2011年1月5日
僕の仕事仲間のモデルたちは、職業柄、9頭身でスリムなナイスバディー。うらやましいほど華やかな存在だけど、「美人のプロ」として食べていくのは、なかなか大変そうです。
例えば数週間前のV誌の撮影現場。撮影チーム全員で、朝一番に撮ったばかりの写真を画面で見ながら打ち合わせをしていた時のことです。「ねえ、こっちの子、モデルカードの写真の顔と全然違うわ、どうして?ヤスオ」(エディター)「朝だから、顔が少しむくんでいたかも…」(僕)「顔も体もパンパンだね、太ったんだよ」(フォトグラファー)「これじゃドレスに体が入らないわね」(エディター)
こうして、結局2人のうちの1人のモデルは、太り過ぎということで撮影本番前に帰されました。ロシア人のその子は美人で、一般的には全然太っていないのに…。もしアマチュアの美人なら、周りの人にもっとちやほやされるだろうに、プロの美人はこんなひどいことを言われて帰されちゃう。プロじゃなければ、こんなことを一生いわれずに生きていけるのに…と思います。それを伝える方もつらいけれど。
もう少し前にはこんなこともありました…。トップモデルのハイディと、N誌の仕事で砂漠で過酷な撮影をしていました。そのランチタイム、豪華な食事を前にした彼女は、「この仕事で食べていくために、私は食べないの」と冗談交じりに笑っていました。実際、背が高いのに、ほんの少ししか食べません。その上、朝に飛行機で着いたばかり。そんな時差ぼけで空腹の彼女に、ファッションエディターは超ロングの細い編み上げブーツを履かせます。コルセットの要領で太ももまでぐいぐいと締めつけていくのですが、ブーツのサイズが少し小さめなので履かせるのは至難の業、力仕事なので、僕もお手伝い。装着にほぼ1時間、その光景は、シンデレラのガラスの靴を無理やり履かせようとする感じ、立った姿は中国に伝わるテンソク風。100%、歩行不可能です。僕が杖がわりになってやっとセットに到着、そして撮影開始です。ファッションモデルの仕事はめちゃくちゃ痛つらい!
モデルたちのダイエットの目標は、デザイナーズ・ドレスのサイズそのもの。最近仕事をしたイタリアのファッション誌でも、モデルの体がデザイナーの服に入らず、ファッションディレクターはかなりスタイリングを制約されたようで、困っていました。デザイナーたちのクリエイティブなボディコン妄想は、とどまる事を知らないようです。
「ドレスの形の体になりたい!」。そんなモデル達の切実な願いは、拒食症という危険な挑戦にもなりかねません。今まで何人も痩せ過ぎてしまったモデルを見ていますが、とても痛々しい。でも、これはモデルの職業病なのでしょうね。
10年くらい前、僕は医者のすすめでエクササイズを始めました。ずっと運動を続けても、おなかのまわりのふっくらがとれないのでメンズモデルに相談すると、ひと言「6pack(腹筋の割れ目)が欲しいなら食べちゃダメ、You eat too much!」だって。今思うとハイディの言っていた「食べていくために食べない」っていう言葉と通じます。僕の場合は健康のためだから、6packは要らないけど、この年になると「生きていくために食べない」っていうことなのかな。

メークアップアーティスト
1959年、新潟県生まれ。1983年から活動を開始し、ファッション誌や広告制作で活躍後、1995年に渡米。各国のVOGUEなどの表紙をはじめ、著名ブランドの広告、コレクション、セレブリティのポートレイト用メークなど、幅広く活躍中。ヒラリー・クリントン国務長官や、カトリーヌ・ドヌーブらセレブリティも多く手がけている。
2008年3月からはカネボウのプレステージブランド「CHICCA」のブランドクリエイターを務め、毎シーズン、日本の大人の女性に向けたメークを提案している。
世界を飛び回る毎日だが、休日はNYの自宅で妻と娘と過ごす。