特別講演
ウェルビーイングな社会の実現に向けて
ウェルビーイングな
社会の実現に向けて
森澤 恭子
品川区長
給食や学用品、所得制限なく完全無償に
品川区は、東京都の南東部に位置し、羽田空港、品川駅など都内有数の交通ターミナルに隣接した東京の玄関口となっています。
産業分野では、古くから製造業が集積し、近年はIT企業やAIなどの分野のスタートアップ企業が大崎・五反田エリアに集積し、「五反田バレー」と呼び表されています。
さらに地域の生活に根ざした個性豊かな商店街が97存在しています。人口は41万人に達し、都心部の中でも子どもや若い世代の人口が多いという特徴があります。
現在の社会情勢に目を向けますと、2025年には日本の人口の5人に1人が75歳以上の後期高齢者になり、介護の担い手不足や健康寿命の延伸など、喫緊の課題に迅速に対応していかなければなりません。自殺や孤立死などを含めた社会的孤立、精神的不安を抱える人たちへの対策も重要です。
「自らの生活に満足しているか」を問う世界幸福度調査によると、日本の幸福度は世界51位と低い状況にあります。
「1人当たりのGDP」などは高い水準にあるものの、「人生の選択の自由度」や「寛容さ」といった指標が幸福度を押し下げています。
誰もが生きづらさを感じたり選択を阻まれたりすることなく、自分が望むように生き、幸せを感じることができる社会。人がつながり、支え合うことができるやさしく寛容な社会。
そのような社会を実現するためには、一人ひとりの思いに寄り添い、幸福(しあわせ)、すなわちウェルビーイングの視点から施策を展開することが求められているのです。
世界に目を向けると、ウェルビーイングを基軸とする政策展開は、すでにグローバルスタンダードとなりつつあり、SDGs(国連の持続可能な開発目標)の次なるゴールとも言われています。
品川区も、令和6年度(2024年度)当初予算において「ウェルビーイング予算」を編成しました。
昨年実施した全区民アンケートの調査結果を分析し、優先度の高い政策課題を四つの領域に整理して予算を配分しました。
「安心・安全を守る」「社会全体で子どもと子育てを支える」「生きづらさをなくし住み続けられるやさしい社会をつくる」「未来に希望の持てるサステナブルな社会をつくる」を柱として、施策を展開しています。
この四つの柱のうち「社会全体で子どもと子育てを支える」について紹介します。
まず0歳児家庭を対象とした「見守りおむつ定期便」です。
地域との関係が薄れる現代において、孤立感や育児の不安を抱える家庭も少なくありません。おむつをご家庭にお届けすることをきっかけとして、行政から出向いて困りごとをキャッチするアウトリーチ(訪問支援)の取り組みをしています。
これによって、子育ての不安や悩みをうかがうことにより、社会とつながり、緩やかな見守りが図られることを目指しています。
さらに、義務教育に係る費用負担の軽減施策として、昨年は学校給食費を完全無償化にしました。今年度は、書道用具やドリルなどの学用品について、都内初となる所得制限のない完全無償化を実施しました。
区立学校だけでなく、特別支援学校に通う児童・生徒も対象としています。所得制限を設けない子育て支援施策をスピーディーに実現することで、子育てで選ばれる街を目指します。
「ウェルビーイングシティしながわ」に向けて
品川区のSDGsに関する取り組みについて紹介します。
まずは、「ジェンダー平等」に向けて、「品川区ジェンダー平等と性の多様性を尊重し合う社会を実現するための条例」を定めました。
性別や性的指向、ジェンダーアイデンティティにかかわらず、誰もが自分らしく生きられる社会の実現を目指しています。日本のジェンダーギャップ指数が低い状況を鑑みて、基本理念に「女性のエンパワーメント」を盛り込みました。
品川区は、内閣府から今年度「SDGs未来都市」に選定され、特に先導的な事業として「自治体SDGsモデル事業」にも選定されました。「ウェルビーイングの視点から~子どもとともに成長する新時代のSDGsしながわ~」をテーマに、豊かで持続可能な区を目指しています。
モデル事業として、民間企業や大学などと連携して社会課題の解決を目指すプラットフォームの構築を提案しています。
さらに「こども会議」などのイベントを通じ、小学生や中高生から、魅力的な品川区にするための意見やアイデアを直接いただき、これらを新たな施策につなげられるよう検討を進めます。
今後も区民のニーズを捉え、ウェルビーイングの向上につながる施策を生み出していくには、「EBPM(エビデンスに基づく政策立案)」が重要です。
今年度、品川区では全国で初めて予算編成に生成AIを活用しました。具体的には、全区民アンケートの約10万人分の回答を生成AIにより分析。その結果を受けて、希望のあった世帯に、所得制限なく小中学生1人につき2キロのお米を支給する「お米支援プロジェクト」を実施しました。
誰もが生きがいを感じ、自分らしく暮らせる社会へ
品川区では、今後の展開として、ウェルビーイングな地域社会を実現するため、ベーシックサービスを展開していきます。
ベーシックサービスは、あらゆる人が生活に必要とする、あるいは今後必要としうる、子育て・教育・医療・介護・障がい者福祉などの行政サービスを、所得制限なく全ての人に保障するという考えで、区民の幸福(しあわせ)を実現するうえで重要なものと認識しています。
誰もが安心して暮らしていける地域社会の実現を目指して、昨年度は、第2子の保育料や学校給食費、高校生までの医療費を東京都と連携しながら無償化しました。
今年度は、学用品の無償化、お米支援、高齢者や障がい者の見守り救急安否確認サービスの無償提供などに取り組んでいます。
これらの財源については、事務事業評価による事業の見直しなどにより捻出した20億円を活用しています。
こうしたベーシックサービスの考え方に基づき、新たに、子どもの朝の居場所づくりと朝食支援にチャレンジしたいと考えています。
子どもが小学校に進学すると、保育園よりも登校時間が遅くなり、「朝の小1の壁」と呼ばれています。「放課後は学童があるけれど、早朝に子どもを預ける場所がない」との声も多くいただいています。
文部科学省の調査によると、小学生の6.3%、中学生の8.6%が朝食を毎日食べていないと回答しています。子どもの健やかな成長にとって朝食は重要な要素です。
こういった二つの課題を解決すべく、学校始業前の朝の居場所づくりとセットで、朝食支援にチャレンジします。
食に関わる民間事業者などとも連携しながら具体的な手法を検討し、子どもの心身の健やかな成長を社会全体で支援し、子育て家庭の負担と不安を減らしていきます。
さらに、親の経済状況にかかわらず、希望する人が大学進学にチャレンジできるよう、大学生への所得制限のない新たな奨学金制度の創設を検討していきたいと考えています。
こうしたベーシックサービスの保障により、一人ひとりが人生の選択肢を叶えられる社会の実現を目指していきます。
先行き不透明な時代にあるからこそ、一人ひとりが生きがいを感じ自分らしく暮らしていける、人としての幸せを実感できる、そんな未来をつくりたいと思います。
「誰もが生きがいを感じ、自分らしく暮らしていけるウェルビーイングな社会」に向けて、引き続き取り組んでいくとともに、希望が持てる社会を、未来を、品川区から発信して日本全体へと広げてまいります。
関連記事
-
パネルディスカッション想像しよう2100年の地球
私たちは何をする?島村 琢哉
公益財団法人旭硝子財団理事長
AGC取締役兼会長さかなクン
東京海洋大学名誉博士/客員教授
コーディネーター
市野 塊
朝日新聞科学みらい部記者
-
特別講演ペットボトルの
持続可能な未来を目指して藤原 正明
サントリーホールディングス
常務執行役員
サステナビリティ経営推進本部長
-
特別講演ウェルビーイングな
社会の実現に向けて森澤 恭子
品川区長
-
パネルディスカッションつながる都市と森
木造ビルが変える日本腰原 幹雄
東京大学生産技術研究所教授
室谷 拓
三井不動産ビルディング本部
業務推進室業務推進グループ統括森下 喜隆
三菱地所関連事業推進部長兼
木造木質化事業推進室長コーディネーター
竹山 栄太郎
朝日新聞
SDGs ACTION!編集長
-
特別講演明治はカカオで
みんなを笑顔にする萩原 秀和
株式会社明治
グローバルカカオ事業本部 執行役員
グローバルカカオ事業本部長
-





