ビジュアル重視の覆面作家・雨穴さんにみる「ウェブ×文芸」の現在地
年齢や性別、地声さえも非公開の覆面ウェブライター兼YouTuber、雨穴さんの小説が売れている。昨年刊行したデビュー作『変な家』(飛鳥新社)は電子版を含めて累計43万部を発行し、今年の年間ベストセラーでも上位にランクイン。10月に刊行した書き下ろし長編『変な絵』(双葉社)も累計32万部と好調だ。新人にしては異例のヒットから見えてくる、「ウェブ×文芸」の現在地とは。
「それではこれから、一枚の絵をお見せします」。そんな一文で始まる『変な絵』では、全編を通して挿入されている計91点ものイラストや図が目を引く。あるブログに投稿された5枚の絵を皮切りに、複数の殺人事件の謎が絡み合っていくホラーミステリーだ。
「間取り」をテーマにした前作『変な家』とも共通する、文章の合間に大量の図版をちりばめる手法は、雨穴さんの元々の活動領域であるウェブ記事に由来する。2018年にウェブメディア「オモコロ」でライターデビュー。ホラーテイストのフィクションを中心に執筆を重ねるほか、YouTubeでも自身が語り手として奇妙なエピソードを紹介する動画などを投稿してきた。『変な家』も元々はオモコロの記事として公開され、その後YouTubeで配信した動画版がバズり、書籍化された。
ウェブ発の小説は、2ちゃんねるのスレッドをまとめた『電車男』や、『Deep Love』『恋空』などの「ケータイ小説」が流行した00年代以降、決して珍しい存在ではなくなった。その中にあって、『変な絵』が際立った点は何か。
『ウェブ小説30年史』の著…