2024年、朝日新聞社が中心となり実施する「地域事業イノベーションアワード」(特別協賛:三菱商事)。人口減少や少子高齢化、経済縮小など、さまざまな課題を抱える地域と、それらの課題解決に取り組む大学生・大学院生をつなぐことで、よりよい循環を生み出すことを目指したプロジェクトだ。

地方創生に見識が深く、このプロジェクトの企画にもかかわる株式会社LRN(ラーン)代表の菊池紳さん、YET代表、株式会社リ・パブリック ディレクターの内田友紀さんによる対談の後編は、地方創生のフェーズ3で地域に起きている変化や、アワードの参加者への期待を語ってもらった。

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各地で社会実装が進みつつある
新しいエネルギー技術

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菊池紳さん(右)と内田友紀さん(左)

菊池 今、日本は、少子高齢化、人口減、景気後退など、さまざまな問題を抱えています。農林水産業を含め、国内産業の基盤が揺らいでいることも、そうした問題の一つです。

例えば、農業では、肥料、農薬、燃料など、必要とされる多くのものを海外に依存しています。肥料や燃料にいたっては、ほぼ100%を輸入に頼っているのです。

そのため、今回のウクライナ紛争のようなことが起きて、ひとたびサプライチェーン(供給網)に問題が生じると、農業者の皆さんが使っている資材や燃料などの価格が信じられないほど高騰してしまいます。だからといって、農産物に価格転嫁するのも容易ではありません。地域産業と呼ばれる多くが、実は海外に依存しているという現状は、日本の国内産業の構造的な課題です。

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外部依存度の高すぎる産業というのは、やはり厳しいところがあります。地域の資源を再発見して、それを産業にうまく利用する方がリスクは分散でき、持続可能性は高くなる。原料やエネルギーを国内で一部または全部を作り出せて、場合によってはそれを海外にも供給できるような世界観を思い描いてもよいはずです。私自身は、そんなことを考えながら、日本中を回っています。

そうしたなかで、北海道で地熱を使って、時期をずらして農作物を栽培している農業者に出会いました。処理場の排熱を利用して、マンゴーなどの農作物を育てている方も知っています。風力発電もどんどん増えて、日本各地でエネルギーの自給体制が急速に整備されています。補助金など、国や自治体のサポートもあって、長年の研究が実を結び、新しいエネルギー技術がいよいよ社会実装フェーズに入ったことを実感しています。

自治体や大企業の姿勢からも、新しいエネルギーを国内で作って供給していこうという意気込みが見てとれます。大きなインフラやエネルギーに関するイノベーション、産業の構造的な問題を解決するためのアプローチが現れ始めたこともまた、地方創生や地域の社会課題解決のフェーズ3の特徴といえそうです。

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地域のパートナーの世代交代とともに
価値観にも変化が

菊池 地域の構造的課題解決への取り組みに関して、内田さんはどう見ていますか?

内田 やはり、エネルギーの供給については、各地域で議論が続けられている課題の一つだと思います。例えば電力なら、有事の際に、代替電源で一定時間担保するようなオフグリッドエリアを、電力会社網と連携して作っている地域もあります。日本は地政学的にエネルギー供給のリスクが高い国といえるので、非常時にライフラインを維持するためにも、また地域の自立を担保するためにも、いわゆる分散型エネルギーシステムの検討を進めることが重要です。

その場合の主なリソースとなるのが、先ほどのお話にあった地熱や風力、波力・潮汐(ちょうせき)力などの再生可能エネルギーです。それをいかに社会実装していくか、各地域は試行錯誤しています。エネルギーの地産地消に本気で取り組む自治体は確実に増えているものの、何か一つのリソースですべてをまかなえるわけでもなく、決まった答えもない状況なので、システムもリソースも柔軟に組み合わせていく必要があります。

菊池 ここのところ、再生可能エネルギーの利用や資源の循環に取り組む組織や個人が、どんどん増えていますよね。

内田 気候変動の問題が待ったなしになっている今、大企業からスタートアップまで取り組みが加速していますよね。個人も若い世代ほど、より強い危機感を持っているように感じます。

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内田さんが携わる、福井市で開催された「XSCHOOL」でのワークショップの様子。福井の培ってきた歴史や産業などの資源を生かしながら、未来に問いを投げかけるプロジェクトに、大勢の参加者が集った。

菊池 地域で活躍する世代の若返りを感じます。内田さんは地域の人と協働する機会も多いですが、世代交代の波は感じますか?

内田 大量生産・大量消費の次の世代が、地域のパートナーやキーパーソンとして、主要なポジションに就き始めている気がします。単に年齢が若返ったというよりも、価値観が変化しているのを感じます。そうした人たちが外部の人々ともパートナーシップを組んで、イノベーションや新たな価値の創造に取り組むと、興味深い方向に活動が広がることが多いです。

先日、鹿児島県で循環デザインに関する国際会議を開催したのをきっかけに、地元の地域商社の人たちと知り合いました。その地域商社は、エネルギーから流通まで、地元のあらゆる産業に深くかかわっています。そこで働いている方は国内外で学問を修め、ビジネスに携わってきた人も多く、地域で培ってきた信頼とグローバルネットワークを生かし、ここ数年で、ビジネスも地域社会貢献も一気に広げていました。そのスピード感とダイナミックさには驚かされました。

最新のテクノロジーによって、
地域の資源を再発見する

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菊池 そのローカル・トゥ・グローバルのダイレクトチャネリングは面白いですね。

内田 私自身、そういう世界に早くなってほしいと、学生のころから望んでいたので、ワクワクしています。

菊池 地域があって、国があって、海外にまで徐々に波及していくのではなく、地域と海外とが一足飛びに直接つながる設計にさまざまな可能性を感じます。

内田 地域と海外、それぞれがリソースを持っていて、価値を創造することができるんですよね。それから、地域と海外が実際につながったときには、地域経済、地域に住む人々の生活像に与える影響は、非常に大きいものがあります。

菊池 今、世界で、SDGsやサステナビリティ、生物多様性などの議論が活発化していますが、その最前線は、資源に密着しているところ、特に“地域”にある気がしているんです。グローバルトピックがローカルトピックであり、ローカルインパクトの蓄積がグローバルインパクトになる。こうした世界設計こそが、地域ビジネスの可能性と信じています。

内田 菊池さんと同じように感じる人が多いからこそ、地域で仕事をしたいと考える人が増えるとともに、層も広がっているのでしょうね。

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菊池 そうだと思います。資源の話を一つすると、日本の森林資源量はどんどん上昇しています。なぜなら、安価な木材を海外から輸入して、国内の木材を使用しないからです。木というのは、セルロースの固まり、つまり炭水化物・多糖類です。そこで、ある技術を用いて、木を分解し、牛の餌を作っている企業があります。

これまでは日本の山の木には、畜産用の飼料としての資源価値はありませんでした。ところが、最先端のサイエンスやテクノロジーが活用されることによって、それが資源化できるようになったということです。

Aという資源に、Bという最新テクノロジーを掛け合わせて、資源を再発見する。そうして発想を広げていく機会を増やすと、日本の地域からはまだまだ宝の山を掘り起こせるのです。そのためにも、次の世代の人たちには、ITに限らず、化学も含め、科学全般に幅広く興味を持ち、学びを深めてほしいですね。

内田 実際に、大学で研究を重ねてきた技術を使って、土壌の改善や肥沃(ひよく)化、海藻の養殖などに取り組んでいるテクノロジースタートアップ企業がいくつもあります。まさに、最新の科学技術を生かして、地方の資源を産業化しようと試みているのです。地域の方と一緒に会社を作ったり雇用したりして、働く機会を広げている会社も。地球にも、地域にも良いビジネスに取り組む会社が、一気に日本全国、さらに海外にまで展開するなど、そのダイナミックな活動には目を見張らされます。

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地方創生のフェーズ3を特徴付ける
ダイナミックな活動

菊池 ダイナミックさは、地方創生のフェーズ3の特徴の一つですよね。地域の環境的、社会的、人間的な持続可能性を維持しながら、グローバルにインパクトを与え得る仕組みを構築し始めている。こうした点は、今までの地方創生や地域の社会課題解決にはほとんど見られませんでした。

正直なところ、私は、コロナ禍の直前ぐらいまで、地方創生や地域活性化に少々飽和感を覚えていました。インバウンドが右肩上がりだったこともあり、どの地域でも民泊、農泊といったローカル観光やそれに続く地域物産など、日本中に同じようなものがあふれていたからです。

しかし、コロナ禍が一段落し、SDGsやサステナビリティ、生物多様性などの議論がさらに深まるなかで、地域の持続可能性に基づいた活動はグローバルインパクトを与える活動でもあることが明らかになってきました。さらにそれをけん引するのが若い世代であることに新たな可能性を感じています。

もちろん道半ばではありますが、ステークホルダー(利害関係者)ときちんと対話して、協力しながら、そうした活動を進めている若い世代を心強く感じます。地域事業、地域産業がグローバルビジネスとなり得る時代は、もう来ていると思います。

アワードをきっかけとして、
地域にかかわり続けてほしい

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菊池 今回の地域事業イノベーションアワードが、地方創生や地域の社会課題解決の啓発の役割を果たすのはもちろん、実践し、ステップアップするための登竜門、また同じ志を持つ人たちがつながる場として機能することを望んでいます。

それから、地域事業イノベーションアワードに参加する皆さんには、このアワードへの応募だけで完結してほしくない。その後も、何らかの形で、地方創生、地域の社会課題解決にかかわり続けてほしいんです。それは、起業という形でなくても構いません。企業や自治体にいても活動は続けられます。補助金や協賛などを得て、プロジェクトとして続けていくのも、一つの方法です。私たちも、さまざまな形で、参加者の皆さんをサポートしていくつもりです。

内田 今、社会で語られている課題が大きすぎて、1人でできることは限られていると感じている人もいるかもしれません。ですが、だからこそ、共に活動していける人との出会いがとても大切です。フィールドリサーチの過程で、地域や行政・地元の企業、同じ学生たちなど、さまざまな人と積極的にかかわってみてください。出会いも、垣根を越えていく行動や思考自体も、一生の財産になると思います。

菊池 地域の持続可能性というのは、そこにかかわる人たちの持続可能性だといえます。その可能性をどう伸ばして、地域の未来につなげていけるか。地域事業イノベーションアワードをきっかけに、皆さんも第一歩を踏み出してください。

菊池さん、内田さんの対談<前編>はこちらからお読みいただけます。