お笑い芸人の厚切りジェイソンさん。実はIT企業の役員であり、日本の企業で働いた経験のあるビジネスマンとしての顔も持っています。さらに現在は、東海地方の優れた企業を紹介するテレビ番組にも出演中。東海との縁が深くかつて就活生でもあったジェイソンさんに、〝将来の選択〞にまつわるエピソードをうかがいます。
文:八幡谷真弓 撮影:浅沼ノア
WHY1 世界的なトップシェア企業が東海にあることを知らないの!?
―ジェイソンさん、東海地方にはどんなイメージをお持ちですか。
東海地方、好きですよ!実はアメリカの企業で働いていたときから、東海の企業を訪れていたので、街として東京と同じような場所だと思っていました。でも、食文化は日本のほかの地方とは違いますね。味噌カツとか「がっつり味があるなぁ」というのが多くて。アメリカ人の口に合うというか、僕は好きですね。あと、名古屋城の屋根の上の〝金の魚〟は昔から気になってました(笑)。
―東海の企業については、いかがでしょう。
製造業、町工場のイメージが強いですね。この2年ほど、中京テレビの番組で東海地方の輝いている企業の経営者とお話しする機会を持たせていただいています。東海拠点のいわゆる大手企業から中小企業、それも食品関係もあれば、自動車の部品など、扱う製品もさまざまな会社に行っています。そのなかで、小さな町の工場に見えて「世界シェアの7割を持っているんですよ」というようなグローバルな企業によく出合う。それも東海らしいのかなと思います。代々作り上げてきた技術を磨き続けている企業も多いですね。会社名と社長の苗字が同じというように、創業家の方が経営に携わっているケースも珍しくないようです。
WHY2 自分はどんな仕事をしたいか、どうして考えないの?
―アメリカと日本では、就職活動に違いはありますか。
日本でも撤廃の話が進んでいますが、アメリカでは就活時期を決めるルールがなく、学生はいつでも企業と話すことができます。だから、例えば大学1年生でも就職が決まれば、その時点で就活は終わるんです。
―アメリカの企業は学生に対してよりオープンなのでしょうか。
いえいえ、日本の企業のほうが学生への門戸は広いと思います。アメリカでは応募する職にドンピシャな履歴書を出せる学生でないと、書類ベースで外されますから。「この学生とは話す価値なし」とね。ですから、プログラマーになりたければコンピュータサイエンスを専攻するなど、やりたい仕事に必須とされることを学生は学びます。
―アメリカの学生はやりたい仕事が明確なんですね。
何を専門にするかは大学に入る前に決めてますね。一方日本では、大学での専門と仕事の内容が直結してない人が多いでしょ?また「この会社に入りたい」と企業で選ぶ人が日本は多いけど、アメリカは「自分はゆくゆくこうなりたい。そのためにはこんな仕事がしたい」と選ぶ。だから、「会社に入れば何とかなる」とぼんやり考えてる学生さんは、僕には甘〜いモンブランみたいに思えます。モンブランは好きだけどね!
WHY3 リスクのない“スモールスタート”も始めるきっかけになるんじゃない?
―今もIT関連の仕事をされていますが、そもそもITを志望した理由は何だったのでしょう。
ITはどんな業界にも当てはまる。例えば「自動車×IT」「宇宙×IT」「農業×IT」と幅広い分野で活躍できるし、新しいことができるんです。今の時代はIT技術であらゆる進化が生まれていますよね。世界を変えるにはITだと思ったし、稼げそうだし、自分のスキルにも当てはまるからいいなと考えました。
―では、お笑い芸人になったのは?
楽しそうだったから。理由はそれだけです。養成所に1年間通ったんですが、週末だけだったのでやってみる上でのリスクもありませんでした。人生のほかのことをすべて捨ててお笑い芸人を目指す人もいますが、僕はそんなつもりは一切なく、会社を辞めるつもりもなかった。〝ちょっとやってみよう〟と、しっかり生活の基礎は残し、楽しそうなことを経験しようと思ってました。それが予想外な展開になって……。みなさんも、やりたいことがあれば、リスクのない方法は絶対にあるはずですよ。まず小さな第一歩でやってみて、うまくいけば力や財産を集中させて、さらに大きくなるかもしれない。そこはわからないけど、〝スモールスタート〟でなら、どんなこともできるじゃないですか。
WHY4 将来のための選択をするのに、自分の価値を高めなくてどうする?
―二足のわらじを続けるのは、大変ではないですか。
何をしたいか日々決めるだけなので、大変ではないです。何をしたいかの基準はライフステージで変わりますが、新卒の頃は自分の成長のスピードが最優先でした。新しいスキルと責任をできるだけ早く身につけることが大切だった。今は、楽しさや冒険度が優ります。安定した生活基盤ができたから、〝本当は何をしたいか〟と試せます。それに僕は、ずっと二足のわらじを履いてきました。芸人を始める前も働きながらビジネススクールに行ったし、大学時代もコンピュータサイエンスと日本語を専攻したし。2つの大きなことをやるのが、僕には合ってるんです。結果的にその二つが結びついてます。
―日本語はなぜ勉強したのですか。
大学でコンピュータサイエンス以外に、ビジネスか外国語を勉強する必要があったんです。みんなと同じことをやっても周囲と区別できないから、ほかの学生があまりやらない組み合わせにしようと、日本語を選びました。いちばん使えそうな組み合わせを選ぶ人は多いけど、何万人も勉強しているようなビジネスとコンピュータサイエンスを選べば、僕は何万人のうちの一人になる。でも、数十人しか勉強していない組み合わせなら、より勝負しやすい。僕はそう考えるんです。それが大当たり!
WHY5 本当にやりたいことがわからない? どんどん試すことで見つかるんだよ!
―故郷を離れて、異文化のなかで働くことに躊躇はなかったですか。
理解しにくいことは当然ありますが、何事も「ここだけ」と一つのことに絞ると、自分の可能性を制限しますよね。世界を広く見て、いろんなところで活躍できるほうが、自分の可能性は大きくなると思います。
―やりたいことが見つからないという人に、アドバイスするなら?
迷っているならまずやってみる。二つあるなら、リスクの少ないやり方を見つけて両方ね。柔軟に試して、うまくいかないときは方向転換すればいいと僕は思います。うまくいきそうなものは、より力を入れて。誰だって最初から何をしたいかわからないですよ。〝違ったな〟というものを削っていけば、本当にやりたいことが見つけられるんじゃないかな。
―ジェイソンさんは投資家の視点もお持ちですが、これからの時代、必要なスキルは何だと思いますか。
変化に柔軟に対応できる力ですね。東海の企業と接しても思いますが、昔は自動車部品を作っていたけど、市場の変化に伴い、同じ材料、技術、機械を使って家庭用品を作り、ヒットさせた企業など、時代に合わせて新しい展開ができる企業は強いです。個々人も同じで、「何をするかを見つけるスキル」があれば、どんな時代にも活躍できる。僕も新しい価値を発信できるよう、がんばります!
「何をするかを見つける」スキルと変化に対応できる柔軟性が大切 !

厚切りジェイソン
1986年米国生まれ。ミシガン州立大学卒業後、イリノイ大学大学院修士課程修了。2005年、学生時代に初来日し日本企業に勤務。2011年、クラウド企業の日本法人支社長として再来日。15年2月、デ ビュー4ヶ月で「R-1ぐらんぷり2015」の決勝に進出し、お笑い芸人としてブレイク。IT企業の役員も務める。
