ROLEX & Sail GPモンスターヨットに挑み続ける
セーラーたちのリアル
──Rolex SailGP とクラウンのストーリー
常識を超えるスピードと迫力が人気のセーリング競技「Rolex SailGP Championship」。その中心にいるのは、極限に挑み続ける世界のトップセーラーたちだ。モンスターヨットを駆って「世界一のセーリングチーム」になるため、日々戦い続けている。その舞台裏には、数多くのドラマが隠されていた。そんなレースと選手のリアルを追いながら、SailGPの魅力を改めて紹介する。
クルーを襲う強烈な横G
── 船上の過酷な闘い
©Rolex/Ricardo Pinto for SailGP/高橋レオ選手提供
SailGPのレースは、常に高速で展開する。「キーン」と風を切り裂く独特の音とともに、艇は時速100キロ近くで海面を走る。選手たちはこの圧倒的なスピードと、しばしば起こる急激な方向転換に耐えながら戦う。
ニュージーランドチーム「ブラックフォイルズ」艇のクルーで、若手のホープとして活躍する高橋レオ。彼が担当する「フライトコントローラー」という役割は、レース艇を水面から浮上させることだ。高速巡航の態勢に入ると、選手たちには信じられないほどの重力加速度がかかる。特に強烈な横Gは、レースの一瞬一瞬が試練になることを物語っている。
「横Gに見舞われると、まるで体が引き裂かれるような感覚になる。時速100キロ近くになると体全体がその重力を感じ、呼吸すらしづらくなる。低い姿勢を保ち、鍛えた体幹を安定させる。トレーニングを積めば、その感覚を楽しむこともできる」と高橋は平然だ。
レースの中で最もスリリングなのは、どんなときだろうか?
「敵チーム艇が迫ってきたときこそ、全力で冷静さを保たなければならない。勝敗を分けるその瞬間に、どれだけ正確に艇を操縦できるかが試されるから」と高橋は鋭い表情を見せる。そこには大きなリスクも伴う。レース艇が空中に浮上しすぎて水面を離れてしまうと、次の瞬間、艇は舳先(へさき)から水面にたたきつけられ一瞬でクラッシュしてしまう。
SailGPの魅力は、この過酷な状況下で、いかに取り乱さずに技術を駆使して戦うかが勝敗を左右するところにある。
「空飛ぶヨット」を間近で目撃する劇場
©Rolex/Ricardo Pinto for SailGP
SailGPのもう一つの魅力は、その「見せるスポーツ」としての側面だ。従来のセーリングは沖合で行われるため、観客がその迫力を直接感じることは難しい。しかし、SailGPではコースが水際近くに設定される。観客は至近ぎりぎりに設置された観覧スタンドから、大迫力のレースを目の当たりにできる。ときに数万人の大歓声がスタンドを揺らすさまは、もはや「劇場」と言ってもいい。
「風だけでここまで速く走る。これこそが人間と自然の融合です」と高橋は言う。実際、レースが始まると観客は、その目の前をレース艇が数十ノットのスピードで横切るのを目撃することになる。風の音、波の音、スピード感が観客を圧倒し、まるで自分もそのレースの一部になったかのような錯覚に陥るだろう。
「風を味方に、自然の力を使ってこの速度を出すというのは、まさに壮大な挑戦。それを目の前で観ることができるのがSailGPの一番の魅力です」と強調する高橋。手の届きそうな至近距離を巨大なヨットが音もなく通り過ぎるとき、観客は、単なるスポーツ観戦を超えた自然との一体感を味わうのである。
道を切り開いてきた2人の女性セーラー
©Rolex/Ricardo Pinto for SailGP/©Rolex/Andrew Barker for SailGP
SailGPは、競技としてのスリルやスピードだけではなく、その運営においても新たな挑戦を続けている。特に注目すべきは、女性や若者に向けた参加機会を提供するプログラムだ。この取り組みは、SailGPをただのスポーツイベントにとどまらず、社会的な変革を促す力をもつものとして位置づけられている。
2025年9月20日、SailGPジュネーブ大会が開かれていたスイス・レマン湖のほとりで、2人の女性セーラーが報道陣の取材に応じていた。2人とは、イギリスチームのスキッパー(キャプテン)であるハナ・ミルズと、ブラジルチームのマルティネ・グラエルだ。
彼女たちはSailGPの中で女性セーラーとしての地位を確立し、若手選手たちへ道を切り開いてきた。その活躍は多くのセーラーにインスピレーションを与え続けている。
そんな2人に、報道陣からこんな質問が飛んだ。「セーリングを始めようとしている少女たちへ、伝えたいメッセージはありますか?」
女性や若手セーラーの参加の機会を増やすプログラム「アテナ・パスウェイ」の創設に関わったミルズは、こう答えた。
「私が幼かったころは、オリンピックだけが将来やることとして想像できた唯一の舞台でした。しかし、いまを見てください。SailGPでは女性もプロの世界へと押し上げられています。ワクワクしませんか? このスポーツでキャリアを築きたいと願う若い女性たちに、大きな可能性を感じてほしい」
SailGP初の女性ドライバーとして注目を浴びるマルティネ・グラエルも続いた。
「女性としてチームを率いることは、私にとって非常に重要です。セーリングが男性だけのスポーツだという認識を変え、女性にも達成できる多くのものがあることを示したい。もっと多くの女の子が運転だけでなく、ウィングトリミングやフライトコントロールといった他のポジションもしている姿を見たいですね。すごく楽しみ!」
彼女たちが活躍する姿と目指す未来は、SailGPが競技者に平等なチャンスを提供する場であることを証明している。
サステナビリティーへの野心的な取り組み
環境への負荷を可能な限り小さくする取り組みも、SailGPを特徴づける大きな柱だ。特にCO2排出削減は徹底されている。会場運営にクリーンエネルギーを使い、サポート艇も次々とバイオ燃料などに切り替えた。レース艇の輸送も航空便から海上輸送などに変更している。
また2021年には「インパクト・リーグ」を導入。各チームの環境・多様性推進に貢献する活動を評価し、シーズンを通してポイントを競う画期的な仕組みだ。「廃棄物ゼロ」「インクルージョンの促進」「気候変動対策」などが評価対象となり、チームはそれぞれの活動でポイント獲得を目指す。
高橋の所属するニュージーランドチーム「ブラックフォイルズ」も、同国の海洋保護法案の推進に尽力している。
これらによりSailGPは大幅なCO₂排出削減に成功。国連「Climate Neutral Now」イニシアチブにおいて、排出量の測定、削減、貢献のすべての項目で高い評価を受けた。
ロレックスはこうした取り組みに賛同し、全面的なサポートを惜しまない。高橋は言う。「ロレックスという世界的ブランドの支えがあるのは、すごく大きなこと。ブランドの理念である『持続可能性』は私たちの価値観と一致しており、今後さらに一体感が深まると思います」
失われたチームと挫折 再起への挑戦
©Bob Martin for SailGP
2022年、高橋レオが所属していた日本チームは、資金面での問題からSailGPを撤退してしまった。この出来事は、彼にとって大きな挫折だった。アジア唯一のチームとして、若いセーラーたちに夢を与えていた日本チームがなくなったのだ。ショックは深刻だった。
「あのときの喪失感は、いまも忘れられません。日本に希望を与える存在だったからこそ、とても落ち込みました」と高橋は振り返る。
しかし、高橋はその悲嘆の中に留まらなかった。「まだ終わっていない」と心に誓い、再び海へ戻る道を探した。その情熱が彼をニュージーランドの強豪「ブラックフォイルズ」へと導いたのである。
「SailGPは世界中のトップセーラーが集まる最高峰のリーグ。ここで勝てば世界最高のセーラーになれる。あきらめなければ、必ずチャンスをつかめると思っていました」。再出発の海で、高橋は再び風をつかんだ。失われたものを取り戻すためではなく、次の時代を切り拓くために。
ロレックスという「クラウン」(王冠)が象徴するもの
SailGPにおけるロレックスの役割は、単なるスポンサーとしてのものではない。それは、競技の価値を高め、選手たちが最高のパフォーマンスを発揮できる環境を提供するためのものだ。
「ロレックスの『クラウン』は、格式と革新の象徴です」という高橋。彼にとってロレックスという名のもとで戦うことは、ただの栄誉ではなく、選手としての誇りであり、その理念を体現することにほかならない。
「常に前進し、より高みを目指すロレックスの理念は、私自身の姿勢とも重なります。その『クラウン』を手にするため、全力を尽くします」と高橋は表明する。その意気込みが、彼の挑戦を支えている。
風を感じ、技術を駆使し、限界を突破する。「Rolex SailGP Championship」は単なる競技の枠を超え、スポーツとしての新しい形を提示している。その魅力は今後ますます多くの人々を惹きつけるだろう。
(文中敬称略)
高橋 レオ(たかはし・れお)
静岡県沼津市生まれ。父はニュージーランド人、母は日本人。7歳のときにニュージーランドに移住。9歳でセーリングを始め、12歳でニュージーランドオープン、USオープン、UKオープン選手権のオプティミスト級で優勝。高校在学中の2015年にセーリング49er級で日本代表入りを果たした。2019年に開幕したSailGPの日本代表メンバーにも選出。2021年、東京五輪のセーリング49er級に出場し11位と健闘した。
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