世界中に見られるビジネスグループ
トルコ・イズミル出身のアスリ・チョルパン教授。専門は経営戦略、企業統治、国際経営
京都大学は自然科学分野でのノーベル賞受賞者10人を誇る、基礎研究に強い大学として知られる。一方で社会に開かれた学びも重視し、近年は経済や経営など社会科学の研究者の活躍も顕著だ。トルコから約20年前に来日し、40歳の最年少で京大教授となったアスリ・チョルパン教授もその一人だ。
「まわりの人の噂話や流言ばかりを気にするのは『小さな人』。そうではなく、世の中の問題をどう解決したら良いかや、人はどう生きるべきかといった大きい問題について考える『大きな人』をめざしなさい」。そう尊敬する父親に言われて育ったチョルパン教授は、世界各国の「ビジネスグループ」を研究テーマとしてきた。ビジネスグループとは、例えば本体は自動車メーカーでありながら、化粧品や金融、食品などさまざまな業種の独立子会社をもつ巨大な企業組織のことを指す。日本でいえば、第二次世界大戦後にGHQにより解体された三井や三菱などの財閥企業がそれにあたる。
「韓国のサムスンやインドのタタなど、ビジネスグループは現在も世界各国で見られます。新興経済国のビジネスグループは血縁関係や政府との癒着が強く、外部のマーケットの力が働きにくいことから、経営学では国の発展にともない縮小していくと考えられてきました。しかし実際には、現在の欧米先進国でも形を変えたビジネスグループが力をもち、世界経済に大きな影響を与えています」
チョルパン教授の研究をまとめた書籍はハーバードビジネススクールに高く評価され、1年間同大学に留学して客員教授を務めた。「京大には研究者の自由な研究を支援する体制が整っており、京大に籍を置きながら憧れのハーバードでも学べました」。アジアや中東地域などでビジネスを展開したい日本企業から相談を受けることも少なくない。2015年には京都大学の教員で初めて上場企業の社外取締役に就任。近年は3社の日本企業の社外役員として経営についてアドバイスする。
勉強好きが来日につながった
尊敬する経営学の巨匠、アルフレッド・チャンドラー氏の著書(右)と、チョルパン教授の著書
「幼い頃から勉強が大好きで、なかでも数学や科学、物理学が得意でした。ロジカルに物事を考えるのが好きだったんです」
そんなチョルパン教授が大学で学んだのは理系の繊維工学だった。最初に来日したのは19歳のとき。自動編機のメーカーで和歌山に本社がある島精機製作所でインターンを経験した。
「電車がきっちり時間どおりに運行し、人々が社会のルールを守って暮らす日本社会は、完璧主義の私にとってすごく居心地の良い場所でした」
その後も英・リーズ大学の修士課程で工学の勉強を続けていたが、「もっと新しい分野を学んでみたい」と考えていたときに経営学に出合った。トルコの大きな銀行で役員をしていた父の影響で以前から企業経営に関心があり、すぐに経営学の虜になった。好きになった日本で勉強することを決意し、奨学金を得て京都工芸繊維大学の博士課程に進学。並行して京大の特別研究員になり、経営戦略の博士論文を書いた。
京大に籍を置いてからはビジネスグループの研究を続けながら、学生たちに現実の企業のケーススタディを指導する。
「取り上げるのはアップルやサムスングループ、グーグルの親会社であるアルファベットなど、学生もよく知るグローバル企業が中心です。学部生対象の授業はすべて英語で講義し、学生も英語で議論をします。将来グローバルに活躍したいと考える学生が、私の授業をとってくれています」
大きな目標があれば人生は拓(ひら)けていく
そんな学生たちにチョルパン教授は「大きな目標をもちなさい」と常に伝えているという。教授自身、父の教えで大きな目標をもつことで、人生を切り拓いてきたからだ。
「京大の学生たちは優秀ですが、人生の失敗経験が少ないだけにみんな就職をすごく心配します。しかし最初の就職先に失敗しても、腐らずに別の道にチャレンジすればいい。いい会社は世界中にたくさんあるし、留学してMBAを取ってもいいでしょう。人生で長い時間を費やす、愛せる仕事を見つけ出すことが大切です」
チョルパン教授のいまの目標は「自分の研究だけでなく、大学のあり方を考えたり、社会に影響を与えられる研究者になること」。これからも「大きな人」をめざし続ける。

