英文の原典を読んでゼミで議論する
経営戦略論、組織論が専門の加藤俊彦教授
日本企業の戦略と組織を研究する加藤俊彦教授が、ゼミの学生たちに向かって次々に質問をしている。
「交渉力が高いのは、相手との関係がどういう場合?」
「価格が多少上がっても買うものってある?」
「セカンドソースという言葉の意味はわかる?」
商学部の3年生10人が参加するこのゼミでは、アメリカの大学などで使われている経営戦略論の教科書を原典で読み、理論の基本的な考え方を学ぶ。
学生は毎週のゼミに備え、20~30ページの英文を予習してくる。みんなで読み進めながら、ポイントごとに加藤教授がどんどん投げてくるボールを打ち返さないといけない。質問の答えを考えることによって、テキストの理解が深まっていく。
「本を読むだけでは知識は定着しません。知っていることを使って考えることが大事なんです」
と、加藤教授は語る。
テキストの輪読の合間には、グループに分かれて、学んだ理論を生かした研究を行う。昨年度のゼミの学生は、「人に見られていると、どのように行動が変わるのか」を、学生を対象とする実験から考察した。
10人以下と少人数 教員と学生が近い
3年生のゼミ。中身は濃いが雰囲気は和やか。ゼミ生のおよそ3分の1は海外に留学する
一橋大学では、商、経済、法、社会の4学部とも、3年生から全員がゼミに所属する。4年次も原則同じ教員のゼミで学び、卒業論文を仕上げていく。特に商学部では、大学で学ぶための基礎力をつける1年次の導入ゼミに始まり、4年通して週1回のゼミが必修となっている。
4学部あわせて1学年が約1000人という小規模な大学ゆえ、一つのゼミの人数は平均10人以下。夏休みには多くのゼミが合宿を行うなど、教員と学生の距離は近く、ゼミの学生同士も仲がいい。
「ゼミを中心としたフェイス・トゥー・フェイスのコミュニケーションが行われているのが本学の特徴です。教員にとっても、ゼミの学生は特別な存在。ゼミを通じて、学生の能力を引き出したいと考えています」
加藤教授による4年生のゼミでは、スマートフォンの電子部品メーカーを例に、そのビジネスの仕組みをひもといていた。加藤ゼミの大学院生が執筆した討議用の資料をもとに、学生がそれぞれパワーポイントでまとめた課題分析を発表する。
スマートフォン市場を二分する陣営の生産体制や、それぞれのビジネスの収益構造の違い、性能に優れたハイエンドの製品と廉価なローエンドの製品を一つの会社が手掛けることの意味ーーなどを検討していった。
「ハイエンドとローエンドでは、ブランドは共有しないほうがいいよね」
「有名ブランドの服と、その廉価版のようなことですね」
「ブランドを分ければ、二つの事業をやる合理性はあるの?」
「シナジーを生み出すなら、両方持っていてもいいと思う」
教授と学生がやりとりを重ねていく。議論は白熱し、ビジネスの現場でも通用するレベルの企業戦略にまで話は及んだ。
4年生には卒業論文が控えている。与えられた問題を解くのとは違い、オリジナルな問いを立てるところが難しい。昨年は、ドラッグストアの多店舗展開を研究した学生や、30年で成長に大きな差が出た同業種の2社を調べた学生がいた。
学ぶことの意味を学生に気づかせたい
資料をパソコンで共有し、発表に耳を傾ける
加藤教授は学生の教育のほかに、一橋大が企業のエグゼクティブ向けに開設している講座も担当し、経済界に幅広い人脈を持つ。自身の研究では、15年にわたって数十社の日本企業を調査し、優れた組織の特徴をつかもうとしている。こうしたビジネスの現場を知った上での指導がゼミの魅力でもある。
日本で初めてゼミ教育を導入したといわれる一橋大。加藤教授は学びの意義をこう語る。
「社会科学的な考え方を身につけることは、社会を見るために非常に重要です。幅広く勉強しながら、ゼミで特定の分野を深く学んで、社会を見る目を養い、論理的に考える力をつけてほしい。大学は人生をかけた学びの入口です。学ぶことには意味がある。それに気づいてもらえればと思っています」

