歴史ある学都・弘前は学びの宝庫
「自然と都会、新と旧が調和した街。学問と教育を大事にする土壌があります」
弘前大学の郡千寿子研究担当理事・副学長は、青森県弘前市の魅力をこう語る。
郊外は雄大な岩木山と、麓(ふもと)に一面のりんご畑が広がり、街の中心部は、かつて津軽藩の城下町として栄えた歴史と文化の薫りが漂う。明治以降に建てられた洋館も点在し、その街並みは「レトロモダン」と形容される。
1920年に前身の旧制弘前高等学校が設立されて以来、弘前大は弘前市の「知の拠点」としての役割を担ってきた。現在は総合大学として、人文系から理工系まで、5学部7研究科を擁する。
青森の新しい価値を社会に発信
共同研究でカシスの成分に健康作用があることを証明
弘前大がいま特に力を入れるのが、〝社会にアウトプットするまで責任を持つ〟研究だ。なかでも地域の課題を克服し、かつ青森の新しい価値を生み出す研究に注目が集まる。
保健学領域の研究チームはこの5月、更年期症状の軽減効果を有するカシスの有効成分に関する特許を出願した。飲み物やお菓子の材料によく使われるカシスだが、青森県での生産量は全国一を誇る。2015年には農林水産省が定める「地理的表示保護制度」の第一号に「あおもりカシス」が選ばれている。これはその土地特有の産品の名称を知的財産として登録しようという制度だ。
大学では農学生命科学部、保健学研究科、地域戦略研究所がタッグを組み、16年から共同研究に取り組んできた。カシスの機能性の研究から商品としての提供まで担おうという試みだ。機能性の研究では、カシスのアントシアニンなどに更年期症状の軽減など、新しい健康機能が見いだされた。今後は調理法や食べ方をさらに追究し、「健康とおいしさ」を備えるカシスをより市場に広めたい考えだ。
こうした研究には分野の垣根を越えた連携が不可欠だ。
「本学は横のつながりをもつのにちょうどいい規模と距離。異分野の研究者が集まって気軽に議論する雰囲気があります」
地元企業も自動採血ロボット開発に協力
と郡理事は話す。特に伝統ある医学と工学の連携は弘前大が得意とする領域だ。理工学部機械科学科には医療産業に焦点を当てた医用システムコースがある。また、理工学研究科に「医用システム創造フロンティア」を設置。他学部や地元企業と連携しながら、医用システムに関する研究が進む。最近では、地元の精密企業と協力し、「自動採血ロボット」を開発中だ。地域医療では看護師の不足が課題だが、医療者の業務負担軽減の一助となることが期待される。
理工系の研究だけでなく、人文系の学問でも連携が進む。弘前市は第二次世界大戦の戦禍を免れたこともあり、貴重な文献が豊富に残されている。そこで17年度からスタートしたのが「津軽デジタル風土記の構築」プロジェクト。国文学研究資料館(東京都)他との共同事業で、津軽地域に残る歴史資料をデジタル化して公開し、地域資源、観光資源としての活用につなげようとしている。おもに教育学部と人文社会科学部の研究者が連携し、貴重な資料を調査。大学だけでなく、市の教育委員会や市民からのバックアップもある。デジタル化する資料は200点ほどになる予定だ。
人間力が大事な時代 大学の真の価値とは
高照神社蔵「源氏物語之詞」もデジタル化の対象
郡理事はこうした研究成果の社会への還元も、「基礎研究を大事にしてこそ」と強調する。自身も日本語の語彙(ごい)の歴史を専門とする研究者として、「基盤がしっかりしているからこそ、応用につながる」という確信がある。
「大学だからできる研究があります。理事として、改めて大学の役割を問い直しています」
と言う郡理事はこう続ける。
「やはり最も大切なのは、人を育てること。来るAI(人工知能)の時代は、基礎力がこれまで以上に重要で、人間だからこそもつ共感力や対話力、創造力の育成が欠かせないと考えています。弘前には長い時間をかけて醸成された文化があり、感性や情緒を育むのに最適な場所です。さらに、地域の課題を新しい価値創造のチャンスと捉えれば、弘前大学だからこそできる学び、研究は山のようにあるのです」

