朝日新聞社が中心となり実施する「地域事業イノベーションアワード」(特別協賛:三菱商事)の最終審査会と表彰式が、2024年3月5日、朝日新聞東京本社読者ホールで開かれました。
初開催となる本アワードには、全国から100件の応募があり、最終候補に選ばれた6組のファイナリストが、壇上で思いのこもったプレゼンテーションを披露。厳正な審査の下、各賞を決定しました。
人口減少や産業の衰退など、地域は様々な社会問題を抱えています。そうした地域課題と向き合っている大学生、大学院生を対象にビジネスプランやアイデアを募集。自治体との連携をサポートしつつ、社会実装の支援まで担うことで、地域創生の推進を目指すものです。グランプリは賞金100万円。
制限時間は5分
各チームが熱いプレゼンテーションを繰り広げる
プレゼンテーションに先立ち、「地域事業イノベーションアワード」に特別協賛する三菱商事の広報部部長代行兼報道チームリーダーの岡本卓馬氏が、ファイナリストたちを激励しました。
「今回、皆さまがご提案されるプロジェクトの概要を拝見し、我々には思いもよらない新しい切り口、アイデアが詰まった素晴らしい魅力的な提案ばかりで、驚かされると同時に、次世代を担う若いエネルギーを非常に頼もしく感じています。今回、このアワードに挑戦されたことによって、同じ志を持つ多様なメンバーとの出会いや、アドバイザーの皆さまとのつながりが得られるでしょう。そのつながりを今後の人生において大切にしてください。このアワードにかかわる一つ一つが皆さまの今後の財産となることを祈念しています」
いよいよ最終審査会がスタートすると、プレゼンテーションのために壇上に立つ学生はもちろん、彼ら、彼女たちを見守るほかのファイナリストたちも緊張感に包まれます。それぞれ、プロジェクトの内容に関する5分間のプレゼンテーションを終えると、次は審査員との間で質疑応答が行われました。審査員たちからの温かくも鋭い質問に対して、飾らず、誠実に答えるファイナリストたちの姿が印象的でした。
グランプリ:aimochi ―世の中は相持ち―
[登壇者]大曽根里桜さん(和歌山県立医科大学)、湯川舞夢さん(追手門学院大学)、前谷駿輔さん(関西大学)
「産後うつに苦しんでいた叔母の姿を見て、同じようにつらい思いをしているお母さんお父さんたちのために何かをしたい」。こう話をしてくれた、和歌山県田辺市の中学1年生、坂倉朱音さんの思いに私たちが共感して、このプロジェクトは生まれました。未来の当事者である私たちから、父親、母親だけでなく、地域社会全体で支える子育てを実現していきたい。この「aimochi」をまずは田辺市から始めます。
具体的には、産前から子育て家庭と支援者をつなぎ、子育ての孤立化を防ぎます。産前には妊婦と支援者がつながるイベントなどを行い、産後には顔見知りの担当の支援者が子育て支援を行います。プロジェクト名の「aimochi(相持ち)」には、「一緒に持つ」「代わり合って持つ」という意味が込められています。
[登壇者のコメント]
「2023年の1月から、メンバーと一緒にこのプロジェクトに取り組んできて、それをアイデアとしてまとめた段階で評価していただき、グランプリを受賞できたことは、とてもうれしいです。今回の受賞で、プロジェクトの実現にまた一歩近づけた気がします」(湯川さん)
「それぞれ分野は違いますが、いろいろな興味を持ち、地域をよくしたいという共通の思いを抱えている皆さんとお会いして、仲間がたくさんいるのだとあらためて心強く感じました」(大曽根さん)
「今回のアワードに参加し、ほかのファイナリストの皆さんのプロジェクトも魅力的なものばかりで、大いに刺激を受けました」(前谷さん)
[審査員からの講評]
「出産、子育ては地域社会の根底にある課題となっており、官民、個人も本当に頭を悩ませています。それに正面から向き合っていこうとする本プロジェクトは、インパクト、スケールともに大きなものです。自治体の諸機関など、連携先の解像度が高く、出産のビフォーからアフターまで継続的な支援を目指している点も素晴らしいですし、このプロジェクトが皆さん自身の未来を救うことにもなる、という点にも共感しました。一つの地域で実践し、形になれば、ほかの都市にも展開、普及できる可能性も高そうです」(審査員・YET代表、株式会社リ・パブリック ディレクター・内田友紀氏)
準グランプリ:東京大学間伐自動化プロジェクト
[登壇者]長谷川恭平さん(東京大学)、家門慶人さん(東京大学)
森林の有効活用のためには、間伐等の整備が欠かせません。しかし、木材の伐採や搬出などの作業には危険が伴い、コストもかかるため、十分に整備が進んでいないのが現状です。間伐したまま放置された木材は様々な問題を引き起こします。
そこで我々は、林業の人的・経済的な負担を軽減する新しい間伐材の搬出方法の提案を目指して、伐採補助ロボット、木材搬送用ドローンの技術開発や仕組みづくりを進めています。
[登壇者のコメント]
「まさか受賞できるとは思っていなかったので、本当に驚いています。今のところは軽量なものしか運べないドローンですが、今回の受賞を糧に開発を加速し、将来的にはより大きな木材を大量に運べるようなものを作り上げます」(長谷川さん)
「ファイナリストの皆さんの志の高さに刺激を受け、様々なアイデアに触れることもできて、とても有意義な時間を過ごせました」(家門さん)
[審査員からの講評]
「技術的に素晴らしく、早期の実装化を望みます。そのためには、地域の森林組合などのステークホルダー(利害関係者)と理解を深めながら協働し、さらに開発・実装、事業化に向け採算性を高める必要があるでしょう。水源涵養(かんよう)力によって防災面で果たす役割も含め、森林は大きな可能性を秘めています。日本の林業に光をもたらすようなプロジェクトに育っていくことを期待しています」(審査員・株式会社TREE 代表取締役・水野雅弘氏)
特別賞:ジオバクタープロジェクト ~運ばない電気でoff GRID農業~
[登壇者]平田大空さん(宮崎大学)
ジオバクターとは、有機物を分解する際に電子を発生させる微生物の一種です。そのジオバクターに家畜糞尿(ふんにょう)を分解させて発電を行う「微生物燃料電池」の研究を進めています。「微生物燃料電池」の普及と、その発電によって家畜小屋や農業用ハウスの暖房の電力を賄う「オフグリッド」な農業を営むことで、「家畜糞尿」という、宮崎県の社会課題の一つを解決することを目指します。
[登壇者のコメント]
「発表を楽しむことだけを考えていたので、特別賞までいただけたのは望外の喜びです。『微生物燃料電池』の存在を皆さんに知っていただくこと、その情報を発信することも、今回のプロジェクトを立ち上げた大きな目的の一つでした。まずはそれが達成できたのではないかと安堵(あんど)しています」(平田さん)
[審査員からの講評]
「『大量発生、大量消費、大量廃棄をいつまでも続けていていいはずがない。オフグリッド、この言葉がこれからの社会のキーワードになるのではないか』。我々、審査員一同も、まさにその通りだと考えています。研究開発にまだ時間を要する技術かもしれませんが、開発費用の調達も含め、多くの人たちからサポートを受けられる体制を整え、社会課題の解決に向け、プロジェクトを推進していただくことを望んでいます」(審査員・一般社団法人Green innovation 代表理事・菅原聡氏)
ファイナリスト:「茶のりくん」で畜産業を変える
[登壇者]南方裕生さん(信州大学)、藤川奈々さん(名古屋大学大学院)
静岡県内で廃棄されている茶殻と駿河湾に生息している海藻の一種カギケノリを用いて、低価格・高品質・低環境負荷の肉牛用飼料「茶のりくん」を製造し、飼料価格の高騰、脱炭素対策などで苦境にある静岡県富士宮市の畜産業の回復・発展につなげるプロジェクトです。富士宮市で循環型モデルを構築し、それをロールモデルとして各産地へ展開することで、日本全国の飼料変革、畜産業活性化、持続型社会の実現に貢献します。
[登壇者のコメント]
「受賞はなりませんでしたが、ファイナリストに選ばれたことは光栄です。今日、同志といえるような方たちとかかわって、地域の社会課題の深刻さにあらためて気付かされると同時に、それと向かい合っているのが自分たちだけではないことに勇気をもらいました。新たな気付き、ワークショップでの学びを生かせるように、今後も頑張ります」(南方さん)
ファイナリスト:どこでもデジタル保健室「e-place」
[登壇者]戸簾隼人さん(滋賀大学大学院)
コロナ禍で増加した生徒の多様な悩みや相談に対して、生成AI(人工知能)、VR(仮想現実)、IoT(モノのインターネット)をはじめとするデジタル技術を駆使することで、リアルとデジタルの両面からサポート可能な次世代型保健室の設置を実現し、保健室スタッフの業務改善、生徒が安心して過ごせる環境づくりにつなげます。立命館守山中学校・高等学校をモデル校として実証を進める「デジタル保健室」で得られた成果をパッケージ化して、滋賀県内から全国の教育機関への展開を目指します。
[登壇者のコメント]
「この最終審査会でのプレゼンテーションを通して、皆さんの地域に対する熱い思いが伝わってきました。私たちのプロジェクトはソリューションベースで生まれたものですが、私自身、もう一度地域を見つめ直して、新しい取り組みについても考えてみたいという意欲が湧いています」(戸簾さん)
ファイナリスト:SKIP〜Silicon Valley Keio International Program〜
[登壇者]千頭玲さん(慶応義塾大学)、王博之さん(慶応義塾大学)、中村健人さん(慶応義塾大学)
地域の職人や経営者などの人々を登録し、地図とその人の特徴から利用者がアクセスできるウェブサイト「ひとログ」を作成。現在主流の場所を訪れる観光ではなく、人を訪ね、その人と過ごす体験をサービスとする新しい観光のスタイルを提供します。地域において未活用である「人」を観光資源として、地方創生に貢献するのが、このプロジェクトの目的です。
[登壇者のコメント]
「地域創生に力を注いでいる方だけが集まるようなアワードに初めて参加し、同世代の方々が現地に赴き、頑張って活動されていることを知り、良い刺激をいただきました。皆さんの背中を見て、あらためて自分たちも頑張ろうと思えたのが、何よりの収穫です」(千頭さん)
「どんな仲間が必要?」
実装フェーズで必要なことを考えるワークショップ
プレゼンテーションが終わり、審査員による最終審査が行われている間、学生たちは、株式会社LRN(ラーン)代表の菊池紳氏がファシリテーターを務めるワークショップに参加しました。同じプロジェクトのメンバーが一緒にならないように3~4人のグループをつくったら、まずは「Impressive Introduction」がお題として与えられます。これはエレベーターピッチとも呼ばれるそうで、20秒間で記憶に残り、関心を持ってもらう自己紹介をするというもの。
各々工夫を凝らした自己紹介をした後は、「仲間づくり」についてのディスカッションです。プロジェクトを広げていくときにどんな仲間が必要か、どうやったら仲間になってもらえるかのアイデアをグループ内で出し合いました。
ワークショップを通じて菊池氏は、仲間づくりにおけるマルチステークホルダーの考え方がいかに大切かを伝えました。プロジェクトの推進、事業化には欠かせないものであり、今後、活動していく上で大いに役立つことでしょう。
「これからも実感を込めたメッセージを発して」と総評
表彰式を終え、最後に朝日新聞社ソーシャルソリューション部の堀内隆部長が審査員を代表して総評を述べました。
「規模感があまりにも大きい社会課題については、自分たちだけでは手に負えないことが多いため、いかに人を巻き込んで、様々な人たちのかかわりの中で解決していけるかがカギとなります。そこで大切になるのが『言葉』です。単にきれいに、美しくつくられた言葉ではなく、地に足の着いた思い、実感を込めたメッセージを発することができるかどうか。その言葉が、協働したい、応援したい、一緒に取り組んでみたいと、周囲の人に思わせるのです。
本日、お集まりいただいた皆さんは、素晴らしい言葉の力を持っていらっしゃいます。正直なところ、聞きほれました。ですから、受賞された方も、されなかった方も、それぞれ自信を持って、今後も取り組みを続けてください。私たちも、伴走できるところはしっかり伴走し、皆さんを応援していきます」
秋田での体験を通じて、多くの刺激を受けた3日間
3月下旬、地域事業イノベーションアワードのファイナリストに選ばれた学生たちが、秋田で行われた2泊3日のスタディツアーに参加しました。
男鹿市では、地域の活性化にも取り組むクラフトサケ醸造所「稲とアガベ」を見学し、地域密着で事業を展開する社員の方々の思いに触れました。五城目町では、地域事業者との交流や意見交換を通じて、移住者や地元の起業家、住民らが一体となり、自然発生的に地域を盛り上げるチャレンジが広がる、好循環を生むまちづくりを学びました。
参加した宮崎大学の山﨑愛美華さんは、五城目町の取り組みに対し「住民が自発的にイノベーションに参加したくなるような仕組みがとても画期的だと思った」と話し、東京大学の家門慶人さんは「自分のプロジェクトとはまた違った地域の課題、価値に触れられて、貴重な体験になった」とスタディツアーを振り返りました。
ほかにも秋田を拠点に活躍する地域の方々から様々な話を聞き、リアルな体験を通して感じたことを「自分自身の活動に生かしていきたい」と、それぞれ今後に向けた意気込みを語りました。