公立大学として1年 情報通信技術に軸足
プラズマ工学が専門の小越澄雄学長。自身もエッジコンピューティングの研究をすすめる
2018年4月、公立大学として新たなスタートを切った公立諏訪東京理科大学。それまでの2学部4学科制を改め、工学部に情報応用工学科と機械電気工学科を置く1学部2学科4コースに再編した。
公立化したことで、学費は以前の約半分に。経済支援制度も充実させ、家庭の経済的負担は大幅に減った。また、全国から受験生が集まるようになったことで多様性が増し、大学の雰囲気もより活発になったという。
教育方針の柱は「ものづくり」「情報技術」「マネジメント」の三つだ。特に、人工知能(AI)の進化が目覚ましい昨今、AIを含めた情報通信技術に関する力をつけることに重点を置く。小越澄雄学長は言う。
「社会で活躍するためには、AIと実際に現場で使用されるエッジコンピューティングのシステム、そしてIoT(モノのインターネット)および通信技術の知識を身につけることが必要です。本学では、そのすべてを学べる環境が整っています」
大学の知識や技術で地域課題を解決する
来年度の新入生から、AIを学ぶカリキュラムを全学科・全コースに組み込む。そして、小越学長が力を入れるのは、今後主流となるであろう最先端の「エッジコンピューティング」だ。近年急速に発展した「クラウドコンピューティング」に対し、「端末の近くにサーバーを分散配置する」ネットワーク技法の一つである。
「エッジコンピューティングのシステムにはあまり費用がかからず、専門的で高度な知識もさほど必要としません。カスタマイズしやすいのでさまざまな分野で応用が可能です」
と小越学長はその利点を説明する。自身も、水耕栽培の管理にエッジコンピューティングを利用したシステムを研究中だ。
長野県諏訪地域は、精密・光学機器、情報、自動車部品など多種多様な企業が存在する、日本有数のものづくり産業の集積地だ。その多くの企業が今、AIやIoT技術を導入、あるいは導入しようとしている。こうした地域企業と連携することで、より実践的な教育・研究も可能になる。
それは、「地域連携研究開発機構」の設置に表れている。機構は「農業理工学」「人工知能・IoT」「医療介護・健康工学」「次世代輸送システム」「地域情報・マネジメント」「地域先進技術」そして「スワリカブランド創造事業」の6部門・1事業からなる。学科や研究室の枠を超え、地元企業などの要望に基づく研究開発や最先端の研究を実施するとともに、人材育成を行う。小越学長は言う。
「地域から寄せられる要望や課題は複合的。さまざまな部門が一緒に研究することで、ベストな答えが出せると思っています」
「大学のもつ知識や技術を使い新たな起業の仕組みを作ってほしい」という長野県茅野(ちの)市の依頼を受け、産学公連携で取り組むのが、地域再生計画「スワリカブランド」だ。「LPWA」(ローパワーワイドエリア=低消費電力広範囲の通信方式)を、地元企業のものづくり技術と融合させ、地域の課題を解決しながら新規の製品開発やそれによる起業をめざす。
LPWAの使用例(実証実験)
情報技術の発展ですべての人にチャンス
実証実験の第1弾は山を荒らす鳥獣被害対策(図参照)。センサーとLPWAを組み合わせ、鳥獣被害対策の効率化を図る。また、登山者の位置情報を把握し、遭難時の救助に役立てるシステムの実験も行っている。
自然豊かな茅野市ならではの課題がある一方、その環境が大学の大きな魅力となっている。
「人が集中できるのはせいぜい数十分。美しい環境でひと休みする時間も必要です。その点、山野草や野鳥の声などを楽しめるこの大学は最適です」
ものづくりが情報技術の発展とともに大きく変化している今、「すべての人に夢を実現するチャンスがある」と、小越学長は言う。
「何かしたいと思ったら迷わずチャレンジしてください。仮に成功の確率が1%しかなくても、失敗から得るものが必ずあります。大学はそうした夢実現への第一歩であり、チャレンジの練習の場でもあるのです」

