
【第2回】リスクとは何ですか?
- リスクとは投資や資産運用によって損失が発生する可能性のこと
- 世界最大規模の資産を運用する基金でさえ、リスクをゼロにはできない。
短期的な損失のリスクを受け入れつつ、長期的なリターンを目指している - 実は、リスクはリターンの源。したがって、資産運用をはじめる際には、まずリスクを理解することが大切
リスクとは損をする可能性であり、資産運用にはつきもの
「リスクを取らずに資産を増やすことができないか。」
ギリシャ神話では、手に触れるものがすべて黄金に変わる能力を得るという願いを叶えてもらう王様が登場します。中世のイスラム世界やヨーロッパでは、銅から黄金を生み出すという錬金術の研究が進みました。安全確実に大きな富を手に入れようという夢は、古今東西、普遍です。
しかし現実には、資産運用には損失が生じる可能性、つまり「リスク」がつきものです。
例えば、株式投資では、会社の業績が悪化して株価が下がるリスクがあります。また、短期的には一種の人気投票のように株価が決まる一面もありますので、会社の業績が向上しているにもかかわらず、株価が下がってしまうリスクがあります。
また、不動産投資では、不景気によって不動産の価値が下がったり、借主が見つからず賃料が得られなかったり、修繕費や管理費がかさんで、損失が発生するリスクがあります。
日本人はバランスよくリスクを取ることが苦手
国際比較をしてみると、日本人はリスクを極端に恐れているように見えます。

日本には1,800兆円もの個人金融資産があります。しかし、その半分以上が預金であり、これは他の先進国と比べて極端に高い数字です。個人金融資産に占める預金の割合は、アメリカやイギリスでは2割前後であり、堅実な国民性で知られるドイツでも、4割を下回っています。
金融資産が預貯金に集中する一方で、日本ではリスクが大きいFX投資は異常な拡大を遂げています。国内のFX取引は2015年には5,524兆円でしたが、その実需である日本の輸出額は2015年には75兆円でした。輸出額の70倍以上ものFX取引が行われているのです。
このように、個人の金融資産の半分が預金として眠っている一方で、リスクが大きいFX取引が個人投資家にまで普及しています。あまりに両極端で、バランスよくリスクを取っているとは言えません。
世界最大規模の資産運用でも、リスクをゼロにすることはできない
そこで前回の記事と同様に、世界最大規模の資産を運用しているノルウェー政府年金基金(約100兆円)を見てみましょう。世界最大規模の基金であれば、世界中の一流の専門家のアドバイスを受けて、最もよい方法で資産運用を行っていることでしょう。
前回の記事でみたとおり、ノルウェー政府年金基金は、いろいろな資産を組み合わせ、つまり、「ポートフォリオ」を組んで運用しています。約100兆円の資産の65%は株式に、33%は債券、3%を不動産に振り分けています。もっと詳細をみてみると、アップル、ネスレ、シェル、グーグルをはじめとする77カ国・地域の8,985銘柄に分散しています。
ポートフォリオを組んで運用する理由は、いろいろな資産を組み合わせることで、リスクを減らして安定的に資産運用を行うことができるからです。これは、ノーベル賞を受賞した理論によって証明されています。
そこで、今回は実際のリターンをみてみましょう。


ノルウェー政府年金基金のリターンは、1997年から2017年まで平均すると年5.8%です。年5.8%のリターンですと、仮に1997年の元本が100万ドルだったとすると、20年間で3倍の300万ドルになります。
https://www.nbim.no/en/the-fund/return-on-the-fund/
しかし、その間ずっと資産が増え続けてきたわけではありません。
20年間を通してみてみると、16年間はプラスのリターンですが、4年間はマイナスのリターン、つまり損失が生じていました。例えば、9.11やITバブル崩壊に見舞われた2001年には2.5%の損失を出しており、翌2002年はさらに悪化して4.7%の損失でした。さらに2008年には、リーマン・ショックによって23.3%もの損失が生じています。
こうした、リターンがマイナスの1年を含めて20年間の期間全体を通してみてみると、平均5.8%のリターンとなっています。このように、叡智を結集して100兆円規模のポートフォリオを組んでいたとしても、リスクをゼロにすることはできないのです。
短期的なリスクを受け入れつつ、長期的なリターンを目指す
ここで興味深いのは、リーマン・ショックから年が明けた2009年は25.6%と、過去20年間を通じて最高のリターンだったという事実です。
2008年のリーマン・ショックでは、多くの投資家がパニックに陥って資産運用をやめたり、資産の一部を売却して現金化していました。その後、パニックが収まるにつれて、株価も少しずつ回復しました。もしも、ノルウェー政府年金基金が、2008年に大きな損失が発生した時点で資産を売却し、リスクを減らしていたら、翌2009年の過去最高のリターンを得ることはできなかったことでしょう。
このようなリターンの動きから、短期的に損失が発生するリスクを受け入れつつ、あくまでも長期的な視点で資産運用を行っていることが見て取れます。
長期運用という方針は、ノルウェー政府年金基金の経営体制にも現れています。最高経営責任者(CEO)はリーマン・ショック直前の2008年1月から現在に至るまで同じ人物が務めています。CEOに昇進したその年に10兆円前後の損失を出していますが、解任されることなく現在もCEOとしての責任を負い続けているのです。
資産運用を始める際には、まずリスクを理解することが大切
資産運用を行うにあたっては、金融商品やサービスを利用することで、自分自身がどのようなリスクを取ることになるのかを理解することが大切です。どれほどパンフレットがきらびやかで、分かりやすくても、「何かひっかかる」「リスクがよく理解できない」と感じる場合には、決して無理に利用しないことが賢明です。
例えば、先ほどのノルウェー政府年金基金の例では、どのようなリスクを取っているのでしょうか。一言で、わかりやすくリスクを表現することができるでしょうか。
ノルウェー政府年金基金は、約100兆円の資産を、株式、債券、不動産の3つの資産クラスに分け、77ケ国・地域の8,985銘柄に分散して投資しています。敢えて単純化すると、世界経済全体に投資することで、世界経済に対するリスクを取っていることになります。このため、もしも国際的な経済危機が発生すれば損失が生じる恐れがあります。実際、ITバブルの崩壊やリーマン・ショックの際には一時的とは言えマイナスのリターンでした。
そして、これを別の角度から見ると、世界経済に対するリスクを取る見返りとして、世界経済が成長していくのに伴って、20年間で約3倍という大きなリターンを得ています。
つまり、リスクとリターンは実は表裏一体の関係にあり、リスクがリターンを生み出す源となっているのです。
このような資産運用の本質を踏まえれば、資産運用を始める際にリスクを理解することがなぜ大切なのかも自ずと明らかでしょう。リスクを理解することは、単に損失の可能性を理解するだけでなく、リターンの源泉がどこにあるかを理解し、ひいては自分にあった方法で資産運用を行うはじめの一歩となるのです