2023年、焼酎の歴史に新たな光が当たりました。全米最大の蒸留酒品評会「サンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティション(SFWSC)」。三和酒類の本格麦焼酎「いいちこ」ブランドの頂点に立つプレミアム商品「いいちこフラスコボトル」が、焼酎カテゴリーで史上初となるプラチナ賞を受賞したのです。
プラチナ賞は5, 500を超える銘柄が集まるSFWSCの中でも、3年連続で最高金賞を獲得した銘柄だけに贈られる特別な栄誉です。さらに2023年は、「いいちこ」と同じく麹が原料の和のスピリッツ「TUMUGI」をホワイトオークの新樽で貯蔵した「TUMUGI NEW OAK CASK STORAGE」も部門最高賞を受賞しました。
日本人にとってなじみ深い焼酎のおいしさや麹の魅力が、世界に広がっています。焼酎文化の現在地、そして未来に迫ります。
(※この記事は2023年10月に公開しました)
海外の人々をも魅了する、和食と焼酎のマリアージュ
1910年(明治43年)創業の東京・浅草にある「寿司初總本店」。浅草という場所柄、観光やビジネスの外国人も多く訪れる人気店です。
美しい白木のカウンターが鎮座する店内に、さりげなく華を添えるのは、美しい形と透明感が目を惹く「いいちこフラスコボトル」。「外国人のお客様からの『あのきれいなボトルは何?』という質問から会話が弾み、焼酎を飲んだことがない方にもおすすめしています」と語るのは、代表の猪狩勇人さんです。
スタッフ全員で行ったという試飲の際、「いいちこフラスコボトル」ならではのすっきりとクリアな味わいに、猪狩さんは寿司との相性の良さを確信したそう。「素材の味を引き立て、赤身や白身などどんなネタにも寄り添ってくれる。そんな懐の深さも気に入っています」と、猪狩さんの表情もほころびます。
ボトルデザインの美しさから会話が始まり、そこから焼酎の世界の扉が開く。寿司、そして和食が、焼酎文化の発展をさらに押し広げてくれる存在であることを、改めて教えてくれます。
「いいちこフラスコボトル」の受賞を機にゼロから挑んだ米国進出
「いいちこフラスコボトル」が誕生したのは、1998年(平成10年)。発酵工学の研究者としての顔を持つ現取締役会長の下田雅彦さんが、当時開発担当者として携わっていました。
下田会長が当時を振り返ります。「『最高級のいいちこをつくる』という旗印のもと開発がスタートしました。着想としては日本酒の吟醸酒です。そこで、45〜50%磨いた高精白の麦、さらには大麦麹だけを使った全麹造りで、低温発酵させています。すっきりと澄んだ味わいの中に、深いコクが感じられる。美しいボトルを含め、理想とする最高の1本ができました」
日本酒蔵として始まった三和酒類にとって、日本酒は原点。日本酒製造のノウハウを麦焼酎に掛け合わせ、完成したのがこの「いいちこフラスコボトル」です。
「いいちこフラスコボトル」は、発売と同時にその珍しいボトルデザインと、全麹造りの贅沢な味わいから注目を集めます。次に大きく潮目が変わったのは、発売から時を経て2013年のこと。アメリカの蒸留酒の品評会「アルティメット・スピリッツ・チャレンジ(USC)」で、部門最高賞のチェアマンズトロフィーを受賞したことでした。初出品にして快挙。社内は大いに沸いたそうです。
当時、海外営業部として出品手続きなどの先頭に立っていたのが、現在、海外営業部営業課課長の宮﨑哲郎さんです。「受賞を足がかりに、2013年にiichiko USAを設立し、その翌年には私が現地駐在員として渡りました。ただ、受賞したからといって前途洋々な船出とは行きませんでした」と宮﨑さんは当時の思いを巡らせます。
現地でも受賞が話題になったものの、米国内では商品を買ったり、飲めたりする場所が整備されておらず、日本酒に比べて焼酎の認知度はいま一つ。受賞で得た機運を生かすには、流通などの地盤固めが急務だったと言います。
「日本は食中酒に蒸留酒を飲みますが、アメリカでは一般的に蒸留酒はバーで飲むもの。だから現地のバーテンダーとのコネクションを構築することが重要な課題でした。駐在の当初は日本酒が歩んできた道に倣い、まずは和食のお店から開拓を始めましたが、その特性の違いに気づいてからは照準をバーにシフトし、一軒一軒、本当に草の根運動でした」
その後、2019年にはジンやウォッカなど世界のスピリッツに勝負を挑む形で、カクテルベースの麦焼酎「iichiko 彩天」を海外限定で発売。この武器を手に、快進撃が始まり、現在ではトップバーを中心に全米500店舗以上のバー、レストランで取り扱われています。
「いいちこ」ブランドが切り開いた世界への確実な第一歩。焼酎文化が世界へ広がりを見せていく中で、世界の潮流の後押しもあり、日本の食文化を支える「麹」にもスポットライトが当たり始めます。少しずつ、しかし着実に一歩ずつ。麹に対する理解も進んでいきました。
和のスピリッツ「TUMUGI」を世界のスピリッツに
国内向けのカクテルベースとしては、2015年に「TUMUGI」が発売されました。全麹造りの本格麦焼酎に大分のかぼすやミント、四国のゆずなど5種類のボタニカル素材を加えた日本発のスピリッツ「WAPIRITS(和ピリッツ)」です。
そして、SFWSC 2023では「TUMUGI」が金賞、さらに「TUMUGI」をホワイトオークの新樽で貯蔵した「TUMUGI NEW OAK CASK STORAGE」が、最高位である部門最高賞を受賞しました。
受賞の知らせを受け、開発に携わった岡本晋作さんは、「麹でつくったお酒が世界で評価されたことがとてもうれしいです。TUMUGIは、世界4大スピリッツ(ジン、ラム、ウォッカ、テキーラ)へのいわば挑戦状。この4つのスピリッツが持ち合わせていない香味や風味をTUMUGIに設計し、現在のカクテルベース界に割って入るべく開発しました」と意気込みます。
さらに、開発する上で特に難しかった点をお聞きすると「お酒単体としても、カクテルにしても、お酒の特徴(麹フレーバー)がしっかり感じられる味わいを引き出すこと」。麹の豊かな香りと、丁寧に引き出されたボタニカルの素材の風味が、カクテルにしても“割り負けない”個性を放っています。
そんな「TUMUGI」の魅力を発信するアンバサダーの1人が、東京・西新宿の「バー ベンフィディック」のオーナー鹿山博康さんです。鹿山さんが「唯一無二の魅力がある」と語る「TUMUGI」を、実際にバーではどのように提供しているのでしょうか。
「海外の方には、まず小さめのグラスに入れてテイスティングをしてもらいます。特に欧米の方は麹に馴染みがないので、特有の香りとコクに感動される方が多いですね」と鹿山さん。「Asia's 50 Best Bars 2023」で4位に輝くなど、世界から注目を集める「バー ベンフィディック」。多くの外国人観光客が訪れ、様々なTUMUGIカクテルを提供してきました。
「TUMUGIを使う際は、日本らしさを意識しています。この日本らしさは海外の方にはもちろん、逆に日本の方にも新鮮に映ることがあるんですよ」と鹿山さん。さっそく「TUMUGI」にレモンジュース、シュガーシロップ、ソーダ、さらには楠の葉で香りを添えた創作カクテル「麹と森」を作ってくれました。楠と麹が重なったスーッとした爽やかな香りが鼻を抜け、麹の豊かな味わいが口にひろがります。
宮﨑さん曰く、海外のバーテンダーは、良くも悪くも焼酎に先入観がなく、「良いものは良い」と受け入れる土壌がある。その一方で、まだ日本のバーでは和酒が避けられる傾向が強いと言います。
そんな中、日本のトップバーテンダーである鹿山さんが和のスピリッツである「TUMUGI」に惚れ込み、日本らしさのある一杯に仕立て、お客さまに提供する。鹿山さんのような存在が1人、2人と増え、バックバー(バーの棚)に並ぶ和酒が増えれば、焼酎文化の可能性をさらに押し広げてくれるのではないでしょうか。
麹に世界最高峰のレストランも注目 今や“KOJI”は世界共通語に
そして、麹文化への世界の認識は、ここ4、5年でガラリと変わったと言われています。デンマークの「noma(ノーマ)」など世界的な有名レストランが麹を料理に使い始めたほか、近年の和食ブームに後押しされ、麹文化が各地へと伝播。「アメリカでは『KOJI(=麹)』という言葉が通じるまでになりましたよ」。アメリカで焼酎の販路拡大に挑んだ宮﨑さんは熱量高く話します。
三和酒類では2014年、麹の新たな可能性を探る『麹プロジェクト』を立ち上げました。下田会長の思いもひとしおです。「当時はまわりからなかなか理解を得られませんでした。外国人に『麹(コウジカビ)=カビの一種』だと熱心に説明すると、一瞬にしてそっぽを向かれた時代ですからね。時代は変わり、今では海外で麹という言葉が通じる。自分たちの頑張りを誇らしく思います」。
今後、焼酎をはじめ、日本の食文化の存在が、麹文化の広がりを加速させていくでしょう。そして、三和酒類が麹文化を広めた立役者であることに世界が気づく日も、そう遠くはないかもしれません。
(文・野口奈津 写真・山田英博、内藤正美、山田秀隆)