
ソーシャルメディア「ALIS」が実現したいこと
ブログやSNSを始めると、どうしても気になるのが他の人からの「いいね」。「いいね」をもらえれば嬉しいし、誰からももらえないと寂しい。書き込んだあと、ついつい通知欄をチェックしてしまう人も多いでしょう。
そんななか、「いいね」をつけると暗号資産がもらえる、というソーシャルメディアがあると耳にしました。その名は「ALIS(アリス)」。「記事にいち早く“いいね”した人」は独自の暗号資産が報酬としてもらえるというのです。なぜそのような仕組みを作ったのか、株式会社ALIS(東京都渋谷区)の安昌浩CEOに話を聞きました。
なぜ「いいね」をつけた人が報酬をもらえるのか?
――まずは「ALIS」の概要について教えてください。
安さん:「ALIS」はブロックチェーン技術を活用したソーシャルメディアとして、2019年1月にオープンβ版を公開しました。月間PVは20万~30万ほど。登録は無料で、どなたでもご利用いただけます。
――「ALIS」にアクセスすると、一般的なブログサービスと同じように記事やカテゴリが並んでいますね。
安さん:そうですね。基本的な機能は一般的なブログサービスと同じです。大きく異なるのは、独自の暗号資産を報酬として設けていること。良質な記事を書いた人と、良質な記事にいち早く「いいね」をつけた人には、ALIS独自の暗号資産である「ALISトークン」を報酬として配布しています。暗号資産の発行など一連の仕組みをブロックチェーンによって実現しているんです。

――なぜ暗号資産を報酬として配布しているのでしょうか?
安さん:ひとつは、書き手のモチベーションを保つためです。せっかくブログを書いても、誰からも反応がなければ、次に書こうという気を失ってしまいますよね。そこで「いち早く“いいね”をつけた人」に報酬をわたすことで、ユーザ自らが他の記事を読んでリアクションをするよう促しています。記事へのフィードバックがすぐに返ってくれば、「また書こう」というやる気につながりますから。
――裏を返すと、手当たり次第「いいね」をつければ、たくさん暗号資産をもらえるのでは……?
安さん:いえ、ただ闇雲に「いいね」をつければいいわけではありません。将来「いいね」が多く集まる記事に「いいね」をしないと、報酬が伸びないように設計してあります。書き手も同様に、多くの「いいね」を集めた記事に報酬が付与される仕組みです。また、他のユーザからの「投げ銭」が多い記事はランキング上位にあがりますので、これも良い記事を書く動機につながります。
――報酬を設けることで、書き手は良質な記事を書き、読み手は記事の質を見極めて、いち早く「いいね」をつけるようになる……というわけですね。
安さん:その通りです。不正対策など含め、自浄作用が働くように評価のロジックを組み込んでいます。例えばオープン当初は、記事を粗製乱造して報酬を得ようとする人もいたんです。ただやはり質の低い記事には「いいね」がつかないので、自然と表に出ないようになりましたね。
ブロックチェーンで「フラット」なインターネットを作りたい

――ではそもそもなぜ、こうしたサービスを立ち上げたのでしょうか?
安さん:一番のきっかけは、ビットコインの仕組みを知ったことですね。ブロックチェーンによって、中央集権的な仕組みから、個人へと主権が移っていくのだろうと感じたんです。これはSNSも同じだろうと考えました。大手SNSは個人が投稿したコンテンツを広告などに利用して、ビジネスを展開しています。サービスを使う代わりに情報を提供する、というシステムだとしても、そこから得た利益は個人にも還元されるべきですよね。
また、インターネットが以前より「フラット」なものではなくなってきたのも気になっていました。メディアやインフルエンサーの影響力が増して、一部の声ばかり大きく取り上げられる現状がある。それってインターネットのあるべき姿なのかな?と。インフルエンサーばかりが目立つのでも、プラットフォーマーが全部吸い上げるのでもなく、個人がフラットに発信できる環境を「ALIS」で実現したかったんです。
――ブロックチェーンならその仕組みを作れそうだと?
安さん:そうですね。ビットコインはインセンティブの設計が美しくて、「みんなが不正をせずにシステムを回すことが、みんなにとって一番良い」という設計がなされているんですよ。ブロックチェーンを使えば、同じようなメカニズムをSNSで実現できるはずだと考えました。
――これが先ほどの「いいね」の仕組みにつながるわけですね。
「つながり」が生まれるメディアを目指して

――「ALIS」は2019年1月に公開されました。これまで運営するなかで、印象的な変化などありましたか?
安さん:予想外だったのは、ユーザが自発的にコミュニティを立ち上げて、サービス提供を始めたことですね。例えば、「ブログの効果的な書きかた」や「初心者向けのプログラミング講座」を、ALISトークンと引き換えに提供しているコミュニティができた。古物商の免許を取得して、物品とALISトークンを取引しているユーザもいますね。私たちが全く関与していないところで、経済圏ができあがっているんです。ALISトークンは取引所を通じて、他の暗号資産に交換できますから。
――そうした動きは、運営側としてどう捉えているんでしょうか。
安さん:「正しい方向に向かっている」と思っています。ブロックチェーンを扱う以上、「ALIS」は当初より「全てオープンにしよう」というポリシーで動いています。ビットコインに運営者がいないように、「ALIS」も将来的には運営者不在のまま稼働するのが理想です。だからこそ、自発的にコミュニティが生まれる状況は「正しい方向」ですね。
――これから先、「ALIS」で実現したい世界について教えてください。
安さん:「ALIS」は「信頼の可視化で人のつながりを滑らかにする」をビジョンとして掲げています。「いいね」が集まることで、信頼が可視化される。信頼が可視化されることで、これまで知らなかった人と知り合える。こうした「つながり」が常に生まれる状態を実現するのが、長期的なゴールだと考えています。
つながりさえあれば、いろいろな格差が縮まると思うんです。例えば、小学生がブロックチェーンを学ぼうと思ったら、東京ならイベントもあれば詳しい大人もいる。でも、地方で同じ環境が実現できるかというと難しい。ブロックチェーンを知っている若者と、知らない若者では、将来の進路にも違いが出るでしょう。地域差や属するコミュニティの差を吸収するには、人と人がつながることが一番です。思いがある人が発信すれば、チャンスが増える。そうしたメディアが実現できればと思います。