地元の砂問題の課題解決から始まった
鳥取大学には、砂漠化や食料危機などの世界的な乾燥地問題に組織的に取り組む、日本で唯一の研究機関「乾燥地研究センター」がある。乾燥地とは、UNEP(国連環境計画)の定義によると、年降水量などから導き出される乾燥度指数の値が0・65未満の土地のことをいう。世界を見渡せば、陸地面積の41%が乾燥地に分類される。雨の多い日本に乾燥地は存在しないが、日本の、しかも鳥取で、なぜ設立されたのか。センター長の山中典和教授はこう話す。
「そのルーツは鳥取砂丘にあります。昔は、この地域の人々にとって砂丘は〝困った土地〟でした。風が吹けば砂が飛び、家に入り込み、畑は砂で埋もれる。そのため、砂の害への対策や、農地への転用を試行錯誤してきた歴史があるのです」
始まりは鳥取高等農業学校(現・鳥取大農学部)時代。鳥取砂丘の一部である「湖山砂丘試験地」で1923年から行われた砂防造林の研究だ。これにより砂の害は減り、その技術は全国の砂丘地へと広まった。さらには、砂丘を農地として活用する研究も続けられてきた。70年代、世界の砂漠化に注目が集まると、砂丘地農業を応用して乾燥地の農業研究も行われるようになった。
大きな転換期は、90年。乾燥地研究センターを設立し、文部省(当時)により、「全国共同利用施設」に認定された。鳥取大の研究施設であると同時に、全国の研究者が共同利用できる拠点となる。以来、世界有数の乾燥地研究ができるセンターとして発展を続けてきた。
世界的な研究のため必然的に国際色豊かに
山中典和センター長。センター敷地内にある温室内にて
センターの研究は、大きく三つに分かれる。一つめは、「砂漠化」の環境問題。砂漠周辺に広がる乾燥地が、砂漠化してしまうのを食い止める研究だ。
二つめは、「乾燥地での農業」。世界では今後数十年で、人口増加により食料危機を迎えると予測される。とくにアフリカは深刻で、いかにして農作物の生産高を上げるかの研究が進められている。
三つめは「黄砂問題」。鳥取県などの日本海側には、春先に中国やモンゴル、中央アジアの砂漠地帯の砂が、風に乗りやってくる。これが黄砂だ。近年では、PM2・5の問題もあり、黄砂研究が注目されている。
山中教授はこう説明する。
「日本に乾燥地がないからといって、乾燥地問題と無関係ではいられません。例えば、パンやパスタなどの原料である小麦の自給率は15%程度で、輸入に頼っています。小麦は主に乾燥地の畑で作られているため、乾燥地が干ばつになり、小麦が不作になると日本での価格が急騰します。大陸から国境を越えてやってくる黄砂もそうです。一国だけで解決できるものではなく、発生する側の国と共同で対策を考える必要があります」
乾燥地研究は日本だけではできないため、世界中に研究ネットワークがある。必然的にセンター内も国際色豊かだ。教員18人中6人が外国人。学生も29人中24人が留学生で、出身はエチオピア、スーダン、ナイジェリア、中国など多岐にわたる。センター内は英語が共通語で、研究やゼミなどもすべて英語。業務連絡メールも日英の並列表記だ。
乾燥地を研究する方法は主に二つある。一つめは、センターでの実験中心の方法。とりわけ気候変動などの将来予測に関しては、充実した実験設備が必要となる。植物の種などの遺伝子解析も同じく、実験室で最先端の機械を使って行われる。
センターには砂丘の砂を利用した実験農場もある。砂の畑は希少なため、全国から研究者が集まる。その一画では小麦を栽培。気温上昇や乾燥に強い品種を開発している。
現場に行って学ぶ「実践」が重要
現在は、観光地として全国的に有名な鳥取砂丘。センターに隣接している
もう一つは、砂漠や乾燥地に行って、現地の人と一緒に汗を流しながら研究する方法だ。モンゴルでは気象観測ステーションを設置し、黄砂の砂嵐を観測する。スーダンでは、現地の研究機関とともに開発した高温・ 乾燥に強い小麦を試作している。こうしたプロジェクトが世界各地で進行中だ。山中教授は、熱いメッセージを送る。
「鳥取大は、『知と実践の融合』を掲げています。私自身もこの言葉を推進したいですね。学生たちには、実験室にこもるばかりで頭でっかちな人間にはなってほしくない。実験や本での勉強も大事ですが、そのうえで現場に行くことが重要です。鳥取大には、それができる人、興味がある人が学べるチャンスがたくさんあります」

