実学とグローバル教育地域から世界を視野に
「ええんちゃう」のゲストハウスの名前は「順風満帆」。ゼミ生27人で運営。接客や掃除もシフトを組んで全員で担当する
国公立大学で随一の規模を誇る商学系の単科大学として、ビジネス教育を強みとしてきた小樽商科大学。学科の講義やゼミなど理論を学ぶ場と、ビジネスを実践する場を設け、それらを往復し、繰り返すことで実力がつく教育制度を整える。
「学生が理論と実践のギャップを知り、それを埋めるために次に学ぶべきことを発見することが大事だと考えています」
小樽商大の江頭進理事・副学長は教育の意図をこう話す。
国際教育にもこの理念を取り入れる。1年次に全員が履修できる「事情科目」では、食費程度で参加できる3週間の海外語学研修プログラムを用意。2019年度からは入学試験合格後、大学で学ぶまでの猶予期間「ギャップイヤー」を本格導入した。グローカルマネジメント副専攻プログラムでは留学生も一緒に英語で学ぶ経済・ビジネスの授業もある。
「これからのビジネスには語学力と国際理解力が必須。早い時期に留学し、自身の力の足りなさを知って、2年次以降の長期留学につなげます。何度も行き、その度に課題を見つける仕組みです」(江頭理事・副学長)
専門の基礎力や教養、そして国際コミュニケーション力──こうした実践のための土台を築いた学生たちは、実際にビジネスの「現場」に身を置く。ユニークなのが、正課科目の「商大生が小樽の活性化について本気で考えるプロジェクト」(通称マジプロ)だ。官公庁や企業、地域の人たちとかかわりながら、チームで街の課題解決プロジェクトに取り組む。その成果をまとめ、プレゼンテーションすることで次の学びに生かされる。
ゼミでも、商品企画や販売先の開拓など、企業の実務をそのまま実践する実学主義を重んじる。さらに、ゼミが発展して起業に至るケースも多い。大学も企業活動ができる起業サポートルームを作るなど積極的に支援。現在は、学生ベンチャー企業7社が立ち上がっている。
その1社が猪口純路教授のマーケティングゼミに所属する学生たちが起業した合同会社「ええんちゃう」だ。主な事業は小樽市内の空き家を改修したゲストハウスの運営。社名は学生たちのやりたいことを「ええんちゃう」と否定しない猪口教授の口ぐせから取った。
19年3月に開業するまで、事業の立案、資金調達、工務店とのやり取り、市役所への書類の提出など、すべて学生たちがやり遂げた。宿のコンセプトは「小樽の生活文化を楽しみ、地域と交流できる場」。駅から離れた住宅街にある立地条件も理由だが、何より「観光だけではない小樽の魅力が売りになる」と考えたからだ。
専門の理論を生かすビジネスの実体験
打ち合わせも定期的に。左から中野さん、北市さん、天満さん
合同会社の代表社員を務める商学科3年の北市圭人さんは、「輪読などで叩き込んだマーケティングの理論を生かすための実践の場となりました」と、開業までの日々を振り返る。
資金調達にはインターネットを通して資金を募るクラウドファンディングを利用しながら、小樽商大の同窓会、北海道内外の経営者など、賛同してくれそうな人にも会いに行った。相手はビジネスで百戦錬磨の強者ばかり。「どうやって黒字にするのか」「10年後のビジョンは」など厳しい質問を浴びた。経済学科3年の天満康美さんも資金集めを担当した。
「小樽の学生の手で小樽を活性化させたい、という思いが強くありました」
そうした学生たちの信念は周りも巻き込んだ。そのうちの1人、空き家を提供し改修を行った阿部建設株式会社の中野諭さんは、こう話す。
「小樽のために頑張る学生たちに協力したいと思いました」
情緒あふれる和室も楽しめるゲストハウス
猪口教授は今回のプロジェクトを「究極のアクティブラーニング」と表現する。北市さんは、「正解のないことばかりでしたが、みんなで議論して進めることが大事だと実感しました」と話す。天満さんは「お金の大切さ、人を動かすことの難しさを痛感しました。今後は大学院に進んで経営の勉強がしたい」と、将来の目標を掲げる。
身をもって実践の難しさを体験し、それがまた、次の学びへと生かされていく。

