庶民的で親しみやすい東海エリア独自の食文化
人気の名古屋めし「小倉トースト」 は、喫茶店の定番メニュー。
産業基盤のものづくり産業に限らず、東海エリアには発展の可能性を秘めた魅力あふれる産業が存在する。その一例が食品産業や観光産業だ。喫茶店のモーニングサービスや「名古屋めし」など、東海エリア独自の食文化は、低価格で親しみやすいことが特徴の一つとされる。「コメダ珈琲店」「サガミ」「世界の山ちゃん」など、全国展開に成功する外食チェーンもあり、「壱番屋」のように海外に店舗展開する企業も少なくない。さらなる成長には、他の産業と同様に、「ものではなく文化を売るという視点が重要だ」と長尾さんは指摘する。「かつては外国人に、あまり受け入れられなかった寿司が、健康食として世界中で親しまれているように、価値観は時代に合わせて変化しています。塩分が高いと敬遠されることが多かった〝赤味噌文化〟も、大豆を原料とする健康食材というイメージが定着。巧みなブランディングができれば、低価格で庶民的な東海エリアの食文化は、アジアを中心に世界に受け入れられる可能性を秘めていると思います」
伊賀市は、「忍者市」を2017年に宣言し“忍者の里”をPR。伊賀市役所には外国人観光客を意識し、英語と中国語が併記された横断幕も。©朝日新聞社
産業観光に並ぶ観光資源の開発が成長のカギ
一方、観光地としての東海エリアのポテンシャルはどうか。長尾さんは「独自の魅力を発信することで、東海エリアの観光産業はより成長できる」と期待を込める。2017年の統計によると、訪日外国人の愛知県訪問率は8・9%で全国6位(日本政府観光局「都道府県別訪問率ランキング」)。東海エリアの特徴は産業観光であり、ものづくりの楽しさを体感できる「トヨタ産業技術記念館」には、毎年、世界各国から多くの観光客が訪れている。
しかしながら、東海エリア全体の観光産業という視点に立てば、2.5%で17位の岐阜県、0.6%32位の三重県を足し合わせても、東京(46.2%)、大阪(38.7%)、4位の京都(25.9%)など上位に大きく水をあけられているのが現状だ。東海エリアの観光資源開発は、これまでに明確な対策が打ち出されてこなかった課題だが、「世界遺産を巡るような団体観光ではなく、〝小さいけれどキラリと光るもの〟を発信していくことが、産業振興のカギになる」と長尾さんは提案する。
「例えば三重県の伊賀市は、〝忍者の聖地〟として外国人に根強い人気があり、毎年たくさんの個人観光客が訪れます。これは地元の人間では気づかない素材が、観光資源として価値を生んだ良い例です。東海エリアにしか存在しない、独自の魅力を作り出すことができれば、より多くの観光客を呼び込むことができるはずです」
激動する産業界で輝くのは、変化を作り出せる人材
ここまで、東海の四つの〝得意技〟を見てきたが、産業分野を問わず、東海エリアの強みは堅実さだ。特にものづくり産業において、ミスなく確実にやり遂げる堅実性は、今後も大切に守っていくべき価値観となるだろう。ただ、〝強み〟に固執するあまり、新しいことへの挑戦がおろそかになれば、大競争時代を迎え、刻一刻と状況が変化する国際競争に勝つことはできない。
「自動車産業を中心に、東海エリアの企業には、市場における主導権を維持・拡大するために生まれ変わろう、という気運があふれています。安定した基盤のもとで、新たなチャレンジができる環境が整っていることが、東海エリアで働く一番の魅力です。自分が活躍できる場所を、自らの手で作り出すことができます」
企業が求めているのも、これまでとは異なる発想から、新しいアイデアを生み出すことができる人材だ。生産年齢人口の減少や多様化の観点から、外国籍人材の活用推進が予測されるなか、「自分らしく働くためには、専門性を磨き、自らの価値を高め、一人のプロフェッショナルとして戦う起業家マインドが不可欠だ」と長尾さんは指摘する。
「産業界で必要とされるのは、独自のアイデア、スキル、ネットワークを持ち、失敗を恐れずチャレンジする若者。変化に追いつくのではなく、変化を作り出すことができる人材です」
長尾尚訓さん
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 政策研究事業本部研究開発部 主任研究員
愛知県出身。大学卒業後、日経リサーチでマーケティング業務に 従事し、1993年東海総合研究所(現:三菱UFJリサーチ&コン サルティング)入社。行政の産業政策、民間企業の事業戦略の関 連業務を担当する。専門分野は産業技術政策、地域振興、ICT、 ベンチャー、知財など。現在は航空機・自動車など輸送機械の経 済産業省の事業に関連した産業政策の調査・立案に携わる。
画像素材:PIXTA
