現金手渡しでの生前贈与を避けた方がよい理由
生前贈与の主な目的は相続財産を減らすことなので、贈与が認められなければ相続税対策にはなりません。つまり何らかの形で贈与の事実を残しておく必要があるため、証拠が残りにくい現金手渡しは贈与方法としておすすめできません。
現金手渡しでの生前贈与は税務署に指摘される
税務調査の名目で銀行口座を調べる権限があるため、税務署は振り込みなどの履歴も正確に把握しています。しかし現金手渡しにするとお金の流れがつかめないため「贈与が知られずに済むのでは?」と考える人がいるかもしれません。
ところが、税務署は前述したように本人以外の口座も調査できるので、受贈者が自分名義の口座に入金すると「お金の出どころはどこか?」と問われることになってしまいます。贈与者の出金日や出金額、使い道の調査から外堀が埋まり、最終的には現金手渡しが露呈します。
そもそも税務調査が行われる時点で十分な証拠を固めているため、下手な言い逃れは一切通用しないと思っておきましょう。ちなみに年間110万円までの贈与は非課税になりますが、110万円以上の贈与を意図的に申告しなかった場合は税率50%の重加算税が課される場合もあります。
暦年贈与として認められない可能性がある
税務署から生前贈与を否認された場合は、110万円以下の贈与であっても相続財産にカウントされるため、相続税が高額になる恐れがあります。現金手渡しは生前贈与の証跡が残らないので、必ず銀行振込を利用し、贈与契約書も作成しておきましょう。
また、毎年同じタイミングで同じ金額を贈与すると定期贈与に判定され、110万円以下の贈与でも合計額に対して贈与税がかかります。正月に帰省する子供や孫に現金手渡しで贈与する、といった状況も要注意です。
生前贈与が認められる要件
贈与者本人が「これは生前贈与だ」と主張しても、税務署に認められなければ贈与は成立しません。生前贈与が認められる要件は2つあります。特に現金手渡しの場合には気を付けるようにしましょう。
贈与者と受贈者の意思表示が必要
金銭などの財産を贈与する場合、贈与者と受贈者双方の意思表示が必要になります。贈与者が一方的に財産をあげたとしても、受け取る側が承諾していなければ贈与は成立しないため、双方の「あげる」「もらう」の意思表示が必要です。たとえば孫の名義で銀行口座を開設して祖父母が入金していたとしても、孫がその事実を知らなければ孫への贈与にはなりません。通帳やキャッシュカード、印鑑が祖父母の管理下にある場合は、孫の名前だけを借りている「名義預金」となり、祖父母の相続財産にカウントされます。
贈与契約書を作成しておく
現金手渡しで生前贈与する場合は、贈与の証拠が残るよう贈与契約書を作成しておくことが重要です。贈与契約書に決まった様式はありませんが、以下の項目だけは必ず入れておきましょう。
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誰に贈与するのか
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何を贈与するのか
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いつ贈与するのか
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贈与の条件
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贈与の方法
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贈与者と受贈者の住所、氏名、押印(実印)
贈与契約をさらに確実なものにする場合は、公証役場で「確定日付」を表示してもらう方法もあります。公証役場に贈与契約書を提出し、内容に問題がなければ公証人が日付入りのスタンプを押してくれるので、その日、確実に贈与契約書が作成されたという証明になります。
現金手渡しで生前贈与をするときに気を付けること
「家族間の贈与だからあまり大げさにしなくても」と考える人がいるかもしれませんが、方法を間違えると加算税などのペナルティもあります。相続税対策の効果が失われるケースもあるので、現金手渡しで贈与するときは、次に解説する注意点を覚えておきましょう。
贈与契約書は毎回作成する
暦年贈与を利用するときには、毎回贈与契約書を作成しておきましょう。贈与者と受贈者の意思疎通があり、110万円以下の贈与だったとしてもなんとなく「今回は契約書を作成する」「今回は作成しない」では、税務署に理由を問われた時に説明に困ることになります。
なお、手間を惜しんで「1,000万円を10年にわたって分割贈与する」といった契約書を作成した場合、定期贈与にみなされてしまいますので、文言にも注意が必要です。
相続開始前3年以内の贈与は相続財産にカウントされる
贈与契約書を作成した現金手渡しでも、相続開始前3年以内の贈与であればその贈与額は相続財産とみなされ、相続税の課税対象になります。死期が迫った人の財産を慌てて移転させるなど、あからさまな相続税逃れを防止するための措置なので、贈与者の健康状態をみながら判断するようにしてください。ただし、3年以内の贈与を相続財産に持ち戻したとしても、相続税の基礎控除内に収まっていれば相続税はかかりません。
生前贈与で相続税対策をする方法4つ
ここまでのおさらいになりますが、相続税対策に生前贈与を活用する場合は、相続財産を減らしつつ、贈与税の負担も軽くすることがポイントになります。贈与の目的によっては優遇税制が使える特例もあるので、次に解説する4つの方法を参考にしてください。
相続税対策になる生前贈与については「相続税の節税目的で使える生前贈与6つ【相続税対策をするときの注意点と共に解説】 」で詳しく説明しているため、ぜひ読んでみてください。
暦年贈与を活用する
前半でも暦年贈与について解説しましたが、相続税対策としては王道ともいえる贈与方法なので、定期贈与にならないよう気を付けながら活用してください。ただし非課税贈与できる金額は年間110万円までなので、高額な財産を贈与したいときには早めにスタートしなければなりません。また、贈与契約書は必ず作成し、現金手渡しよりもデータとして証拠が残る銀行振込がおすすめです。
相続税対策効果の高い生前贈与を行う
年間110万円までは贈与税がかからないため、年数をかければ1,000万円以上の相続財産を非課税贈与できます。しかし時間をかけられない事情がある場合は、1回の贈与額を増やし、あえて贈与税を払う方が相続税対策になるケースもあります。
仮に税率30%の相続税が発生する場合、非課税贈与の110万円と贈与税がかかる200万円では、以下のような違いが出ます。
- 110万円贈与:贈与税0円、相続税は110万円×0.3で33万円の減額
- 200万円贈与:贈与税9万円、相続税は200万円×0.3で60万円の減額
しかし(2)の場合は相続税の減額幅が大きいので、9万円を払ったとしてもトータルの納税額は低くなり、「60万円-9万円」で結果として51万円の相続税対策になっています。
贈与税の特例を活用する
目的によっては1,000万円以上の贈与でも非課税になる特例があり、種類と非課税枠は以下のようになっています。
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教育資金一括贈与の特例:最高1,500万円まで非課税
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住宅取得資金贈与の特例 :最高1,500万円まで非課税
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夫婦間での不動産贈与の特例 :最高2,000万円まで非課税
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結婚・子育て資金の一括贈与の特例:最高1,000万円まで非課税
夫婦間の不動産贈与以外は特例を使える期限が定められています。もっとも期限が早いのは結婚・子育て資金の一括贈与と教育資金一括贈与の特例であり、2023年(令和5年)3月31日までの贈与に限られます。また、特例を使う場合は一定要件を満たさなければならないため、検討する場合は相続専門の税理士へ相談するとよいでしょう。
相続時精算課税制度を活用する
相続時精算課税制度を選択して贈与した場合、2,500万円まで非課税贈与が可能になり、2,500万円を超える部分は一律20%の贈与税率が適用されます。
【相続時精算課税制度の利用要件】
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60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子供や孫への生前贈与する場合
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相続時精算課税選択届出書を税務署へ提出し、贈与の都度申告を行う
贈与した財産は相続財産に加算するので、最終的には相続税がかかります。しかし、贈与時の時価が相続税評価額になるため、場合によっては有効な相続税対策になります。一時的に評価が下がっている財産や、将来的に価値の上昇が見込める財産があるときは、相続時精算課税制度も検討してみましょう。
なお、暦年課税制度との併用はできないため、年間110万円の非課税枠は使えなくなります。
まとめ
ルールを守った生前贈与であれば現金手渡しでも贈与と認められ、税金を多く支払うこともありません。ただし、振り込みに比べると立証力が弱く、贈与契約書を作成していたとしても税務調査が入れば痛くもない腹を探られる状況になってしまいます。金銭の贈与はなるべく口座間の振り込みを利用し、通帳も必ず記帳するようにしてください。
また、生前贈与の目的は子供や孫への資金援助とともに、相続税対策も兼ねているため、相続税対策効果のない贈与では意味がありません。生前贈与と相続税対策は相関関係にあるので、実効性の高い贈与を検討する場合は、必ず相続に強い税理士へ相談してください。



