労働人口の低下、需要と供給のミスマッチなど、日本の労働市場は様々な課題を抱えています。そんな中、多様なはたらきがいを認め、はたらく人一人ひとりを大切にする「はたらく人ファースト」な企業が1社でも多く増えるにはどうすればよいでしょうか。世界初の採用・転職におけるミスマッチを減らしながら入社後の活躍をサポートする採用・転職サービス「ミイダス」を運営するミイダス株式会社の後藤喜悦代表取締役社長とジャーナリスト 長野智子さん、ツギノジダイ編集長の杉本崇が現場の事例をもとに話し合いました。

※「バイアス診断ゲーム」(認知バイアスを測定するテスト)と「コンピテンシー診断」を使って人材の採用と配置・育成を可能にする無料のスマホアプリ診断サービスとして(2023年5月 未来トレンド研究機構調べ)

複数の領域をまたぎ市場価値を上げる

杉本 物流や建設業の「2024年問題」に代表されるように、企業もそこではたらく人たちも、労働のあり方や価値観をアップデートしなければならない時期に来ています。いま、注目すべきキーワードは何でしょうか。

後藤 まず、前提として、はたらく人の価値観はとても多様化しています。たとえば、キャリアアップや成長を求める人には、「学習」がひとつのキーワードになると思います。そういう人にとって、自分の市場価値を高めることが重要ですが、市場価値を高めるには3つのパターンがあります。

①大勢の中で自分が一番になる
②プレーヤーが少ない領域でスペシャリストになる
③複数の領域をまたぐ

です。①と②は結構ハードルが高いですが、③の複数の領域をまたぐのは、自分次第で実現しやすくなります。例えばマーケティングがわかる経営者、技術がわかる営業、デザインがわかるフロントエンジニア…。ひとつひとつの知識やスキルがトップクラスでなくても、いくつかの領域をまたぐだけで、自分の市場価値を一気に高められます。

ただし、複数の領域をまたぐには意図的に異動や転職をする、副業をする、勉強をするということが必要です。つまり、個人の成長には、やはりいろいろな領域を経験することが必要だということです。

女性の労働環境整備がすべての労働者のはたらきやすさに

長野 私が追いかけている女性の労働環境整備という視点からいうと、「女性がはたらきやすい職場」は、男性にとってもはたらきやすくパフォーマンスが上がる環境だというのがあります。つまり、女性の労働環境整備は女性だけの問題ではなく、あらゆる労働者にかかわるテーマだということです。

最近は大手企業が率先して女性の労働環境整備に乗り出していますよね。正規・非正規にかかわらず子どもが18歳になるまで時短勤務を認めるというトヨタ自動車の施策は、大きな注目を集めています。

また、ジョブ型採用が増えて時間あたりのパフォーマンスを評価、従来型の長時間労働環境から脱却しようという流れもあります。ただし、これらの施策がまだ社会的に大きく広がっていないことが課題だともいえます。

杉本 それらの施策が広がらない原因はどこにあるのでしょう。

長野 労働者の課題は、イコール経営者の課題です。少子化で労働人口減少の時代に突入して、優秀な人材の獲得が難しくなっているのに、そこに危機感を持つ企業経営者がまだまだ少ないのが現状です。それが、将来的な企業への不安という日本全体の問題になっています。

採用力の向上とハイスペック副業人材の活用

後藤喜悦社長
ミイダス株式会社の後藤喜悦代表取締役社長

杉本 長野さんが指摘する通り、はたらきやすい職場づくりが少しずつ進む一方で、その広がりに欠けるというのは、私自身も取材を通して強く感じています。

例えば、地方の中小企業を取材していると、特に製造業や建設業のような現場仕事では、求人を出してもなかなか人が集まりません。そういう現状を踏まえて、企業ははたらく人の課題に対してどのような対応をしていくべきなのでしょうか。

後藤 「採用力をいかに高めるか」が、今の時代を乗り切るキーワードです。採用競争は激化していて、優秀な人材は奪い合いです。必然的に、個人から選ばれるように企業自身が磨かれなくてはいけなくなっています。それは新規採用だけでなく、現状の社員を維持することにも通じます。もちろん、その対象は若い人だけでなく、女性や高齢者も含めて考えていくべきでしょう。

一方で、ワークスタイルが多様化する中、キーマンとなる人材のニーズも高まっています。会社のコアとなる人材、マーケティングやガバナンスを整えるような経営人材の不足に悩む中小企業は多いですね。

杉本 確かに、経営の中核となる人材の採用も深刻な課題ですね。その解決策としてはなにかあるのでしょうか。

後藤 ひとつには、副業人材やフリーランスの活用です。例えば、地方の企業が都会ではたらくスペシャリストから週1回とか月1回、アドバイスをもらうという方法があります。

地方の経営者の場合、まだまだ正社員や直接雇用にこだわる方も多いんですが、そうではないやり方もあるんです。コンサルティング会社に依頼すると高額なコストがかかるかもしれませんが、フリーランスや副業のハイスペック人材を活用することで、比較的安い費用で専門家の知見やノウハウを入手できます。

個々の社員を知るためにツールを活用

杉本 つぎに「働き方改革」とは具体的に何をすればいいのかを聞いていきたいと思います。年次有給休暇の取得や残業を減らす、同一労働同一賃金などの制度的なことだけでなく、はたらく方の置かれた個々の事情に応じ、多様なはたらき方を選択できる社会を実現し、はたらく方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。こうしたなか、はたらきがいという視点からはどのようなことが必要ですか。

後藤 はたらきがいを実現するには、まずは社員を知ることが重要です。社員の多様化が進む中、その一人ひとりといかに会社が丁寧に向き合うか。それができている会社は、意外と少ないんです。

性別や世代によってもはたらきがいに求めるものは違いますし、それ以外にもいろいろな要素があります。

杉本 例えば、個々人に向き合い、その人が求めるはたらき方を把握する方法としてはどのようなものがありますか?

後藤 ミイダスで開発しているエンゲージメントサーベイ、いわゆるアンケート形式の調査ツールを活用したり、どういうことにやりがいを求めたり、ストレスを感じやすいのかをコンピテンシー(行動特性)診断を活用して把握することができます。

コンピテンシー診断では、組織ごとの特徴がはっきりわかります。ですから、当然、その組織ごとに自社に合うはたらきがいを高める施策も違ってくるはずなんです。

杉本 はたらきがいの課題を把握して、実際に解決していくことで、企業にはどんなメリットがもたらされるのでしょう。

後藤 重要なポイントとして、生産性が非常にアップするというのがあります。僕自身の経験からもそうですが、マネジメントのコストとは、そのほとんどがやりがいを感じていない社員への対応に費やされているんです。

すべての社員がはたらきがいを感じて主体的に仕事ができれば、組織マネジメントの課題はほぼ解決すると言っていいでしょう。生活習慣を整えたら病気になりにくいのと同じで、特効薬があるわけではないんです。生活習慣=社員のはたらくことへの意識から変えていくことで、健全な組織が醸成されていきます。

Z世代が求めるはたらきがいにどう応えるか

長野智子さん
ジャーナリスト 長野智子さん

長野 一人ひとりの労働者が違うというのは、本当にそうですよね。私は「意思決定層に女性を配置することで、女性の意見を拾いやすくなる」と提言していますが、当の女性からは「私はそんなにがんばりたくない」と言われてしまうことがあるのも、そのひとつだと思います。

ただ、そうなってくると、個々の違いが多様過ぎていったいどこを見ればいいのか、という悩みも出てきてしまう。

PwCコンサルティングの「グローバル従業員意識調査」(2022年)からわかるデータは、その答えの指針になるかもしれません。この調査データでは、世代別で会社に求めることが違うというのがはっきりと示されています。

ほかの世代が「自分の仕事に対して金銭的に適正に報われていること」を一番に求めているのに対して、Z世代(18〜25歳)だけが「仕事で自分らしさを発揮できること」を最も求めています。同時にウェルビーイング、つまり仕事も生活も満たされた生活を求めているという傾向もZ世代は強く現れています。

つまり、若い世代から確実に意識のモードが変わっているということをこのデータは示しています。企業はZ世代が求めるものをどう実現するか考えることが必須でしょうね。

意思決定層への多様性の推進がビジネス成功の鍵

杉本 そのなかで「意思決定層への多様性の推進」の必要性をどのように考えますか。

長野 たとえば意思決定層にバランスよく女性が配置されていると、利益率が上がる、危機回復能力が高くなる、投資を呼び込む、優秀な人材を採用しやすくなるということが、国内外のデータから証明されています。

日本のような成熟社会では、ビジネスチャンスの開拓には新しい視野が必要不可欠なのに、男性だけの同質性の高い組織ではその視野が狭いままです。女性がある程度加わることで、新しい視点でビジネスを創出するチャンスが広がる。そのことに企業はもっと気がつき実行すべきです。労働環境の観点からも、出産・育児の当事者ではない男性だけで整備するよりも、当事者である女性が「意思決定層」に加わりその声が反映することが重要だと思います。

杉本 女性の経営層参画では、「なり手がいない」と悩む企業も多いようです。

長野 取材をしていると、若い世代からは「女性のロールモデルがいない」という声が必ず聞かれます。意思決定層に女性を配置することは、そのロールモデルを増やすことになり、それが自然と下の世代の女性を育てる土壌にもなっていきます。

複数の手段で従業員の本音を正確に知る

杉本 はたらく人の価値観が多様になる中で、企業は従業員のエンゲージメントを高めるために何をしていけばいいのでしょうか。

後藤 具体的な打ち手をする以前に、まずは社員が何を考え、会社に何を期待しているのか明確に知ることです。中小企業の経営者は社員の考えていることがわかっていない、もしくはわかったつもりになっているケースが多い気がします。そこを客観的に知るためには、ツールもどんどん活用したほうがいいですね。

杉本 たとえば、経営層は1on1でじっくり話したから、この従業員の本音は理解したと思ってしまう場合がありますが、経営層に対して本当に本音を話しやすい環境にあるかを見直すことは大切ですね。1on1と、アンケートでは社員の本音をより引き出しやすいのはどちらでしょうか。

後藤 複数のパターンを使って総合的に判断するのがベストですね。

1on1も、決して悪いわけではなく、それだけで判断するのはリスクということ。アンケートなど別のツールをプラスすることで、精度を上げられます。

アンケートも匿名ではメリット・デメリットがあります。本音を言いやすい反面、無責任に言いたいことを書く傾向があったり、誰の意見がわからないから打ち手もしづらかったりします。

杉本 そこを解決していく具体的な方法はあるのですか。

後藤 弊社が独自で調査した結果によると、従来のエンゲージメントサーベイでは、「自分の意見だけ伝える(37.3%)」「他の人の意見も伝える(46.9%)」という意見が混在しており、正しく意見を聞けていない可能性があると考えています。そこで、ミイダスでは主観と客観を2軸で回答するサーベイ(調査方法)を採用しています。例えば「あなたは当社の経営者を信頼していますか」という質問と「当社の従業員は当社の経営者を信頼していますか」という2つの視点で回答してもらうんです。そうすることで本音がより探りやすくなります。また、この「はたらきがいサーベイ」では、従来のサーベイでは得られなかった「社員が会社や組織に対して求めるもの」が確認できるので、解決すべき課題の優先順位が明確にわかるようになっています。

これらのアンケートに、先天的な性格や特性が見えやすいコンピテンシー、そして1on1などを組み合わせていく。そうすると、従業員に求められていることや課題が総合的に浮かび上がってきます。

※実際の設問例:
各項目について、あなたが会社に求めることか否かの設問です。設問を読んで、該当するものを一つ選んでください。
質問「会社の理念・ビジョンに共感していること」
回答<全く求めない・求めない・どちらでもない・求める・強く求める>

経営者が企業の覚悟をどこまで示せるか

杉本崇さん
ツギノジダイの杉本崇編集長

杉本 はたらく人が多様な価値や意見を持つ中で、経営トップはどう向き合うべきだと考えますか。

長野 具体的な事例のひとつに、丸紅の取り組みがあります。2021年1月に「2024年の新卒総合職採用の女性比率を4〜5割にする」と発表。2021年時点での総合職は男性社員9割ですから、非常に画期的なニュースです。

取材をしていくと、社内でもかなり賛否があったということでした。「女性に下駄を履かせるのか」とか「男女ではなく能力で決めるべき」とか。そういう反対意見に納得してもらうために、社長が行ったのが「オピニオンボックス」という施策です。

オピニオンボックスは、関連会社含めた全社員が直接社長宛てにアンケートフォームで質問や意見を投稿できるというもの。社長はオピニオンボックスに来たすべての質問や意見に、月2回のメールマガジンで回答を発信し続けました。それによって、確実に社内の空気が変わっていったそうです。

変わると覚悟を決めた企業のトップは、それほどまでのことをするんだという驚きと共に非常に印象に残っているエピソードです。

先進事例を共有し情報収集する機会の必要性

杉本 とはいえ、一般の企業にとって、先進事例や同業他社の取り組みを知るのは限界があるのも事実です。情報収集の手段としてはどのようなことを活用したらいいのでしょうか。

長野 今回の「はたらく人ファーストアワード」のようなイベントは、情報収集にはすごく役に立ちますよね。受賞企業がどのような努力をしてきたのか、具体的に知ることができますから。

企業の経営者は、どうしても自分が「経営しやすい」視点に固まりがちです。だからこそ、世の中ではどういう経営が評価されているのか知ることが、新しい経営視点を取り入れるきっかけにもなると思います。

杉本 後藤さんは「はたらく人ファーストアワード」をどう活用すれば、社員のはたらきがい向上に役立つと思いますか。

後藤 このアワードの大きな目的のひとつとして、ユニークで効果的な取り組みを共有してもらうというのがあるので、まずはぜひ他社事例を参考にしてもらいたいというのがあります。

それだけでなく、先ほどからお話しているようにコンピテンシーのように組織の特徴によっても施策を変えたほうがいいという知識を得ることも、プラスに役立つはずです。

企業に刺激を与え、「はたらく人ファースト」のカルチャーを

杉本 最後にミイダスのシステムや今回のアワードなどを通じて、社会にそんな影響を与えて、どう変えていきたいのかを聞かせてください。

後藤 中小企業を含め多くの企業が使いやすいよう「はたらく人ファーストアワード」に参加するのに必要なエントリー費や従業員のはたらきがいがわかる「はたらきがいサーベイ」の利用費は一切無料にしました。

重要なのは、「はたらく人ファースト」で考える会社が、社会で競争力を得られるようになることです。そうすると、世の中に「はたらく人ファースト」なカルチャーがもっと浸透していきますよね。今回のアワードをそのひとつのきっかけにしていきたいと思っています。

長野 あらゆる従業員がいろいろな事情を抱えています。そういうすべての人たちが個々の実力を発揮しやすい職場環境にすることは、その企業だけでなく日本全体にとっても大きなメリットです。だからこそ、やるべきことをやっている企業を評価する場があることが重要です。このアワードが多くの企業に刺激を与えて、動かすことになっていってほしいですね。

ミイダス後藤社長

ミイダス株式会社代表取締役社長・後藤喜悦
1979年、宮城県石巻市生まれ。2004年に立命館大学経済学部を卒業後、日興コーディアル証券(現:SMBC日興証券)などを経て、2006年、インテリジェンス(現:パーソルキャリア)に転職。dodaの求人広告営業を経験後、石巻市における被災者就労支援事業のプロジェクトマネジャー、人材紹介事業の営業マネジャーなどを歴任する。2015年、社内の新規事業コンテストを勝ち抜いた「ミイダス」を事業化。2019年、ミイダス株式会社を設立。

長野智子さん

キャスター/ジャーナリスト・長野智子
1985年株式会社フジテレビジョンアナウンス部に入社。1995年の秋より渡米。ニューヨーク大学・大学院において「メディア環境学」を専攻し、人間あるいは歴史に対して及ぼすメディアの影響について研究した。1999年5月修士課程を修了。2000年4月より「ザ・スクープ」(テレビ朝日系)のキャスターとなる。「朝まで生テレビ!」「ザ・スクープスペシャル」「報道ステーションSUNDAY」「サンデーステーション」のキャスターなどを経て、現在は自らも国内外の現場へ取材に出る傍ら、国連UNHCR協会報道ディレクターも務める。

ツギノジダイ編集長

ツギノジダイ編集長・杉本崇
1980年、大阪府東大阪市生まれ。2004年朝日新聞社に記者として入社。事件のほか、医療と科学技術分野を中心に取材を続けてきた。町工場の工場長を父に持ち、ライフワークとして数々の中小企業も取材を続けてきた。

オンデマンド動画ウェビナー

人材活躍が業績向上や顧客満足度アップにつながる
“はたらく人ファースト”な企業とは

ミイダス_ウェビナー_差し替え

当日はミイダス株式会社代表取締役社長後藤よりアワードについて説明するだけでなく、ツギノジダイ編集長杉本崇氏、ジャーナリスト 長野智子氏も交え「はたらく人ファースト」についてそれぞれの視点から意見を交わす予定です。

はたらく人ファーストアワード

はたらく人ファーストアワード2023

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