新型コロナウイルス感染症やインフルエンザの脅威など、感染症予防への関心が高まる一方、ワクチンに対する正しい理解を進めるにはどうすればいいのか――。この夏、高校生が企業と共に社会課題と向き合う探究インターンは、製薬会社Meiji Seika ファルマの協力で1DAY ワークショップを開催。高校1~3年生21人が参加し、「個人と社会が健やかである未来」の実現に向けて議論し、プレゼンテーションに挑んだ。
感染症とワクチン、どんなイメージがある?
お菓子ではなくて、薬をつくっている会社なの?
夏休みも半ばにさしかかった8月上旬、朝日新聞東京本社(東京都)に集まったのは、関東近郊7校の高校1~3年生21人。ワークショップは、抗菌薬・ワクチンなどの医薬品を製造しているMeiji Seika ファルマの企業紹介からスタートした。
「Meiji」といえば、チョコレート菓子『きのこの山』や『たけのこの里』を製造する明治グループの食品事業会社明治「株式会社明治」をイメージする生徒が多かったようだが、Meiji Seika ファルマ株式会社も同じ明治グループの会社だ。
Meiji Seikaファルマは、抗菌薬やワクチンをはじめとした感染症領域の医薬品を取り扱う企業。国内にはMeiji Seika ファルマだけが製造しているワクチンがあることや、海外子会社で医薬品を製造したり、国内外のメーカーからの依頼を受けて、販売受託を実施したりしていることなどを、社員がスライドを使いながら説明した。
五つのグループに分かれた生徒たちは、自社だけが取り組むワクチン製造への使命感、国ごとの医療事情を踏まえた事業展開に目を見張った。
今回のワークショップのテーマは「感染症とワクチンについて正しく知り、自分たちで考え、現在の課題と解決策を見つけること」
このテーマ設定の背景には、新型コロナウイルス感染症の流行により、さまざまな臆測や偽・誤情報が広まる社会現象がある。こうした状況を踏まえ、Meiji Seika ファルマでは、生活者向けに感染症とその予防の基礎知識などをウェブサイト「やさしい感染症ガイド」を通じて発信しているほか、こうした若い世代への啓発活動に取り組んでいる。
司会進行のファシリテーターが「感染症とワクチンに対するイメージを付箋(ふせん)に書き出してみよう」と呼びかけると、生徒たちは次々にペンを取った。
約5分間で各テーブルには色とりどりの付箋が並んだ。「未知の感染症が流行したら心配」「副反応がこわい」「大事なイベント前の安心材料」といった感情にもとづくものや、「隔離」「マスク」「休校になる」「クラスターに注意」など、コロナ下での体験を想起させるものもある。
続いてグループワーク。それぞれが書いた付箋を類似した内容ごとに分類していく。和やかに会話し「これは近いかもね」と振り分けたり、新たに思いついたイメージを書き出したり。メンバーの考えが少しずつ整理されていく。
なぜワクチンは身近にならない? 議論を深めよう
グループでイメージを共有した後、ファシリテーターが生徒たちに問いかけた。「感染症やワクチンについて、最近考えていた人はいる?」。誰の手も挙がらない。
そこで今度は、書き出した感染症とワクチンに対するイメージをもとに「なぜワクチンが身近なものにならないのか」について考えを書き出し、議論を進めた。
ワークの合間には、議論を深める材料として、ワクチンに関する基礎知識を共有するためのレクチャーが2回あった。1回目のトピックは「ワクチンとは何か」。
ワクチンは、接種することによって、病原体に対する免疫がつき、感染症にかかりにくくなったり、かかった時にも症状を軽く抑えたりすることができるものだ。一定割合以上の人が免疫を持つ「集団免疫」によって、感染症の広がりもおさえられる。だが、世界では気候変動などによって新たな感染症が次々と流行し、グローバル化による人の移動でその拡大も速くなっていること――。そんな情報をファシリテーターがデータと共に紹介した。
メモを取りながら聞いていた生徒たち。その後のグループワークでは「健康な時って、予防意識が薄れがちだよね」「薬を飲めばいいって思う人も多そう」と会話が広がった。
中間発表では、ワクチンが身近なものにならない課題について、グループごとに出た意見を参加者全員の前で披露した。
「SNSは見たい情報ばかりに目を向けてしまう。中にはデマもあることを自覚する必要がある」「Z世代には自分が病気になるという意識がなく、予防接種などは保護者任せにしがち」といった意見が聞かれた。
ここで、生徒たちの視野を広げるための2回目のレクチャーが挟まれた。トピックは「知らない=こわいが生まれる図式」。
例示されたのは「がんに対するイメージの世代別調査結果」。がん検診を受けたことがない18~29歳の若年層は、がん検診を受けたことがある中高齢層よりもがんに恐怖心を持つ人が多いというデータ※だ。
なんとなく不安に思うことも、正しい情報を得ることで、むやみに怖がらなくて済む。これを念頭にプレゼンテーションへと考えをまとめていく。
※出典:「『がん対策に関する世論調査』の概要」2023年10月 内閣府政府広報室
課題解決のアイデア、実体験をもとに続々
いよいよワークショップもラストスパートに入った。
グループごとに見つけた「ワクチンが身近なものにならない」課題について、今度はそれを解決するために「自分や周囲が何をすべきか」「解決した時にどんな未来が実現されるのか」を検討し、ワークシートに書き込んでいく
最も活発に議論されたのは、「思い描いた未来のために、誰が何をすべきか」の具体策。若年層を意識した選挙対策、ショート動画サイトで注目されたキャラクターのダンス、地元のイベントなど、それぞれの心が動いた身近な出来事を出し合い、ワクチン接種の啓発にもアレンジできるのではないか?と提案する意見があちこちで聞こえた。
議論は時に、根本に立ち返ることも。「そういえば去年の高校受験の時に予防接種を受けた?」「どうして?」。それぞれの価値観や経験をもとに、メンバーの意見を聞きながらアイデアを取りまとめていく。最終プレゼンテーションが間近に迫る中、どのグループもギリギリまで内容を精査した。
高校生が考えた「健やかな未来のために、今必要なこと」
それぞれのグループは、「ワクチンに興味を持ちづらい理由」に対してどんな解決策を導き出したのだろうか。
あるグループは、「ワクチンに対する正しい情報を知る機会、理解する機会が少ない」ことを課題にあげ、「社会人が健康な時でも自発的にワクチンの接種ができる時間をつくる」ことを未来の目指す姿とした。それを実現させるために提案したのは「ワクチンの無償化」や「正しい知識と情報の取り方を学ぶワークショップの実施」などだ。
別のグループは、「現実にあった経験(恐怖心)からふくらんだ思い込み」をあげ、「Z世代が、ワクチン接種の通知が届く前に積極的に予防接種に行く」ことを未来のあるべき姿に設定した。そのために「メディアリテラシーを身につける」ことや「問診票をアプリ化して入力を手軽にする」ことなどを提案した。
五つのグループの発表は、個人の健康意識や社会的意義、情報リテラシーの重要性など、どれも多角的な視点でアイデアが練り上げられていた。
ワークショップ全体を通して全員が意識していたのが、当日のルールとして説明された「傾聴と称賛」だ。初対面の相手にも心を開き、丁寧に語り合った。また自分のグループだけではなく、他のグループの発表にも聞き入って思考を広げる際のヒントにする姿も見られた。
プレゼンテーションを終えた21人は、ホッとした表情。「一人で考えることも大切だけれど、みんなで話すとこんなふうに答えが導き出せるのだと思いました」と議論の充実ぶりをうかがわせる声も聞こえた。
そんな様子を見守っていたMeiji Seika ファルマの担当者は「実体験や不安も含めた様々な意見が出たことが、とても良かったと思います。その上で、ワクチンについて知ることが大事なのだと捉えてくれて、思いが伝わったと感じました。私たちが日々課題と捉えているテーマにも踏み込んで、会議室では生まれないようなたくさんのアイデアを披露してくれたことに感謝しています」と生徒たちにメッセージを送った。