データを分析し問題を解決する
「産業組織論」が専門の岡室博之教授
6月下旬、経済学部岡室博之教授の4年生ゼミでは、卒業論文の中間報告が行われていた。
「内戦や民族対立が続く地域について、その地域の宗教やかつて支配していた宗主国、人口、GDPなどが和平にどう影響を与えるかをテーマにしたいと考えています。内戦とその終結、和平の持続の要因を明らかにすれば、世界のあらゆる国家の平和に寄与できるのではないかと思うからです」
学生の一人が、自らのテーマについて発表を行うと、他の学生から質問が飛んできた。
「どこからどこまでを和平の持続期間とみなすのか?」
「そもそも内戦とはどういう状態を指すのか。内戦の定義をきちんと説明してほしい」
「国をまたがった内戦も多く、データが取りづらいのでは?」
傍らで話を聞いていると、国際政治学のゼミかと錯覚しそうだが、紛れもなく経済学のゼミである。岡室教授の専門は、「産業組織論」。ミクロ経済学の応用分野で、産業や企業に焦点を当て、計量的な手法を用いて経済分析を行う学問だ。
近年、ビッグデータなどを解析するデータサイエンスが脚光を浴びていることもあり、この学問は、社会的な注目度も高い。昨年4月、一橋大は調査会社・帝国データバンクと組み、共同研究拠点「帝国データバンク企業・経済高度実証研究センター」を設立。実際の企業データを用いて、企業行動、産業構造などの実証分析を行っている。この初代センター長を務めたのが岡室教授だ。岡室ゼミでの学びは、社会に求められている学問の最前線ともいえるだろう。
理論だけでなく、実証的に経済学を学ぶ
「『経済学は理論ばかりで現実離れしている』『経済理論がどのように社会に役立つのか、現実との関連性が見えにくい』と感じる学生もいるようです。けれども経済学は、実は何にでも適用できる学問。データさえとれれば、企業経営、社会の動き、暮らし、男女のことだって、何でも分析できるんですから」
岡室教授はそう語る。よって岡室ゼミの研究テーマの選択は基本的に自由だ。だからこそ、冒頭のような「内戦と和平の持続要因」をテーマに研究することもできる。
ゼミといえば、最近では多くの大学で行われる授業形態だが、実はこの制度を日本で最初に導入したのが一橋大といわれる。商、経済、法、社会の4学部すべてで3年生から全員がゼミに所属。10人前後の少人数で専門分野の知識を深め、論理的に考える力を身につけていく。
岡室ゼミには、今年4月に新たに13人の3年生が加わった。3年次ゼミはまず産業組織論と計量経済学の教科書を元に、理論と分析方法の基礎を学ぶ。ここでしっかりと基本的な知識と分析手法を自分のものにして、4年次で自由度の高い研究に取り組むことになる。
少人数だからこそ結束が強い
3年生のゼミの様子。必死に内容を追う学生たち
3年生のゼミを見てみると、岡室教授が、学生に矢継ぎ早に質問を投げかけていた。みな表情は真剣で、緊張感が漂う。それも当然で、「ゼミでは、教科書を読めばわかるようなことは質問しないので、予習が不十分だと答えられないと思います」と岡室教授は話す。
だが、ゼミが終われば別。一緒に食事に行くのが恒例だ。
「3年生のゼミが終わるのはたいてい20時をまわるので、私も学生もお腹が減るんです。ゼミの議論の続きをやってもいいのですが、だいたいは関係ない話で盛り上がります(笑)」
夏と冬には合宿があり、卒論の中間報告などを行う。こうして岡室教授とゼミ生たちは親睦を深め、結束を強めていく。岡室ゼミの卒業生は200人を超え、今も交流が盛んだという。
「今も昔も一橋の学生は、打てば響く。機会を与えるとぐんと伸びるんです。他大学との交流ゼミや卒論の途中で急成長したりする。成長の度合いやタイミングに個人差はあるものの、学生の成長ぶりを見るのは本当に楽しいですね」
岡室教授がゼミで大切にしているのは、自主的に学び、考える環境づくりだ。
「大学のゼミで一番大事なのは、自分なりの研究テーマを真剣に探し、自分で見つけること。なかなか決まらないことがあっても、その苦労も必要な経験です。自分で考え、自分で見つける。そして主体的に学ぶ。それができる濃密な時間がゼミで過ごす2年間ですね。たった2年ですが、一生の宝になります。少人数なので、必然的に仲間ともじっくり付き合えます」

