
【第6回】リーマン・ショックが再び起きたらどうしたらよいでしょうか(後編)
- リーマン・ショックが起きたとき、実は何もしないことが得策だった
- パニックに陥って資産運用を中断すると、損失がそこで確定してしまう
- 中長期的に世界経済が成長し続ければ、金融危機が資産運用に与える影響は一時的
前回のまとめ
金融危機を事前に正確には予見することはできません。そこで、前回は、リーマン・ショックが発生した後に、米国の株式市場の株価にどのような影響が出たのかを振り返りました。
2008年1月の株価(S&P 500)の水準を「100」とすると、リーマン・ショックによって株価は急激に下落し、09年3月末には元の水準の約半分の「51」まで下落します。その後、株価は上昇と下落を繰り返し、17年9月末には、元の水準の約2.2倍の「225」にまで回復しました。

アメリカの私の義理の両親は、リーマン・ショックによってパニックに陥ったのですが、アドバイザーから、次のような助言をもらいました。
- 過去の金融危機でも株価は大きく下落したが、やがて回復している
- 仮に今回も一時的な下落であるならば、損失も一時的なものに留まる
- しかし今、株式を売却すれば、一時的なはずの損失が確定してしまい、回復できない
- 手元に現金の余裕があれば、むしろ割安で追加投資をする大きなチャンス
これらの助言にしたがって、何もしなかった(資産運用を止めなかった)ことが成功につながりました。
資産運用を止めていたらどうなった?
では、もしも私の義理の両親がアドバイザーの助言を無視して、リーマン・ショック前から約30%株価が下落したタイミング(08年10月末)で資産運用を中断していたらどうなっていたのでしょう? 数字を見てみましょう。

株価がリーマン・ショック前より約30%下がった時点で運用を止めると、当然ながら損失を被ります。が、そこからリーマン・ショック前の半分の水準まで資産価値を下げることは避けられたはずです。その後も現金のまま保有していたとすると、資産は株価の水準が「71」のときに確定させたまま増えも減りもしません。
一方で、株価が暴落したときも慌てず資産運用を続けたとすると、市況はほどなく上向き、17年9月の時点での株価の水準は「225」とリーマン・ショック前を大きく上回ります。運用を中断したケースと比べ、資産価値ははるかに大きくなりました。
つまり株価が暴落したとき、パニックに陥って資産運用を中断してしまうのは得策ではないのです。
再開しても、差は取り返せない
とはいえいったん運用を止めたとしてもその後10年近く現金のままにしておくことは考えにくく、どこかのタイミングで資産運用を再開したはずです。
株価が底を打った09年3月のタイミングではどうでしょうか? おそらく無理でしょう。後から振り返れば底を打ったとわかりますが、当時は誰にも判断できなかったからです。
そこで現実的な仮定として、株価が08年1月と同じ水準に回復した11年1月末に売却したのと同金額の「71」で資産運用を再開したとします。すると、17年9月末の時点での資産価値は「161」となります。

11年1月末に資産運用を再開したとすると、リーマン・ショック前と比べて資産価値は約1.6倍に増えています。しかし資産運用を中断しなかった場合(何もしなかった場合)の資産価値「225」と比べると30%も低い水準にとどまっています。グラフを見ると、資産運用を再開してからもずっと30%の開きがあり、絶対額でみると差は開く一方だとわかります。
リーマン・ショックの際、アメリカの義理の両親のアドバイザーが「株式を売却すると、一時的であるはずの損失が恒久的に確定し、回復できない」と言っていたのはこういう意味だったのです。
リーマン・ショックのような金融危機がいつ起こるのかは事前にはわかりません。金融危機が起きたとき、個人投資家はパニックに陥ることなく、様子を見ることが大切です。株価の暴落は一時的なものであって中期的には回復し、つれて資産価値も上がっていく。それが、私の義理の両親が実体験から学んだ教訓でした。
株価暴落が一時的である理由は?
なぜ金融危機の際の株価の下落は一時的であり、やがて回復するといえるのでしょうか。
中長期的に経済が成長し続けるのであれば、株価も世界経済の成長に合わせて(上がったり下がったりを繰り返しながらも)中長期的に上昇していくからです。一時的に株価が高すぎたり低すぎたりするのは、振り返れば運用の成果には大きな影響を与えなかったということになります。
「長期・積立・分散」という手法で、世界経済全体を対象に長期的な資産運用を行う場合には、世界経済が中長期的に成長し続けることが前提となります。その前提を信じるのであれば、リーマン・ショックが再び起きたとしても何もしなければよい、ということになるのです。