィスビルより、躯体(くたい)部分において、建築時のCO2排出量を約30%削減できる見込みです。
コンセプトは 「日本橋に森をつくる」。エントランスは、壁面の木と照明で森の木漏れ日をイメージしており、森の中に入っていく雰囲気を演出しています。敷地には生物多様性に配慮した樹種を植え、屋上菜園も設置します。在宅勤務が当たり前の今も、出社したくなる、木造ならではのリラックスできる空間を目指しています。
東京大学・腰原CO2を木のまま建物に閉じ込めておく。そんな地球環境問題の解決法を、日本橋という都市の中心で行うのがこのプロジェクトですね。
日本は今、森林資源が余っている。そして、木材で都市部に大きな建築を作る技術がある。今は、それをどうやってうまく組み合わせていくかという試行錯誤の中にあり、日本橋にできる木造ビルが、その価値を広めていくことになると期待しています。
三菱地所・森下グローバルでも木造木質化の取り組みが進んでいますが、三菱地所グループでは、設計分野においても外資系企業のホテルやビルの設計に木材を使っていこうという取り組みが進んでいます。
三菱地所設計が携わっている2028年竣工予定の東京海上の新・本店ビル(東京)は、100メートルの木造ハイブリッドビルになります。世界でもトップクラスの木材使用量を誇るビルになると思います。
様々な課題を超え、木造建築の魅力を楽しめる社会へ
竹山木造建築の普及に向けた課題は。
東京大学・腰原社会に普及させていくためには、一般の人が求めるものをどうやって技術とコストを合わせて実現させるか。それを考えていく必要があります。
三菱地所・森下木の使い方として、構造としての「木造」以外に「木質化」といった方法もあります。例えば当社グループでは木質化したOAフロア※など新たな商品開発にもチャレンジしています。
- ※オフィスなどで、ネットワーク配線などを収納するために床を二重構造にしたフロア
三井不動産・室谷現在は、鉄骨でつくるより木造の方が建築コストは高くなる傾向にあり、需要を顕在化させ、ビジネスサイクルをうまく回すことが大事です。そのためにも我々大手デベロッパーが、まずは木造化や木質化で木をどんどん使う必要があります。
竹山最後に参加者に伝えたい一言をフリップボードにお願いします。
室谷私は「木を見つけてください」と書きました。普段から木がどんな風に使われているかを感じてもらえると、木造建築や木質化が身近に感じられるのではないかと思います。
森下私は「デベロッパーの本質」と書きました。デベロッパーの使命は、快適な空間や街をつくりあげ、みなさまに提供することです。まちづくりのなかで木を使い、木造・木質化を図っていくことに本質的な意味があると考えています。
腰原「木造建築を楽しもう」としました。私は地球環境問題のために我慢して何かをしようというのは好きではありません。地球環境に優しく、なおかつ楽しい世界をつくるためにこそ技術があるんです。
みなさんが新しい木造空間を楽しみ、応援していただけると、より木造建築が都市に増える。それが地球環境に優しい社会につながります。
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