家族信託のメリット・デメリット
家族信託は「委託者」「受託者」「受益者」で成り立つ仕組みです。わかりやすい例には賃貸アパート経営があり、オーナーが認知症になると賃貸借契約や建物の修繕など、各種契約ができなくなってしまいます。しかし家族信託を活用し、オーナーが委託者と受益者、家族が受託者になると、オーナーが認知症になっても家族が賃貸経営を継続してくれます。
他にも多くの特徴があるので、次に解説するメリットやデメリットを理解しておくとよいでしょう。
家族信託とは?メリット・デメリットや手続き方法・必要書類をわかりやすく解説
民事信託と家族信託・成年後見制度の違いについてわかりやすく解説
家族信託のメリット
家族信託を活用する主なメリットは次のとおりです。
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贈与税が発生しない
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委任や遺言の機能もある
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契約後にも受託者を変更できる
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成年後見制度よりも柔軟に運用できる
不動産などの相続財産は管理・運用・処分などを受託者に任せますが、権利の委託なので贈与税や不動産取得税はかかりません。成年後見制度と異なり、委託者の独断で受託者を変更できるよう、契約書に盛り込むことも可能です。
家族信託のデメリット
成年後見制度と比較した場合、家族信託には以下のデメリットがあります。
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銀行手続きや身上監護ができない
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家族信託に精通した専門家が少ない
家族信託における受託者は財産所有者(委託者)の代理人ではないため、銀行手続きや身上監護(委託者の利益のために医療や施設入所に関する契約を行うこと)はできません。また、2007年の信託法改正からスタートしたため歴史が浅く、家族信託に精通した専門家が少ないこともデメリットになっています。
家族信託のリスク
メリットばかりが注目されがちな家族信託ですが、次のようなリスクも伴っています。
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受託者に権限が集中してしまう
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損益通算が使えない
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税務署への申告手続きが発生する
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受託者に身上監護権はない
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信託できる財産には制限がある
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30年ルールによる信託の強制終了
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高額な初期費用が必要
短期的なシミュレーションでは気付かないリスクもあるので、専門家を交えた検討が必要になるでしょう。
受託者に権限が集中してしまう
家族信託では財産管理や運用、処分などの権限が受託者に集中します。実際に利益を受けるのは受益者ですが、家族信託はまだ広く知れわたっていないため、特定の相続人(受託者)に便宜が図られていると周囲に勘違いされるケースもあります。家族信託を検討するときは、親族間のトラブルが発生しないよう、受託者以外にも目的を伝えるようにしてください。
損益通算が使えない
不動産所得などで赤字が出た場合、他の所得の黒字から差し引いて計算する損益通算が使えます。ところが家族信託の場合、賃貸アパートなどの経営で赤字が出たとしても、他の不動産所得との損益通算ができません。家族信託を使ったために想定外の税金が発生する危険性もあるので、税理士を交えたシミュレーションも必要でしょう。
税務署への申告手続きが発生する
信託財産からの収益が1年以上の計算期間で3万円、または1年未満で1万5,000円以上あった場合、毎年1月31日までに以下の書類を税務署へ提出します。
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信託計算書
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信託計算書の合計表
税務署への申告義務は受益者にありますが、信託財産の利益と自ら管理している不動産の利益は切り分けて計算しなければなりません。
受託者に身上監護権はない
成年後見人には身上監護権があるため、病院への入退院契約などを被後見人に代わって法律行為が行えます。一方、家族信託の制度には身上監護権がなく、受託者は医療や介護などの法律行為ができません。家族が受託者であれば特に支障はありませんが、血縁の遠い親戚や、第三者が受託者の場合は法律行為が制限されてしまいます。
信託できる財産には制限がある
家族信託には信託できる財産、できない財産があり、まとめると以下のようになります。
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信託できる財産:現金、不動産(農地以外)、非上場株式、特許権、商標権
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信託できない財産:銀行預金(預金債権)、農地、一部の投資信託
一部の投資信託とは、家族信託に対応していない証券会社の投資信託を指しています。他にも、委託者固有の権利である年金や生活保護受給権、借金なども信託できない財産となっています。
30年ルールによる信託の強制終了
家族信託では一族が財産を承継し続けるよう、受益者連続型信託の契約も可能です。しかし信託法には「信託契約締結から30年経過したときの受益者、またはその次の受益者が死亡すると終了する」という30年ルールもあります。つまり信託開始から30年が経つと、次の受益権の取得は1回しかできないため、受益者連続型信託を契約しても30年で強制終了となってしまいます。
高額な初期費用が必要
家族信託では以下のような初期費用が発生するため、まとまった資金を用意しておかなければなりません。
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専門家への相談料および着手金:50万~100万円程度
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公正証書作成費用:15万円程度
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不動産の信託登記:10万円程度
信託の設計内容にもよりますが、75万~125万円程度の初期費用は必要です。
家族信託の失敗・トラブル7つの事例
相続対策や認知症対策として注目される家族信託ですが、十分な検証をしないまま見切り発車してしまい、失敗やトラブルを招くケースも発生しています。本来はメリットの多い制度ですが、運用を失敗すると危険なものになるため、次に解説する失敗・トラブル事例や対処法を参考にしてください。
自分で作成した信託契約書が無効になる
家族信託は書籍やネット上で取り上げられる機会が増えており、契約書のひな形も紹介されています。しかし個別の財産状況や家族関係には対応していないので、名前や財産名だけ書き換えて使うのは非常に危険です。不慣れな人が信託契約書を作成すると思わぬ税金が発生することや、契約そのものが無効になるトラブルもあるため、必ず専門家を交えて作成するようにしてください。
家族信託を自分で手続きする流れ・必要書類【集める情報・費用・注意点とは】
公正証書を作成しなかったためにトラブルが発生
法律上、家族信託の契約書は私文書でも有効です。しかし、財産の管理者や利益の帰属先を決定する重要な文書になるため、公正証書にしておく方が理想的です。公正証書にすると法的な有効性が担保されるので、契約内容に異議を唱えられても十分に対抗できます。また、私文書の場合は認知症の家族を委託者として信託契約を締結できてしまうため、契約内容に問題がなくても疑いをかけられる危険性があります。家族間の契約とはいえ法律行為には違いないため、契約書はなるべく公正証書にしてトラブルを回避しましょう。
想定外の税金が発生する
信託法の特徴を知らないまま家族信託を利用したため、以下の税金が発生した例もあります。
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委託者以外に受益権を移転させたため、受益権に対する贈与税が発生した
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信託財産以外の財産と損益通算できないことを知らず、想定外の所得税が発生した
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受益者の不動産所得が増え続けたため、高額な相続税が発生した
家族信託は相続税対策用の仕組みになっていないため、利用を検討する際には税理士のアドバイスも欠かせません。想定外の税金発生でトラブルにならないよう、必ず専門家を交えて検討しましょう。
遺留分を考慮しなかったため信託契約が無効になった
遺産を分割する際、兄弟姉妹以外の法定相続人には最低限の取り分となる「遺留分」が保障されています。しかし、専門家に聞かずに自分で家族信託の運用方法を設計したため、遺留分を侵害する契約内容になってしまい、信託契約が無効になった例もあります。最悪の場合は遺留分を巡って裁判を起こされるケースもあるので、相続の知識がないまま契約書を作成するのは非常に危険です。親族間のトラブルは当事者同士の解決が難しく、長期化する恐れがあるので十分に注意してください。
信託口口座が開設できない銀行もある
信託金銭を管理する場合、一般的には信託口口座(しんたくぐちこうざ)を開設し、信託金銭以外の財産と切り分けます。信託口口座に預けたお金は受託者本人の財産とも切り分けられるため、受託者が亡くなっても受託者の相続財産とはなりません。
受託者が破産した場合も差し押さえの対象にはならないので、家族信託を利用する際にはぜひ開設しておくべきですが、銀行によっては信託口口座を取り扱っていない場合もあります。また、私文書の信託契約書は受け付けてくれないケースがほとんどなので、公正証書にしなかったために信託口口座を開設できなかったトラブルもあります。まずは公正証書で契約書を作成し、メインバンクが信託口口座に対応しているかどうかも確認しておきましょう。
抵当権付きの不動産を信託したため銀行とのトラブル発生
信託財産が不動産の場合は、信託登記によって受託者に所有権(実際には所有権に含まれる管理権限)を移転させます。しかし、銀行の抵当権が設定された不動産の場合、銀行の許可なしに移転登記はできません。銀行の許可を得ずに抵当権付きの不動産を信託すると、融資契約違反として残債の一括返済を請求されるなど、銀行とトラブルになってしまう可能性もあります。
検討期間が長すぎたため契約できなくなった
「まだ元気だからじっくり考えよう」と思っているうちに認知症を発症するケースもあります。判断力が低下すると法律行為はできないため、早めに専門家へ相談し、いつでも家族信託を開始できるよう準備しておくとよいでしょう。自然災害や交通事故など、思わぬトラブルに遭遇する可能性もあるので、相続対策を先送りしないようにしてください。
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家族信託での危険やトラブルを避ける方法
契約内容や運用方法を誤ると、家族信託は危険な相続対策になってしまいます。しかし特徴を活かせば従来制度よりもメリットが大きいため、家族信託を検討する場合は次に解説するトラブル回避策も参考にしてください。
家族信託以外の相続対策も検討する
「認知症対策には家族信託しかない」と思い込んでしまうと、遺言書や成年後見制度のメリットが見えなくなってしまいます。遺言書にもある程度の柔軟性があり、状況によっては成年後見制度が適している場合もあるので、財産や相続人の状況を一度整理してみましょう。
財産の所有者に何かあったとき、身上監護や財産の運用・管理など、何を優先するかで最善策は変わります。選択ミスでトラブルが起きても後戻りはできないため、家族信託以外の相続対策も比較検討することをおすすめします。
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家族全員で仕組みを理解しておく
家族信託では受託者の権限が大きくなってしまうため、他の相続人から嫉妬されるなど、家族間の関係が悪化してしまうケースもあります。財産管理や運用だけが正常機能しても、家族間でトラブルが発生すると本末転倒ですから、家族信託の仕組みは全員が同レベルで理解しておかなければなりません。
必ず専門家を交える
実際に家族信託を運用すると会計や税務、相続の知識も必要となるため、家族向けの制度とはいえ難易度はかなり高めです。不慣れな人が設計すると間違いや抜け落ちが出やすく、開始直後は問題なくても長期運用すると致命的なミスが発覚する場合もあります。家族だけで契約書を作成するのはリスクが多く、トラブルの発生確率も高いので、必ず専門家を交えるようにしてください。
まとめ
家族信託は柔軟性や拡張性が高く、委任契約や管理委託、成年後見人など、従来制度の弱点を補完する仕組みです。家族信託の導入によって相続手続きがスムーズに進んだ例もあるので、今後も活用事例は増えていくでしょう。ただし、従来制度をカバーする範囲が広いだけに、設計にあたっては広範囲な専門知識が求められます。初心者の信託設計や契約書作成はトラブル発生の確率が高いため、専門家のアドバイスは必ず受けるようにしてください。また、専門家にも得意分野があるため、相続に強い弁護士や司法書士、税理士などが在籍する法律事務所へ相談することをおすすめします。



