タンス預金とは?
タンス預金とは、銀行などの金融機関に預けず、自宅のタンスや金庫、引き出しなどで現金を保管することです。
タンス預金をする理由としては、「いつでも自由にお金を使える安心感がある」「銀行に預けても利息がほとんどつかない」「銀行の破綻が心配」といったものが挙げられます。
もちろん、タンス預金をすること自体は、法律で禁じられているものではありません。
しかし、注意しなければならないのは「税務署に知られずに済む」「相続税の申告から隠せる」といった誤った期待から、タンス預金をすることです。
後述するように、税務署は個人の資産状況をさまざまな方法で把握しており、タンス預金を隠し通すことは極めて困難といえます。
このことから、安易な考えでタンス預金をすることは、将来的に大きなリスクを招く可能性があるので十分にご注意ください。
【5ステップ】タンス預金が税務署に指摘されるまでの流れ
「自宅にお金を隠しておけば指摘されないだろう」と思われがちなタンス預金ですが、税務署はさまざまな情報をもとに調査して、財産の状況を把握しています。
ここでは、相続に関連して税務署がタンス預金を把握するまでの一般的な流れを、次の五つのステップで解説します。
- 税務署による資産状況のチェック
- 申告内容の照合
- 税務調査の対象者の選定
- 税務調査の開始
- タンス預金の発覚
ステップ1. 税務署による資産状況のチェック
税務署は、提出された「所得税の確定申告書」や「相続税の申告書」などから、納税者ごとの財産に関する情報をデータベース化しています。
このデータベースを「国税総合管理(KSK)システム」(国税庁「納税者サービスの充実と行政効率化のための取組」参照)といい、2026年には新たな次世代システムへの移行も予定されています。
税務調査にAI導入で追徴課税が増加!KSKも次世代システムへ完全移行(出典:VSG相続税理士法人ウェブサイト)
また、税務署では企業・金融機関・不動産業者・保険会社などに「法定調書」の提出を義務付けており、下記のような情報も把握しています。
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企業に勤める従業員の収入に関する情報
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有価証券の持ち主に関する情報
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不動産の売買に関する情報
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生命保険金の契約者と受取人に関する情報 など
これらの情報を組み合わせることで、税務署は個人の財産状況を詳細に把握していると考えられます。
ステップ2. 申告内容の照合
被相続人(亡くなった人)の遺産が相続税の基礎控除額を超える場合、遺産を取得した人は相続税の申告をしなければなりません。
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計算式
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相続税の基礎控除額=3,000万円 +(600万円×法定相続人の数)
相続税の申告がされると、税務署は「提出された申告書の内容」と「事前に把握している被相続人の資産情報」を照合し、不自然な点がないかを確認します。
たとえば、「生前の収入状況に比べて、申告された遺産が極端に少ない場合」や「過去に引き出された多額の預金の使途が不明瞭な場合」などは、税務署に疑念を持たれる可能性が高いです。
なお、相続税の申告をしなかった場合も、税務署が把握している財産状況から「申告が必要なはずなのにされていない」と判断されると、税務調査の対象となります。
ステップ3. 税務調査の対象者の選定
情報を照合した結果、申告漏れや財産隠しの可能性が高いと判断されると「税務調査」の対象に選ばれます。
この税務調査は、相続税申告からおよそ1~2年後に実施されることが多いです。
なお、相続税の申告を税理士に依頼して「書面添付制度」を利用している場合には、調査前に担当の税理士に対して「意見聴取」が行われます。この時、相続人は同席しません。
意見聴取のみで税務署の疑問が解消されれば、税務調査は実施されません。
ステップ4. 税務調査の開始
税務調査が始まると、税務署は「被相続人」だけではなく「相続人」の銀行口座についても、過去5~10年分ほどの入出金の履歴を調査します。
ここでは、「被相続人の口座から引き出された現金が、相続人の口座に入金されていないか」などがチェックポイントです。
その後、調査官は被相続人が住んでいた家などを訪問し、「実地調査」を行います。
実地調査では、何気ない会話から被相続人の生活ぶり、趣味などを把握します。被相続人の生前の収入や、昔の相続により取得した財産、譲渡所得など、被相続人の生涯にわたる財産の変動により予想される財産額と申告内容の財産額に乖離(かいり)がある場合、タンス預金の有無が探られ、場合によっては、金庫の中身などが確認されます。
ステップ5. タンス預金の発覚
税務調査の結果、申告されていないタンス預金の存在が発覚した場合、ペナルティが科されます。
まず、本来納めるべきだった相続税に加えて、「過少申告加算税(申告がなかった場合は、無申告加算税)」が発生します。さらに、納付が遅れたことに対する利息として「延滞税」も課されます。
そして、「意図的に財産を隠していた」と判断された場合などに発生するのが、「重加算税」です。重加算税が課されると、追加で納める税金が本来の税額よりも最大40%増えます。
追徴課税が多額になるケースでは、以上に加えて「脱税」として刑事告発され、懲役や罰金が科される可能性さえあります。
相続税の税務調査で追徴課税が発生するのは9割!どんなケースで起きる?
【参考】新紙幣発行もタンス預金が発覚する要因になる
2024年7月3日から発行が開始された新紙幣も、今後のタンス預金の発覚リスクを高める要因となります。
たとえば、相続税申告が終わったあとに、タンスに隠していた多額の旧紙幣を相続人が銀行で新紙幣に交換した場合、その取引履歴は記録として残ります。
税務署は銀行の取引履歴を調査する権限を持っているため、この新紙幣への交換が、申告漏れのタンス預金の存在を疑うきっかけとなりかねません。
以上のように、相続税や贈与税の申告をごまかす目的でタンス預金をしている場合、新紙幣への交換が発覚の引き金になる可能性は十分にあり得ます。
相続や財産に関する不安の正しい解決策
タンス預金をしたくなる背景には、以下のような「相続や資産管理に関する不安」があると考えられます。
- 相続税の負担を軽くしたい
- 死後の口座凍結が心配
- 有事にすぐ使える現金が欲しい
- 銀行破綻が怖い
しかし、これらの不安は「タンス預金」というリスクの高い手法ではなく、より安全な方法で解消することが可能です。
ここでは、それぞれの不安に対する正しい解決策を紹介します。
不安1. 相続税の負担を軽くしたい
「相続税の負担を少しでも減らしたい」という思いから、タンス預金で財産を隠すと、発覚時にペナルティを科されて、かえって大きな損失につながりかねません。
一方で、相続税の負担を正当に減らす手段は、下記のようにいくつも存在します。
相続税の負担を軽減したいのであれば、これらからご自身の状況に合った方法を選んで、計画的に実行することが重要です。
暦年課税贈与、相続時精算課税制度が2024年1月1日に改正されました。相続時精算課税制度に基礎控除が創設され、暦年課税贈与は相続開始前3年以内贈与の持ち戻しが7年以内に延長されています。
2023年度の税制改正で生前贈与の加算期間が7年に延長!改正ポイントを解説
どのような対策が有効かわからないときには、相続専門の税理士に相談することをおすすめします。
不安2. 死後の口座凍結が心配
亡くなった人の銀行口座は、死亡の事実を金融機関が把握した時点で凍結され、預金の引き出しや振り込みなどができなくなります。
このことを知ると、「葬儀費用や当面の生活費の支払いに困るのではないか」と心配される人がいるかもしれません。
だからといって、現金をタンス預金として手元に置いておくと、相続税の申告の際に遺産に計上し忘れるおそれがあります。また、被相続人の預金を引き出したことで、ほかの相続人にあらぬ疑いを持たれかねません。
口座凍結への対策としては、「生命保険金を活用する」という手段もあります。生命保険金は、受取人固有の財産として、保険金の請求をしたあと5営業日以内と比較的早期に受け取れるため、当座の資金に充てることが可能です。
また、「預貯金の仮払い制度」を使うことで、遺産分割前でも各相続人は一定額まで、被相続人の口座から預金を引き出せます。
以上のように、タンス預金に頼らなくても、葬儀費用や当面の生活費の工面はできます。
不安3. 有事にすぐ使える現金が欲しい
「いざというときに、すぐ使える現金が手元にないと不安」という気持ちから、タンス預金を選ぶ人もいます。
しかし、多額の現金を自宅に保管することには、盗難・火災・紛失といった物理的なリスクが常に伴います。
このことから、どうしても不安であれば、手元では「最低限の生活用資金」に限って自己責任で保管し、それ以上の現金は安全性の高い金融機関に預けて管理するほうが賢明です。
不安4. 銀行破綻(はたん)が怖い
「金融機関の経営破綻を心配して、タンス預金を選ぶ」という人もいるかもしれません。
しかし、日本の金融機関に預けているお金は「預金保険(ペイオフ)制度」によって保護されています。
万が一、金融機関が破綻した場合でも、一つの機関につき「預金者一人あたり元本1,000万円までと破綻日までの利息」などが保護されます。
このため、1,000万円を超える預金がある場合は、複数の金融機関に分散して預けることで、破綻リスクに備えることが可能です。
相続税対策としてのタンス預金はリスクが大きい!
今回解説したように、タンス預金で相続税を逃れようとすると、発覚時のペナルティが重いため、絶対に避けるべきです。
税務署の調査能力は、AIの導入などで日々向上し続けており、「たぶん指摘されないだろう」という安易な期待は通用しません。
また、自宅で現金を保管することは、盗難や災害による消失リスクがあることに加え、相続人同士のトラブルの原因にもなります。
相続税やタンス預金の解消について不安をお持ちの方は、税理士などの専門家にご相談ください。
特に相続を専門にしている税理士であれば、正当な方法で効果的に税負担を軽減するためのアドバイスをしてもらえます。



