人々の知識と福利の向上のために独創的なプロジェクトに取り組むパイオニアたちを支援する「ロレックス賞」の2023年度の受賞者5人が先の2月に発表された。受賞者たちが挑んでいるのは「未来の世代のために地球を守り、生活を向上させるためのプロジェクト」。 大きな挑戦に立ち向かう勇気と強い信念を持つパイオニアたちの取り組みを紹介する。
コンスタンティーノ・アウッカ・チュータスさん
植樹でアンデスの森林を再生
ペルー人の生物学者コンスタンティーノ・アウッカ・チュータスさんはアンデス山脈の高地で先住民コミュニティーと協力し、地域の森林再生と固有の生態系の保護活動を行っている。携わった植樹はペルーだけでも450万本にのぼる。
大規模な森林の再生活動を始めたきっかけは、先祖から代々受け継がれてきた故郷の森林が人間の活動で消失しているのを目の当たりにしたこと。
保護活動グループのアンデス・エコシステム協会(ECOAN)を2000年に設立。これまでに、植樹したところに60以上のコミュニティーが参加する16の保護区をつくった。
また、森林再生活動をアンデス中に広める国際機関である「アクシオン・アンディナ」(2018年に共同設立)の活動はエクアドル、チリ、ボリビア、アルゼンチン、ペルーで行われているほか、さらにコロンビアやベネズエラへも拡大予定だ。
彼によると1100年頃に局地的な温暖化が起こった際、アンデスの人たちは植樹をし、水の供給を確保する運河と棚田のネットワークを築いたという。
先住民たちの伝統的な価値観が、今、森林再生プログラムに応用されている。
「どう考えても問題は人間にあるように見える。だから私たち自身が解決策の一部となれるよう、地元の活動家や先住民コミュニティーと連携するのです」
ベス・コイギさん
大気から抽出してきれいな水を生成
ケニア人の社会起業家ベス・コイギさんは、地球上で最も差し迫った課題の1つである水不足に対して、革新的な技術により解決をはかろうとしている。
清潔な水資源を必要とする人々のために太陽エネルギーを動力源に、大気中から水を抽出してろ過する「大気水生成装置(AWG)」を開発。「マジックウォーター社」を2017年に共同設立して世界中の乾燥地帯に30台の装置を設置し、毎月20万リットル以上のきれいな水を1900人以上に供給している。
大学へ通うために故郷を出たことがきかっけだった。コイギさんは淡水に囲まれたところで育ったが、国土の多くは乾燥地帯で、人々は水を求めて苦労していた。
大気中には地球上の河川を合わせた約6倍の水が含まれており、湿度がわずか30%の時でも人々が飲むために十分な水を集めることができる。
次は、アフリカ最大級の難民キャンプなどでの「ウォーターキオスク」計画を目指している。装置で生成した水を適正な価格で販売する店を立ち上げ、1つの装置が50世帯に飲料類を供給できるモデルづくりだ。
最近のかんばつによって故郷の緑豊かな水路が干上がっていくのを目の当たりにしたコイギさん。将来的には「コミュニティーが自給自足で温暖化に対処できるようになってほしい」と考えている。
インザ・コネさん
地元住民による原生林の管理・保護
コートジボワール人の霊長類学者インザ・コネさんは生物多様性に富む母国の森林で絶滅の危機にある動植物の種を調べ、コミュニティー主導の保全モデルをつくりあげた。
コートジボワール共和国の最南東端に位置し、西アフリカ最後の原生林の一つであるタノエ・エヒには固有種である45種の動植物が生息している。
そんな豊かな原生林が、人間の活動でわずか2%にまで減少してしまったため、彼はここの11の農村とともに2006年に保護プログラムを確立した。
プログラムによって森林はアブラヤシの開発計画から免れ、2021年にはコミュニティーが管理する自然保護区として正式に指定された。「11の村々が共有する遺産の保護のために力を合わせたのです」と彼は語る。
かつて狩猟者だった地元住民の知識を借りつつ、ドローンなどを使った環境モニタリング技術をサポートしているが、ゆくゆくはコミュニティーが独自に森林を管理できるようになることを願っている。
キャッサバ(タピオカの原料として知られるイモ)の農園のようなサステナブルな生活手段の確立を目指し、各農村に教育目的の植物園も設立した。
望みは「タノエ・エヒの森林保護が国境を越えて隣接するガーナまで広がること」
デニカ・リアディニ=フレッシュさん
伝統技術を用いた衣料品で女性の未来を変える
インドネシア人の社会起業家デニカ・リアディニ=フレッシュさんは「farm-to-Closet(農場からクローゼットまで)」再生可能な衣料品の循環システムを通じて、インドネシアの文化を保護し、農村の女性の未来を変えようとしている。伝統技術を用いて衣料品を作る人々に公正な賃金を得られる雇用を生み出してきた。
リアディニさんが起業した「スッカチッタ」(幸福という意味)では、昔ながらの方法で栽培され、天然植物由来の染料で染められた綿を使っている。
村に設立した工芸学校では、女性たちが伝統的な農業と織物の生産技術とともに製品の収益化を可能にするビジネススキルを学び、32カ国の顧客と取引をしている。スッカチッタで働く人々の収入は平均60%も増加した。
「このプロジェクトで、女性と自然を最優先に決断することで何が達成できるのかがわかりました」とリアディニさんは言う。人々に自分の人生を変える機会を与えることが、彼女にとって大きな原動力となっている。
農家、織物職人、裁縫職人たち1400人以上がこのプロジェクトに関わっている。リアディニさんは2030年までにその数を1万人に増やし、荒廃した1,000ヘクタールの土壌を再生させる計画を立てている。
シャオチュアン・リュウ
人工衛星を使って野生のラクダの保護に寄与
中国人の遠隔検知の専門家、シャオチュアン・リュウさんは、宇宙開発で培った技術で絶滅の危機にある野生のラクダの保護に取り組んでいる。
モンゴルと中国にまたがるゴビ砂漠の乾燥平原に生息してきた野生のラクダは現在、約1000頭まで減ってしまった。
リュウさんは中国の月探査機の試運転のためにゴビ砂漠を訪れた2011年、気候変動、生息地の消失、捕食、狩猟、感染症、人間による家畜化や交配などにより数を減らす野生のラクダの窮状を知った。
荒涼とした地域に点在するわずかな野生のラクダの群れの観測は難しい。だが、彼は衛星を使って地球の表面を観察する遠隔検知を操作する自身の技術を使ってこの課題解決に寄与できると感じた。
チームを組んで追跡用首輪を7頭のラクダに装着。
「ラクダがどこへ行き、どこで水を飲み、どのような脅威にさらされているのかを把握することで水資源の保護や保護区域の設定計画を立てられます」
こうした活動がラクダの保護につながることはもちろんだが、リュウさんの視野はさらに広く、ほかの野生動物にも向けられている。
「このモデルをユキヒョウやアムールトラなどの動物に応用し、野生のラクダと同じ危機にさらされる種を減らしたいと思っています」
受賞者たちを継続的に支援するロレックス賞
ロレックス賞は1976年、世界初の防水腕時計「ロレックス オイスター」の誕生50周年を記念して創設された。この賞は、科学技術により世界の環境問題を理解し、生態系のバランスを回復する解決策に貢献する個人や組織を支援するためにロレックスが取り組んでいる「パーペチュアル プラネット イニシアチヴ」の一環で、これまでに160人が受賞してきた。
「環境」「科学と医療」「応用技術」「文化遺産」「探検」のいずれかの分野から、世界的に著名な専門家などから成る選考委員により選ばれた、革新的なプロジェクトを行っている5人の受賞者たちはプロジェクトを実行するための資金の支援が受けられ、過去の受賞者たちのネットワークの一員となれる。
回を重ねるごとに大きくなる受賞者たちのネットワークの中で、多様な分野の人たちが手を取り合い、新たなプロジェクトが生まれることもロレックス賞の大きな特徴だ。
互いの技術や専門知識で大きな影響力を生み出し、近年、最も大きな課題となっている環境分野などで解決策を見いだそうとしている彼らの活躍に期待したい。
【2023年度ロレックス賞受賞者】
https://www.rolex.org/ja/rolex-awards/latest-laureates
【ロレックス賞 日本人受賞者3人の横顔】
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ロレックスの未来のための取り組み
【パーペチュアル プラネット イニシアチヴ】
https://www.rolex.org/ja/environment
ロレックスがサポートする朝日新聞社の自然保護プロジェクト
【SATO 次世代に残したい里】
https://www.asahi.com/ads/sato-perpetual-planet/