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2011年12月26日
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小原篤のアニマゲ丼

オタク・ドリームズ・カム・トゥルー

文:小原篤

写真:「friends もののけ島のナキ」 (c)2011「friends もののけ島のナキ」製作委員会拡大「friends もののけ島のナキ」 (c)2011「friends もののけ島のナキ」製作委員会

写真:「宇宙人ポール」 (c)2010 Universal Studios.All Rights Reserved拡大「宇宙人ポール」 (c)2010 Universal Studios.All Rights Reserved

写真:「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」 (c)2011 Paramount Pictures.All Rights Reserved拡大「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」 (c)2011 Paramount Pictures.All Rights Reserved

写真:「永遠の僕たち」 (c)Sony Pictures Digital Inc.拡大「永遠の僕たち」 (c)Sony Pictures Digital Inc.

写真:「ルルドの泉で」 2009(c)coop99 filmproduktion,Essential Filmproduktion,Parisienne de Production,Thermidor拡大「ルルドの泉で」 2009(c)coop99 filmproduktion,Essential Filmproduktion,Parisienne de Production,Thermidor

 今年最後のアニマゲですが、激動の年を締めくくるにふさわしい「これだ!」というネタが特に思いつかないので、年末年始のオススメ映画の話でもしましょうか。

 本欄ではしばしばネタバレ話をして時々しかられたりしますが、童話「泣いた赤おに」が原案です、と堂々と自分からネタバレをかましているのが「friends もののけ島のナキ」(公開中)。日本製フルCG映画としては、肌や布や草木の質感、生き生きした表情などがかつてないほどこなれていて、見ていてストレスを感じない仕上がり。「ALWAYS 三丁目の夕日」の映像制作会社「白組」と山崎貴監督(八木竜一さんと共同)が、見事な仕事をしています。

 もののけ島に迷い込んだ赤ん坊コタケを預かった赤鬼が、コタケを人間の村に返した後も情が移って会いに行き……。もちろんいい話なんですが、原案を知らない方が感動できたかなー、というのが正直なところ(無理な話ですけど)。そういえば、山崎監督のデビュー作は、いわゆる「ドラえもん最終回」をモチーフにしていますが、それを知らずに見てアッと驚いたのを思い出します。

 不覚にもジンと泣けてしまったのは同じ山崎監督の「ALWAYS 三丁目の夕日’64」(1月21日公開)。シリーズを続けて見ていると(実はそんなに好きではなくっても)登場人物に自然と思い入れがわいてくるもののようで、花嫁姿で「お世話になりました」なんてやられたらベタとは分かっていながらついホロリ。おっと、これ以上はネタバレになるかな。VFX(ビジュアル・エフェクト)畑出身の山崎監督は、フィルモグラフィーを見ると泣ける話が好きなんですね。

 米映画「リアル・スティール」(公開中)もVFX+人情話。「ロボット格闘技」なるものを通じて、ボクサーくずれのダメおやじ(ヒュー・ジャックマン)が息子との絆とプライドを取り戻すというベタなお話ですが、核となるロボット格闘技がリアルで熱く、新鮮なビジュアルのせいで古くささを感じさせません。「息子のために一念発起したお父さんが大奮闘」というのがこの手の話のパターンですが、本作は父と子が連携し協力して旧式のポンコツロボを強くしていくところがミソです。

 でもこの格闘技、実際のところはほぼボクシングで、しかも人間と同じく「顔面をヒットするとダメージがでかい」という設定なんですけど、ロボットにそれはどうなんでしょう? 強烈パンチで頭を吹っ飛ばされても「まだだ! たかがメインカメラをやられただけだ!」とか言って試合を続けないかなーと、頭がガンダム脳な40オタクは思うのでした。

 で、そんな年代のオッサンにピッタリなのが「宇宙人ポール」(公開中)。アメリカ西部のUFO聖地巡礼に来たイギリス人のSFオタク、グレアムとクライブの2人が本物の宇宙人ポールと出会い、追っ手の捜査官をかわしつつポールの故郷への帰還を助ける物語。60年前に地球に来たというポールは毒舌家で下ネタ好き(吹替版を作るなら若本規夫さんでお願い!)。その外見は「宇宙人といったらアレでしょ」という姿そのまま。UFOと宇宙人をめぐるおなじみの“伝説”を物語に巧みに取り込み、「未知との遭遇」や「スター・ウォーズ」や「E.T.」ネタをちりばめて楽しませてくれた上に、感動の大団円にまでもっていくというオタク・ドリームズ・カム・トゥルーな映画です。

 物語の中で成功を手に入れたグレアムとクライブよろしく、でっかいオタク・ドリームを成し遂げたのがブラッド・バード監督でしょう。11歳でアニメ作りを始め、14歳でディズニースタジオに招かれた天才アニメーターは、アニメ映画「アイアン・ジャイアント」「Mr.インクレディブル」「レミーのおいしいレストラン」を監督し、初の実写作品として手がけた大作「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」が現在大ヒット公開中。「インクレディブル」の時インタビューして「CGで手がきアニメの動きの面白さを目指した」といったお話をうかがいましたが、もうアニメには戻ってこないのかしら?

 トム・クルーズ演じるスパイのイーサン・ハントが、核戦争による人類滅亡をもくろむテロリストと対決するお話。冒頭の刑務所脱獄からクレムリン侵入作戦とテンポよく、ドバイの超高層ビルの壁を登るヒヤヒヤ高所アクションからエレベーター式立体駐車場での上下動を生かしたスーツケース争奪戦まで、息もつかせぬスリルの連続です。やたらハッキングに頼るのは芸がないのですが、予期せぬ事態が起きて綱渡りでくぐり抜け、という展開を用意しているので興ざめすることはありません。廊下全面をふさいで見張りを欺くスクリーンとか、壁を登るペタンコグローブといった、ふしぎ道具の数々もお楽しみ。

 テロリストから奪回を図る機密情報が「核ミサイルの発射コード」ってところが古くさい上、ただの書類なので普通にコピーが取れたり(映画の中でイーサンたちがコピーをとってる)というのは、ハイパーな電子戦を繰り広げる物語に大変そぐわない気もしますが、レトロな「スパイ大作戦」らしさが核にないといけないのかも知れません。

 おしまいにはシリアスな文芸作品を2作ご紹介。「永遠の僕たち」(公開中)は、両親を事故で失い自らも死にかけた少年が主人公。特攻で死んだ日本兵の幽霊だけが話し相手で、生きる意味を見失い他人の葬式をのぞいて回る少年の前に、余命3カ月という少女が現れて……。こう書くとちょっと「中2病」くさい設定ですが、ガス・バン・サント監督はてらいもなくベタにもならず、あざとさギリギリの洗練度で、切なくピュアなラブストーリーを描き出します。

 「アリス・イン・ワンダーランド」のアリス役だったミア・ワシコウスカと、名優デニス・ホッパーの遺児ヘンリーのういういしさと繊細な演技が最大の見もの。ジーン・セバーグとジェームス・ディーンがトリュフォー映画に出ているような、そんな雰囲気が味わえます。

 さて、一番のおすすめは「ルルドの泉で」(公開中)です。「奇跡の泉」を求め世界中から人々が集まるカトリックの聖地ルルド。難病で車いす生活を長く送ってきたクリスティーヌもまた、聖地ツアーに参加し泉の水を浴びる。旅の終わり近く、突然立ち上がることができたクリスティーヌ。喜ぶ彼女を皆が祝福するが、その「奇跡」は羨望(せんぼう)や嫉妬も巻き起こすことに…というお話。

 車いすの大集団が泉へ行列しミサに集まる、その光景は胸をザワつかせます。「奇跡」を切実に求める集団の姿が、見渡してもそんな「奇跡」などどこにもないという現実を見せつける皮肉。病気や障害のある人々がツアーバスで送り込まれ、事務的で流れ作業的な「聖地」体験コースを消化し、最終日に記念の集合写真を撮って出発。おそらくはルルドで日常的に繰り広げられているこの光景を、余計な色をつけず客観的にとらえた映像が印象的です。「奇跡」というものがまとっている神秘性、ロマンを、容赦なくはぎとる即物的な力がそこにはあります。

 ワインとトランプを楽しんでいる神父に「どうすれば病気が治るのです?」とすがりつくように問えば「まずは魂をいやすことです」、そして修道女が「あなたの苦しみには意味があるのよ」と諭す。こう言いながら、この人たちは決して「奇跡」を否定はしない。こんな問答が何万回と繰り返されているんだろうな、と思うとやるせないむなしさが募ります。

 立てるようになったクリスティーヌをめぐる描写も、身もフタもない覚めたリアリズム。弾劾(だんがい)もせず、からかいもせず、むろん美化もせず。でもこれほど「奇跡」に寄り集まる人々に冷や水をかける映画もない、と思いました。

 しかし日本だって合格祈願・厄よけ・縁結び・病気回復その他あれこれ、「御利益」を求めて人々が宗教施設に群れ集っているのですから、考えてみれば同じこと? 願いといっても大抵は、さい銭100円分ほどのことですが。

 さてさて、それじゃあ正月には初詣にでも行って、じいっと観察してみましょうか――と、年末っぽいことを書いて本年はこれにておしまい。それでは皆様、よいお年を。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2010年10月から名古屋報道センター文化グループ次長。

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