土井善晴さんの「わたし遺産」とは? by 三井住友信託銀行

無限の「経験」があるからこそ、人生は楽しく、美しい。

三井住友信託銀行「わたし遺産」
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未来に伝えたい、次代にのこしたい「人・モノ・コト」にまつわる物語を募る、三井住友信託銀行主催の第8回「わたし遺産」。料理研究家・土井善晴さんにとっての「わたし遺産」は、料理文化に直に触れた場の「経験」だという。様々な料理の場と出会い、多様な価値観を持つことができたからこそ、人の思いに気づき、美しいものを発見できるようになって。毎日がより豊かなものになったという土井さんが、未来に伝えたいコトとは何かを聞いた。

料理の世界での「気づき」が、過去、現在、未来 時空を超えて考える力に

「わたし遺産」って、難しいですね。未来にのこしたいものと自分にとっての大切なものって違うから。ただ、個人的な「わたし遺産」とは何かと問われれば、これまでにしてきた「経験」、それに尽きます。
私は大阪の比較的大家族の家に生まれ育ちました。両親とも料理研究家でしたが、家で料理をするのはもっぱら母。その頃は、まだまだ男が家で料理するなんて、考えられない時代でした。両親は忙しかったですね。お商売をしている家族と同じで、夕食で揃って食べるなんてまずできない。だから、作りおいてくれた味噌汁を温め直して子どもだけで食べるなんてあたりまえです。それでも子どもはちゃんと育つ。食育的には家族揃って食卓を囲むことが大切なんて言いますが、そんなんウソです。

大学在学中に、スイスに留学して、語学を学びながら五つ星ホテルの厨房で働いたのが始まり。卒業してフランスの様々なステータスのレストランで仏料理を学びました。大変でしたが毎日何か知らないことを知れることがモチベーション。お世話になったシェフの家に居候させてもらっていたので、休日は彼の家族と一緒に過ごす。みんなで映画に行ったり、用事で田舎に行ったり、日曜日は必ずお孫さんも集まって食事をする。帰国後は大阪の味吉兆で修行させていただきました。そうした経験から今の私があります。フランスの家庭料理とフランスのレストランやビストロ、超一流の懐石料理を経験したことです。その素材・手法・仕立て・もてなし・味作り・食べ方まで、全部違う。それは様々な視点を持つことです。料理を読み解き、考えられるということです。それは見た目や味付けという枝葉のことだけでなく、ひとつひとつのプロセスの意味に文化のスピリッツがあるのです。対極にある料理文化の場の「経験」のおかげで、自分という視点ができて、視点が変われば見えてくるものは違います。裏側から見なければ後ろ姿は見えないわけです。それが、今の私の考える力になっています。そういう意味で、今でも視点をふやす努力は継続しているんです。昔の人の視点で今を見ることもできるでしょう。昔の人の気持ちがどんなんだったかって想像して、昔の人にトランスするんです。
私にとって学びとはレシピを知ることでも、技術を身に付けることだけでもありませんでした。自分が、その場にいて感じ、感じとる身体的経験が一番大事だった。おいしさだって、おいしいものが生まれる空気、雰囲気が大事です。料理もそうですが、人生はとても複雑です。情報にならない目にも見えないものがあることを知ることです。またそれを信じてください。どうぞ、積極的にその場に身をおいて大きく息をしてください。

「食べる」ことより「料理をする」ことの方が大事

人間は無限の「経験」と、目の前に起っている現象(刺激)を重ね、瞬間的に意味を知る(悟性)ことができます。人間は一人では生きられないでしょう。人はヒトのおかげで生きていることに気づけるのです。人から何かをしてもらっても、本人が気づかなければ仕方がない。気づくことが幸福につながります。関西では、なんでもよく気づく人のことを、「もの喜びする人」と言います。ハッと気づいて、「こころばえ」するとお顔が明るくなって、うれしくなる。すると、周りの人もその人を見て、楽しくなるのです。もの喜びする人は、自らを幸せにするし、ひとを幸せにする人です。みんなに好かれるし、同じお店に入っても間違いなくおいしいものが食べられる。だって、いいものに気づいて、反応してくれるのですから。

戦後の日本社会は経済を最優先にして進んできました。その結果、効率のわるい古いものや小さいもの、ていねいな仕事、手づくりもの、美しいものを犠牲にしてきたのです。料理の世界も同じで、利益だけを追求すれば、大量に、単純に、早く、で効率をあげることができます。そこに安心・安全を担保して、それなりにおいしく感じるようにすればいいわけです。そういう世界になると、人間はミスをするし、いい加減な気持ちにもなる。数字をごまかすから安心・安全を信用できない、それなら文句言わずに働くAIやロボットに任せた方がいいのです。

今もその方向で進んでいます。この先、もしも「人間は信用できないから、命に関わる料理を家庭で作ることは禁止!」なんていうことになったら、AIやロボットに料理を作らせている企業は、もっと大きな利益を得ることになります。でも、そんな世の中になっても手作りのおいしいものは存続するはずです、ただし、超高額で。そうなると、もう普通の人には手が届かず、食べられない。すでにその兆候はあるでしょう。たしかに効率という側面だけを見ると家庭でお料理する人はいなくなります。でも、絶対になくならないと私は信じています。自分で食べるものは自分で作るべきなんです。自分たちが食べるものを自分で作らなくなってしまったら、人間は人間ではなくなるからです。食べるだけならゴリラやチンパンジーと同じです。料理する意味を考えてみてください。「食べる」ことよりも「料理をする」ことの方が人間にとっては大事だと分かるはずです。

一汁一菜でよいと提案

料理するのは、なにも難しいものを作ることではありません。一汁一菜でいいのです。それはご飯と味噌汁と漬物を最小限とする食事の形です。漬物がなくても味噌汁を具沢山にすれば、ご飯と味噌汁だけでOK。一人分なら、お椀にいっぱいの具とお椀に一杯の水を鍋に入れて火にかける。煮たてば味噌を溶いて、少し煮て出来上がり。これなら、家に帰って10分もすれば食べられます。おかずは、お金に、時間に、気持ちに、余裕のあるときに作ればいいのです。自分で作って味噌汁をいただくことで、純粋な自分に戻れるはずです。それが自分の居場所です。それをしばらく続けると、自分が変わっていることに気づくでしょう。ダイエットにもなります。自信がもてます。それは無限の経験のひとつ。定数の一つとなって、違いを感じる基本になるものです。

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