【社説】生成AI時代の声の権利 あふれる無断利用、断つ仕組みを
この社説のポイント
●生成AIの普及で、著名人の声や容姿を無断利用した動画のSNS投稿が相次いでいる
●声優が動画の削除を求めた訴訟で、声も法的に守られる対象と司法が初めて判断した
●抑止の点で意義は大きい。法整備を含めた、声の権利を守る仕組み作りを急ぎたい
名前や容姿と同じく、人の声も法的に守られる対象と司法が判断した意義は大きい。生成AIの浸透で無断利用の被害はいまも絶えない。残る論点を一つずつ検証し、声の権利のあり方を明確にしていかなければならない。
生成AIで自身の声を模倣した動画が無断で公開されたとして、声優の津田健次郎さんが「TikTok」の運営会社に動画の削除を求めていた。東京地裁は判決で、顧客を引きつける目的で声を無断利用すれば、パブリシティー権の侵害にあたるとの初判断を示した。パブリシティー権は、著名人が名前や容姿などから生じる商業的価値を独占利用できる権利だ。法律に規定はないが、2012年の最高裁判決で認められた。
声の権利をめぐっては、法務省の検討会が今年8月に指針を公表。名前や容姿と同様、声も「人格の象徴」で、無断利用による権利侵害は損害賠償の対象になりうるとした。今回の判決も指針に沿った内容だが、司法が同様の判断を示したことは無断利用の抑止の観点からも前進だ。
行政も同様の指針を公表
ただ、今回の裁判では提訴後に動画が削除されたため、津田さん側の請求そのものは退けられた。どの程度似ていれば違法となるかは判断されず、難しい論点は残った。
生成AIの普及で、俳優や声優らにそっくりな顔や声の人物が歌ったり、朗読したりする動画の投稿は絶えない。
芸能プロダクションなどでつくるNPO法人の調査では、無断利用が疑われるSNS投稿は肖像で4万件超、声で約340件確認。閲覧回数は3億3500万回に上り、経済的損失は約20億~45億円との試算を公表している。
訴訟を通じ、投稿者やSNS運営会社、AIサービス事業者らの責任を明確にする判断を積み上げることも重要だ。だが裁判で被害を立証する負担は軽くはなく、救済を個別の訴訟に委ねるだけでは追いつかない面もある。権利侵害が起きた後の救済だけではなく、無断利用を未然に防ぐ仕組みも欠かせない。SNS運営会社に迅速な削除をどう求めるかの検討も必要だ。
無断利用なくすには
海外には経済的価値を持つ音声を保護したり、死者も含めた個人の声をデジタル複製から守ったりする立法例がある。国内でも声優らの団体が事前同意を求めるなどのガイドラインを発表。国も不正競争防止法に声を保護対象として明記する検討を始めた。
利益が本人へ正当に還元されるビジネス展開を妨げず、風刺など表現の自由にも配慮しながら、声の権利を守る仕組み作りを急ぎたい。
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