伊達公子さんの「わたし遺産」とは? by 三井住友信託銀行

テニスで得た自分の“財産”を次世代につなげたい。

三井住友信託銀行「わたし遺産」
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「わたし遺産」とは、一人ひとりの心にある、その人ならではの大切な「人、モノ、コト」――。三井住友信託銀行が主催する「わたし遺産」は第10回を迎え、今年も作品募集が始まった。プロテニスプレイヤーとして活躍してきた伊達公子さんの「わたし遺産」は、テニスとの出合い。プロを目指すきっかけを与えてくれたコーチとの出会いや、テニスを通じて得た経験、気付きについて語ってくれた。

大きな気付きとなったコーチからの言葉「常に2つの目標を持たなくてはいけない」

テニスを始めたのは小学1年生の時、引っ越し先の近くにあったテニスクラブに健康のためにと両親が通い始めたのですが、私も付いて行くようになったのがきっかけです。小さい頃から体を動かすことが大好きだった私は、公園に遊びに行くと帰りが遅いといつも怒られていたのですが、テニスコートにいると何時に帰っても怒られなかったので、当時はいつまででも外で遊んでいられる楽しい場所でした(笑)。中学ではテニスの名門クラブ、高校ではテニスの名門校に通っていましたが、その時はまだ特にプロを意識するということもありませんでした。しかし高校2年生の時に出会ったコーチが、私を変えてくれました。

高校のテニス部の監督が病気をされたため、代わりに来た外部のコーチが指導してくれたのですが、練習は厳しく4,5時間ぶっ通しということもよくあり、当初はついていくのがやっとでした。ただ食らいついていくうちに、与えられる課題が少しずつレベルアップしていき、練習が楽しくなっていきました。すると試合でも勝てるようになり、自分の意識も変わり始め、それまで想像もしなかったプロへの道を現実的な目標として捉えられるようになりました。プロになってからも指導は続き、「何を食べろ」「何を食べちゃいけない」「何時に寝ろ」とすべてにおいて厳しく指導されていて、英会話教室にも通わされました(笑)。でも当時はとにかく強くなりたいと必死だったので、厳しくされていたという感覚はありませんでしたね。

コーチから言われて印象に残っている言葉があります。高校2年生の時にプロも参加する全日本選手権に出場した際、初めて憧れのプロの選手と戦い、ベスト4まで勝ち上がりました。ただ、そこで満足してしまった私は、それ以上戦える心が残っておらず、敗退しました。そんな私にコーチが掛けてくれたのが「常に2つの目標を持たなくてはいけない」という言葉でした。「自分の身近な目標を1つクリアした時に、さらにその先の目標を持っていないと、そこで終わってしまう。2つの目標を持っていたら、この大会でも優勝を目指せたかもしれない」。その考えは当時の私にとって、大きな気付きでした。それからは2つの目標を持って常に戦うようになり、結果も出るようになりました。世界を目指すうえで、大切な言葉となりました。

テニスコートで心が折れたら勝負にならない。大切なのは、常に強い自分でいること

プロになって世界と向き合うようになると、心が折れるようなことが日常的にありました。自分の意見をしっかり主張しないと、自分の存在すら認めてもらえないこともあるので、自分の言葉でしっかり発信することの必要性を世界と向き合い初めて感じました。プロの世界は「とりあえずやってみよう」というレベルではなく、「やるかやらないか」「勝つか負けるか」。テニスコートで心が折れたら勝負にならないため、常に強い自分でいなきゃいけないと学びました。また世界で戦っていくうちに、私以上に負けず嫌いな人はたくさんいることに気付いた(笑)ことも大きな経験になりました。

その反面、多くのライバルたちと出会えたことも財産です。現役の頃は敵同士だったのでコミュニケーションを取ることもあまりなく、心の中と違うことを言ったりすることもありました。トップに行けば行くほどあまり交流を好まない選手が多い時代でした。でも引退してからは「実は、あの時にこういうふうに思っていたんだ」などと打ち解けて話せるようになり、つながりも生まれました。これだけさまざまな国の人たちと出会えるのもテニスという競技がグローバルなスポーツであるからこそ。テニスと出合えたことで、人と人との出会いの輪が広がったと思います。

セカンドキャリアでは「どうやったら勝てるか」と駆け引きも考え、テニスを楽しんだ

私は25歳で一度引退して、37歳で現役に復帰したのですが、その時は、年齢もそうですが、12年もブランクがあったため、誰もがアスリートとしてもう一度戦うのは難しいと感じていたと思います。でも、それに対して自分がどこまでできるのかというチャレンジは、やりがいがあったし、自分との戦いを楽しんでいました。自分の娘でもおかしくないような選手たちとは、まともにパワーでは向き合えないと分かっていたので、「どうやったら勝てるか」と頭を使い、駆け引きみたいなものを考えていくことも楽しかったです。これは、ファーストキャリアの時にはない経験で、自分の視野が広がったと感じています。

また、ファーストキャリアの時は、世界ランキングトップ10に入るという最大の目標に向かい、勝負にこだわり抜いていたため、精神的にかなり追い詰められていました。でもセカンドキャリアの時には旅をしながら好きな勝負をしようというスタンスに変わり、テニスを楽しめるようになりました。さまざまな国を訪れ、その土地の文化や習慣に触れたりしたのも貴重な財産となりました。

「わたし遺産」は自分だけで終わらせずに、未来に残していくことが大事

私にとっての「わたし遺産」とは、テニスと出合えたことに尽きると思います。テニスコートに入ると一人で戦わなくてはいけないし、100%準備をしていても、試合では思うようにいかないことがたくさん起き、常に決断が迫られます。その時に、どういう状況かを自分の中で把握して、「じゃあ、今どういうことができるのか」を考えていかなくてはいけない。これは、長い人生の中で起きていることと、そんなに違わないように思います。「テニスコートは人生の縮図」だと感じます。

私はそんなテニスを通して、たくさんの経験、たくさんの気付き、素晴らしい心の豊かさを得ることができました。今の自分にできることは、これまで得てきた財産、遺産を、未来にしっかりつなげていく、残していくこと。そのために、子どもたちにテニスを教える活動も行っています。

人生の可能性というのは、スポーツだけでなく、どの世界にいても、転がっています。大切なのは日頃から「無理だから」と諦めずに、可能性を広げようという気持ちを持つこと。敷いてくれたレールに乗って行けば、ある程度はできるようになると思うのですが、そこから一歩抜け出すためには、自分で人生を切り拓く努力が必要です。私はそのことを、テニスを通して学んできました。日本という環境の中でも世界にトライできた私の経験を通して、子どもたちに可能性を広げるために大切なことを伝えていきたいと思っています。

“遺産”というのは、自分だけで終わらせないということが、とても大事です。次世代につなげていくことで、本当の「わたし遺産」になると思いますから。

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