化石燃料に替わる理想的なエネルギー
2010年に大阪市立大学は、複合先端研究機構を開設した。その目的は、地球規模の課題解決に、研究科横断型のプロジェクトで取り組むことだ。
研究テーマの一つに、植物を介さず人工的に光合成を起こす人工光合成がある。これが実現すると、太陽光と水から酸素と水素を取り出せるようになる。発生させた水素と二酸化炭素を反応させ、エネルギー源となるメタノールなど有機化合物を合成すれば、人類はエネルギー問題を解決するための糸口を得ることができる。大気中の二酸化炭素を減らすこともできて、まさに一石二鳥。理想的なクリーンエネルギー社会実現に向けた技術開発である。
同機構の立ち上げ当初から、人工光合成の研究をリードしてきたのが神谷信夫教授だ。11年に岡山大学の沈建仁教授とともに発表した研究成果は、英「Nature」オンライン版に掲載され、米「Science」誌によるその年の世界10大成果の一つとして評価された。
人工光合成 実用化までの道のり
神谷信夫教授はノーベル化学賞候補にも名前が挙がる
神谷教授らは、太陽光と水から酸素を作り出す際に触媒として働くタンパク質、PS2の結晶構造を解明した。
「PS2は酵素の一種で、タンパク質が20種類も集まった複雑な構造をしています。その構造を最先端のX線装置により解明しPS2の中にある反応の中心部とも呼ぶべき部分の原子構造を明らかにしたのです」
この中心部と同じ原子構造の物質を作り出せれば、これを使った人工光合成実現の可能性が出てくる。
「ただし、この中心部だけで触媒機能を果たしているのか、それともPS2全体が関与しているのかがいまのところ不明で、その解明が今後の課題です」
神谷教授の研究成果を受けて13年に人工光合成研究センターが設立された。センターでは20年をめどに、人工光合成を起こす装置の試作機開発が進められている。実験室レベルの試作機ができれば、次は産学連携による実証実験を経て量産へと進む。仮に人工光合成装置が、太陽光パネルのように普及すれば、エネルギーと資源の問題は解決に向けて大きく前進する。
「研究とは、それまで世界になかった新しい何かを創造することです。そのために求められるのが徹底したオリジナリティ。ゼロからの創造という意味で研究者と芸術家は似ていると思います。芸術が人の暮らしを豊かにするように、研究は世の中を豊かにするのです」
コミュニティの防災を考える
CERDでは学生のみならず、市民も参加できる防災教室や災害対応ワークショップを行っている
地球規模の問題解決に取り組む一方で、公立大学である大阪市大には、地域課題の解決や社会貢献への期待もかかる。地域に根ざした防災研究と防災教育を推進する組織として設立されたのが、都市防災教育研究センター(CERD)だ。
CERDは、東日本大震災後に始まった全学的な被害調査活動の受け皿として設立された。
「遡れば阪神淡路大震災の後、多くの教員が被災地での被害調査や避難所での対応、救急時の医療対応など、それぞれの専門を生かした活動を行いました。しかし、その際は研究者単位の活動にとどまりました。その反省を踏まえ、東日本大震災の後は全学で専門領域を超えて、コミュニティの防災計画づくりに取り組みました。先月発生した大阪府北部地震についても学生や教職員、企業に向けて通勤・通学や帰宅の状況についてアンケートを実施するほか、避難所開設に関わる調査などにも取り組む予定です」
所長を務める三田村宗樹理学部教授はこう語る。
災害調査や対応策の立案には理系、文系、医学系など幅広い知恵の結集が必要だ。CERDは文理融合プロジェクトで教員同士が学部の垣根を超えて顔の見えるつながりを持つ、大阪市大ならではの組織といえる。
CERDではコミュニティ防災についての講義が行われ、毎年全学で約200人の学生が地域住民とともに受講。参加学生の1割程度が防災士の資格を取得する。CERDは地域の防災リーダーの育成機関としても重要な役割を担っているのだ。



