工学的な技術を農業分野に活用する
弘前大学では食、健康、再生可能エネルギーの分野で地域に貢献できるさまざまなプロジェクトを進めている。その研究に携わった学生が地域社会に出て、大学で学んだ知識や技術を直接還元する。そして、地域の持続的な発展をリードしていく――。これがプロジェクトの目標だ。
プロジェクトの総括リーダー、農学生命科学部の石川隆二教授がこう話す。
「学部・研究科の枠を超えて本学一丸となって取り組んでいます。2018年から重視しているのが『農工連携』。農学生命科学部だけでなく、理工学研究科などで研究されている工学技術を応用し、農業を効率化したいと考えています」
例えば、センサーで匂いを感知し、野菜や果実などの熟度を非破壊で判定できる計測技術を使えば、最も品質が高い状態で収穫することが可能になる。熟練農業者が経験に頼っていた品質管理や栽培方法に工学技術を活用することで、新たに農業に参入する若年層を支援できる。
農産物の付加価値を高めるための品種開発にも取り組む。青森県の特産品であるリンゴ。弘前大ではこれまで、果皮が黄色で果肉が白い「こうこう」、果肉が赤い「紅の夢」、緑色の果皮で大型の「弘大みさき」などの開発に成功してきた実績を持つ。
価値の高い農産物を海外に販売していく
開発中の温暖化耐性の米
ほかの農産物でも新品種を開発して付加価値を高め、日本国内、さらに海外にまで販路を広げる。そのため、国際流通関係の研究者もプロジェクトに参加している。石川教授が語る。
「効率的な生産方法を確立し、付加価値の高い食品を海外に売り込む。こうした一貫した流れをつくり上げたい。総合大学ならではの強みを生かした取り組みにより、新しい農業が発展する可能性が見えてきました」
ただ今後、農作物の生育環境が変化していくことへの対応も考えなくてはいけない。そのテーマの一つが地球温暖化だ。石川教授自身は稲の品種改良を主な研究テーマにしている。現在の冷涼な東北の環境に適した稲は、温暖化が進むと品質を保てなくなる可能性があるため、温暖化に耐性を持つ稲の品種開発が求められている。
ここでもさまざまな分野の研究者との連携がカギとなる。まず、温暖化が青森県ではどのように進むのかについて、理工学研究科の研究者による予測モデルの活用を進めている。さらに、人文社会科学部の考古学の観点からの研究データも利用する。過去に起こった気候変動に人々はどう対応したのか。当時はどのような品種の稲が栽培されていたのか。県内の遺跡から発掘される炭化米の遺伝子などを解析して得た情報を品種改良に役立てている。
一方、再生可能エネルギーの分野では、風力発電に最適な立地条件や周辺環境への影響について、地元の発電事業者に役立つ研究を続けている。
一年を通して強い風が吹く青森県は、風力発電の設備容量は38万5263キロワット(17年3月末現在)と日本一の実績を誇る。さらに津軽半島や下北半島では洋上風力、陸上風力の新規プロジェクトも数多い。18年4月、北日本エネルギー研究所と食料科学研究所を統合再編した地域戦略研究所が研究を担当している。風力など再生可能エネルギーを使って生み出された電気を、送電線を使って都市部に送るだけでなく、地元で利用するためのマーケットの創出も大きなテーマだ。
小型の風力発電を養殖業に活用する
地域戦略研究所の本田明弘所長が開発した手作りの小型風力発電装置。漁業者がふだん使う帆布をブレードに活用するなど、メンテナンスをしやすい構造にしたのが特長だ
地域戦略研究所の本田明弘所長がこう話す。
「再生可能エネルギーの普及には、農業や漁業分野で、気候により変動するエネルギーを利用する市場をつくりだす必要があります」
風力発電といえば、巨大な風車が回っているイメージが強いが、小型の風力発電を使えば、電気が来ていない漁港などでの電力需要をまかなうことができる。本田所長とともに、小型風力発電の水産業への応用を研究する桐原慎二教授が話す。
「漁港に電気が来ていないため、水産業の現場ではICT(情報通信技術)の活用がなかなか進んでいません。小規模な発電装置があれば、養殖事業で使う照明やセンサーなどの電気をまかなうことができます」
ある漁港では、弘前大が手作りした風車によるエネルギーを実際に養殖に活用する社会実装実験が行われている。
本田所長がこう強調する。
「風力エネルギーの用途は発電だけではありません。古来、穀物を粉砕したり、水をくみ揚げたりするのに使われてきました。青森県は自然エネルギーの宝庫です。地域の実情に応じたさまざまな応用の仕方を今後、考えていきたい」

