ROLEX & Equestrianism二つの意思がひとつになるとき——
馬術が示す、卓越の瞬間
騎乗するリヒャルト・フォーゲル ©Rolex/Thomas Lovelock
人と馬が言葉を交わすことなく理解し合う瞬間がある。馬術とは、その一瞬のために積み重ねた時間と信頼の結晶である。跳躍や演技の美しさは結果として可視化されるが、真に求められているのは、人と馬がどこまで深く結びつけるかという関係性そのものだ。ロレックスは、この競技に宿る本質をたたえ、70年近くにわたりサポートしてきた。勝利という一点ではなく、そこへ至る旅路にこそ価値があるという思想は、馬術というスポーツと深く共鳴している。
人馬一体で挑む、究極の「チームスポーツ」
馬術は、選手と馬がひとつのチームとなり、卓越性を求め、競う競技である。その魅力は、単なる技術や体力だけでは語り尽くせない「人馬一体」の絆にある。競技には大きく分けて三つの種目があり、それぞれが異なる個性と見どころをもっている。
「馬術界のバレエ」とも称される「馬場馬術」(ドレッサージュ)は、決められた馬場の中で、正確かつ優雅に演技を行う種目だ。脚の運び方の質、動きの正確さ、そして人と馬の調和が細かく評価される。見る者にとっては静かで端正な印象を受けるが、その裏側では、長い年月をかけた緻密な調教と、選手の繊細なサポートが積み重ねられている。まさに「調教の完成形」を競う競技といえる。
「障害馬術」は、スピードと跳躍力、瞬時の判断力が問われるダイナミックな競技である。色とりどりの障害物を次々と跳び越えながら、ミスによる減点の少なさとタイムを競う。重要なのは、障害物を跳び越えるときの馬の踏み切りや着地を見極める選手の冷静さと、馬への絶対的な信頼だ。一瞬の迷いが結果を左右するため、人馬の呼吸が合っているかどうかがはっきりと表れる。
そして、「総合馬術」は、馬場馬術と障害馬術に、野外で行われるクロスカントリーを加えた3種目で総合力を競う競技である。正確さ、スピード、持久力――すべてが求められるため、「馬術のトライアスロン」とも称される。同じ人馬で複数の種目に挑むため、馬の体調管理や精神面への配慮が極めて重要になる。
近年、こうした馬術競技が日本で注目を集めることになったのが「初老ジャパン」と呼ばれた総合馬術団体の日本代表チームの国際大会における活躍だ。長年第一線で経験を積んできたベテラン選手たちが中心となり、派手さよりも確実さ、無理のない判断、そして馬を最優先に考える姿勢を貫いた。その姿は、馬術が年齢や勢いだけで戦う競技ではなく、積み重ねてきた経験と人馬の信頼関係が大きな力になることを、強く印象づけた。
馬術では、選手の技術だけで結果が決まることはない。馬の個性を理解し、日々の調教を通じて信頼関係を深めていくことが不可欠だ。初老ジャパンが示したのは、まさにその神髄であり、「人と馬がともに歩んできた時間」こそが、最高のパフォーマンスを生むという事実だった。
競技中の一瞬一瞬、選手は強く指示を出すのではなく、最小限の合図で馬を導く。そこに求められるのは、支配ではなく対話である。馬の微細な反応を感じ取り、その一歩先を予測しながら動きを重ねていく。その関係性は、スポーツという枠を超え、ひとつの完成されたパートナーシップの形を示している。
ロレックスと馬術、70年近いパートナーシップ
ロレックスの馬術へのサポートは、1957年に英国の名選手パット・スマイスとのパートナーシップから始まり、以来70年近くにわたって世界最高峰の大会と選手を支え続けている。現在は、欧米で開催される世界有数の障害馬術大会「ロレックス・シリーズ」において、オフィシャルタイムピースも務めている。その大会を簡単にご紹介しよう。
年の初めに開催されるのが米国フロリダ州で開幕する「冬季馬術フェスティバル」(ウィンター・エクエストリアン・フェスティバル)である。1月から13週間にわたって開催され、40カ国以上から約7千頭の馬、4千人の選手、1千人のトレーナーが集結する世界最大級の馬術イベントだ。
5月には、1926年以来の歴史を誇る「CSIOローマ・ピアッツァ・ディ・シエナ」が、ローマ中心部にあるヴィラ・ボルゲーゼの庭園を舞台に行われる。
6~7月にはフランスで2大会開催される。自然障害を含むダービーで知られる「CSIO ジャンピング・インターナショナル・ドゥ・ラ・ボール」と、1100メートルのダービーコースを舞台に世界の精鋭が競うブルターニュダービーで注目される「ディナール国際障害馬術大会」だ。
さらに8月には、アイルランド・ダブリン中心部で行われる「RDSダブリン・ホースショー」と、海岸沿いの舞台が象徴的な「ファルステルボ・ホースショー」がスウェーデンで開催され、8月下旬から9月上旬にかけては、ブリュッセルのランドマーク近郊で「ブリュッセル・ステフェックス・マスターズ」が盛り上がる。
ロレックスは、限界を押し広げ、さらに高い水準へと引き上げる、馬術界で最も重要な大会や最高峰の選手たちと協力関係を築いている。
そして障害馬術における究極の挑戦といわれる存在が、2013年に創設された「ロレックス障害馬術グランドスラム」である。世界最高峰と称される四つの障害馬術グランドスラム「ダッチ マスターズ」「CHIOアーヘン」「CSIOスプルースメドウズ ‘マスターズ’ トーナメント」「CHIジュネーブ」のうち、3大会を連続制覇した選手のみに贈られるこの栄誉は、馬術界でも屈指の難関として知られる。
精度、信頼、伝統を重んじながら限界を押し広げ続ける姿勢は、ロレックスが掲げてきた哲学と重なり合う。ロレックスが重んじているのは、結果だけではない。長い年月をかけて技を磨き、パートナーと向き合い続ける――その姿勢そのものに価値を見いだしているのである。
世界最高峰の舞台で
偉業に挑む選手たち
ロレックス障害馬術グランドスラムの称号を手にした選手は、2013年の創設以来いまなお、英国出身の選手であり、2015年からロレックス テスティモニーのスコット・ブラッシュただ一人である。この事実そのものが、この挑戦の難易度の高さを物語っている。
ロレックス障害馬術グランドスラムが極めて困難とされる理由は、単に「3大会で勝つ」ことではない。屋外・屋内、芝・砂と異なる馬場条件、開催国ごとに変わるコース設計、観客規模や雰囲気の違いなど、各大会はまったく異なる性格をもつ。そのなかで3大会を連続して制するには、選手の技量だけでなく、馬の適応力、綿密なコンディション管理、そして人馬の揺るぎない信頼関係が不可欠となる。
さらに、連続制覇という条件は、数カ月から1年以上にわたって最高水準を維持し続けることを意味し、偶然や勢いが入り込む余地はほとんどない。
トップ選手たちは皆、ロレックス障害馬術グランドスラムを中心にシーズンの計画を立て、その一戦一戦に最大限の準備を尽くす。
ロレックス テスティモニーでドイツ出身の選手ダニエル・ドイサーは、世界ランキングで何度も1位に輝いてきた名選手のひとりだ。彼は、「トップ選手たちは皆、ロレックス障害馬術グランドスラムを中心にシーズンの計画を立てるのです」と話す。この言葉は、優れたパートナーとなる馬の存在に加え、わずかな運さえも必要とされる、総合的な卓越性を問うものであることを端的に示している。
欧州が熱くなる季節、
アーヘンという舞台
馬術の本場は、今もなお欧州にある。その象徴的な存在が、毎夏ドイツで開催される「CHIOアーヘン」である。「馬術のウィンブルドン」とも称されるこの大会は、競技の格式、観客の熱量、そして舞台としての完成度において、他に類を見ない存在だ。
スタジアムに満ちる静寂と緊張感、障害を越えるたびに沸き起こる歓声。そのすべてが、馬術という競技の奥深さと美しさを際立たせる。日本の選手たちも、この欧州の競技環境で経験を積み、世界と対峙してきた。CHIOアーヘンは、単なる大会ではなく、馬術文化そのものを体感できる場所なのである。
馬術における人と馬の関係は、急速に築けるものではない。日々の積み重ねと、相手を理解しようとする姿勢があって初めて成立する。その絆は、長い時間をともに刻むことで深まっていく。
人と馬、二つの意思がひとつになるとき、そこに生まれるのは、言葉を超えた卓越性である。馬術は、その瞬間を、最も美しい形で私たちに示してくれるのである。


