世界経済の好調を背景に、回復・拡大傾向にある日本経済。なかでも、世界屈指の技術力を誇るものづくり企業が拠点を構える東海エリアは、国内外の企業が加速させる設備投資の波に乗り成長。日本経済を支えている。2018年 4 月、名古屋支店では初の女性支店長に着任した清水季子さんに、東海エリア経済の現在と未来、そして他エリアにはない〝強み〟をうかがった。
文:加藤徹 撮影:近藤忍
日本経済を支えている東海エリアのものづくり技術
─東海エリア経済の現状についてお聞かせください。
好調な世界経済を背景に外需が高まり、輸出関連企業を中心に好況が続いています。日本銀行の経済評価でも、2017年10月に最高基準の「拡大している」へ引き上げてから1年が経過しました。国内企業が設備投資を加速させるなど、内需にも火が付き、当面は好調が持続すると予想されます。
─好調さを示すデータや特徴的な動 きはありますか?
失業率が1・7%(2018年 4 月〜 6月)まで下がり、既存の労働力がほぼ底を打つなかで、人材確保に苦労する企業が増えています。それに伴う賃金上昇や人手不足に対応するため、省力化・省人化への投資が進み、さまざまな業種でAIやロボットを活用した、新たなシステム導入の動きが始まっています。もちろん、こうした省力化・省人化の流れは、好調な需要に応えるための前向きな投資です。
─外需・内需の高まりが、東海エリアの経済を好調にしている理由とは?
東海エリアの産業基盤は、日本のものづくりを支える製造業です。世界的好況が国内需要を高めている状況は、日本経済全体に当てはまりますが、ものづくりに不可欠な工作機械や部品製造のトップメーカーが多数存在する東海エリアは、とりわけその状況を収益に変換できているからです。実際に、東海エリアには世界トップシェアを誇る数多くのサプライヤーが拠点を構え、日本経済、世界経済の成長を後押ししています。
グローバル企業が一定地域に集中層の厚さは世界屈指
─東海エリア経済の"強み"について、どのようにお考えですか。
第一に、優れた技術力の集積があることです。そして、各企業の拠点が一定地域に集中していることも、他のエリアにはない〝強み〟だと思います。名古屋支店長に着任してから、数多くの企業を訪問しましたが、企業間の距離が緊密でしっかりとしたネットワークが築かれているという印象を受けます。また、緻密な状況判断のもと、非常に堅実な経営がなされていて、慎重な企業文化・風土を感じます。
─企業間の距離が緊密なことは、産業成長において、どのような利点があるのでしょうか。
身近に存在するライバルやパートナーから、有形無形の刺激やサポートを得ることで、優れた製品をスピーディーに生み出すことができます。顧客の視点からも、そのエリアを訪れることで業界全体のトレンドが把握でき、結果として素晴らしい相乗効果が生まれます。現在、世界的に設備投資の需要が高まっていますが、複雑な加工を何度も繰り返す、少量多品種の工作機械を開発できる企業は、東海エリアのメーカーを除けば数えるほどしか存在しません。その理由も、高性能な工作機械を製造するためには、企業間の緊密な連携が欠かせないからです。
─産業構造が変革期を迎えるなかで、その"強み"は今後も維持されるとお考えですか。
ガソリンから電気へと動力源がシフトしつつある自動車産業に代表されるように、世界の産業構造は大きな変革期を迎えています。新たな移動手段として、AIやIT技術を駆使したコネクティッドカーが注目され、さまざまな業種の企業が自動車産業に参入し、世界中で熾烈な競争が繰り広げられています。それでも、最も〝地に足をつけた〟方向性や戦略を提案できるのは、東海エリアの自動車関連産業だと思っています。その根拠は、やはり技術力と企業拠点の集積という東海エリアの〝強み〟。イメージを具現化するための素材や部品を製造する確かな技術力を、東海地区の企業が持っていることです。
─成長を持続するために必要なことや、課題はありますか。
産業基盤である製造業の、〝非製造業化〟への対応ではないでしょうか。技術進化とライフスタイルの多様化により、さまざまな業界で「シェアリング」がキーワードになっています。今後は東海エリアの製造業も、ものを作り、売るという従来のビジネスモデルに加え、ものを共有してサービスを受け取る時代への対応が求められます。〝強み〟である技術力を高めつつ、ユーザーとの結びつきをより深め、ライフスタイルまでを提供する視点が必要になるため、業界や組織、地域の垣根を越えた連携を推進し、オープンイノベーションにより新たな価値の創造に取り組むことが重要となります。
─そこで東海エリア特有の"強み"が発揮されるわけですね。
新たな価値やサービスを提供するためには、アイデアを生む発想力と、それを製品化する技術力の両輪が不可欠です。東海エリアのものづくり企業は、個々に優れた技術力を持っているだけではなく、プロセス管理を一体となって行える距離間に立地しており、イノベーション創出に最適な環境が整っています。ヨーロッパにもドイツを中心に技術力を持ったメーカーがありますが、各企業の拠点は飛行機移動が必要になるほど離れています。部品や素材を含め、各企業が一定地域に集中し、同じ方向性のもとで産業発展に取り組むことができる〝層の厚さ〟は、世界を見渡しても東海エリア以外には見当たりません。とりわけ、現在のような産業構造の変革期には、技術力を備えた企業間の連携が重要となるだけに、より一層連携を深め、東海エリアから世界に向けて、新たな戦略や方向性が発信されることを期待しています。
リニア開業で日本の中心に? 世界の目が東海エリアに集まる
─リニア中央新幹線の開業など、経済成長の起爆剤となり得るイベントも控えています。
5年後、10年後の経済状況に対して、これほどモメンタムの高い地域は他にありません。とりわけリニア中央新幹線開業によって誕生する大都市圏は、フランス一国をも上回る巨大な経済圏になると言われ、各所から注目が集まっています。その効果を最大限に活用するためにも、今後は東海エリアがものづくりの集積地であることを、世界にPRしていくことが重要となります。たとえば、各国から来日するビジネス訪問者に対し、ものづくり企業のショールームを1日で周回する滞在プランを提案すれば、独自性豊かな〝おもてなし〟となり得ます。自治体とも協力し、巧みなブランディングができれば、東海エリアを日本経済の中心として認知させることも可能です。
─東海エリアの各企業は、その規模や実績に反して、国内の他エリアの学生から十分な認知が得られていないように感じます。
東海エリアには、企業とともにものづくり産業を支える大学や研究機関があり、そこで当地の企業が必要とする知識・技能を取得した人材を育成してきました。ただ、新しいアイデアや価値を創出していくためには、地域、国籍、性別、年齢の枠を越えて、多様性に富んだ人材の活用が不可欠です。ものづくり企業が集積する愛知県の刈谷地域を訪問して「私自身が留学していたカリフォルニアのシリコンバレーを凌駕する企業集積だ」と驚かされました。国内の他エリアの学生に向けて、東海エリアのものづくり産業の魅力を発信していくことは、今後の大きな課題の一つだと思います。
─東海エリアで働くことの魅力について、どのようにお考えですか。
製造業を中心に、これまでにない製品やサービスを、世の中に送り出している企業の数は国内随一です。どの分野であれ、最先端の技術や研究に携わって働きたいと考える学生にとって、東海エリアは非常に魅力的な環境が整っていると思います。また、非製造業も盛んで、農業や花き産業では数多くの生産量日本一に輝いています。挑戦心と堅実さを兼備した固有の企業気質も、東海エリアの魅力だと感じます。
─今後の産業界で求められる、資質や人材像を教えてください。
IT産業と自動車産業が結びつきを深めるなど、産業界では業態の一体化が進み、今後はさまざまなバックグラウンドを持った人材が協働する場面が増えていきます。そのような環境で自分らしさを発揮するためには、オープンマインドであることが重要だと思います。専門性を高める努力は大前提ですが、幅広い分野に関心を持ち、学び究めた専門性を、他者との関わりの中で発揮することが、産業界の求める人材像ではないでしょうか。
─女性として、日本銀行初の支店長となった清水さん。就職活動中の学生にメッセージをお願いします。
理想を掲げることは大切ですが、それに縛られてしまうと、息苦しさを感じてしまうものです。私がキャリアを通じて一貫してきたことは、「自分はこうあるべき」と身構え過ぎず、自分の置かれた環境で個性を発揮すること。そして、決して守りに入らないことです。さまざまなことが多様化し、想定外のことが当たり前のように起こる時代だからこそ、自分の核となる専門性を磨き、変化や課題を楽しめるマインドを持つことが大切です。肩の力を抜いて、いつも自然体であることを意識して、自分らしく働ける場所を見つけてください。

日本銀行 名古屋支店長 清水季子さん
東京大学工学部を卒業し、1987年に日本銀行へ入行。金融市場局、金融機構局を経て2008年にロンドン事務所次長となり、帰国後の2010年7月に高松支店で女性初の支店長に着任。2018年4月より名古屋支店長。東京都出身。
