廃木粉とプラスチック成形技術が生んだ新素材 老舗メーカーが描く持続可能な未来
日本の1人当たりのプラスチック廃棄量は世界第2位。環境課題が深刻化する中、60年以上プラスチック成形事業をおこなってきた菱華産業が、新たな環境配慮型素材の開発に挑んでいる。
カギを握るのが、製材や木材加工などの際に出る廃材を細かく粉砕した「廃木粉(はいもくふん)」。この廃木粉を51%以上含む新素材は木材として分類されるため、廃棄時には焼却が可能になる。
同社で事業開発に携わる都地盛幸さんに、新素材の開発の経緯と今後の取り組みについて聞いた。(聞き手 編集部・池田美樹)
廃木粉を利用した環境配慮型素材
——MIRAIWOODとはどのような素材なのでしょうか。
木材を51%以上含み、残りを生分解性樹脂(Bio-PBS)で構成した新素材です。使用する木材は、製造業から排出される未利用の廃木粉を主としています。
重量比では木材が51%ですが、木材はベース材(Bio-PBS)に比べ比重が小さいため、体積比では8割以上を木材が占めています。その結果、全体の73.3%が自然由来の材料(Bio-PBS自体は48.5%が自然由来とされる)となっています。
大きな特徴は、木材として分類されるため、廃棄時には焼却が可能で、プラスチックごみにはならない点です。リサイクルも可能で、資源として循環することもできます。
また、木材のように削ることや天然漆を塗ることが可能です。これはプラスチック素材では難しかったことです。
——開発の背景について教えてください。
当社は60年以上プラスチック成形に携わってきました。神奈川県の平塚市にあるプラスチック成形工場では、家電や自動車部品から始まり、現在は食品関係の容器、医療系のトレー、ドリンクカップなどをクリーンルームで製造しています。
しかし、2018年のG7で海洋プラスチック問題が大きく取り上げられ、環境への配慮が必要だと考えました。日本は世界第4位のプラスチック排出国で、プラスチックは400年から1000年以上分解されずに残り続けることもあります。そこで東京都立産業技術研究センターと共同で、環境負荷の低い新素材の開発をスタートさせました。
当初は2020年の東京オリンピックに向けた使い捨て容器の開発が目的でしたが、開発を進めるうちに製品の質感が予想以上に高いことがわかり、より永続的な用途での活用を目指すことになりました。約2年間の共同開発を経て、現在の製品化に至っています。
環境保全と資源活用の取り組み
——環境面ではどのように貢献していますか。
大きく2つの側面があります。まず、木材は数十年かけて二酸化炭素を固定化していますが、廃棄時に燃やすと一瞬で大気中に放出されてしまいます。MIRAIWOODは木材を循環させ何度も再利用することで、二酸化炭素の固定を継続できます。また生分解性樹脂を使用することで、海洋プラスチック問題への対応も図っています。
最近では木材不足も深刻な問題となっています。アメリカ、カナダからの材料が手に入りづらくなり、ウクライナ情勢の影響でロシア材も手に入れるのが難しくなりました。国産の木材も非常に不足しており、特に住宅建築などへの影響が大きくなっています。
こうした状況の中で、これまで廃棄されていた資源を有効活用することは、木材不足問題の解決にも貢献できると考えています。
——活用について例を教えてください。
例えば、漆器の製造過程では原木の9割以上が廃材として出ます。ケヤキなどの高級木材でも、節がある部分は漆器には使用できず、廃材となっていました。
これまでは廃棄や焼却処分、あるいは家畜の寝床飼料として使用される程度でした。そこで私たちは、この廃材をMIRAIWOODの原料として活用し、新たな価値を生み出しています。
石川県の伝統工芸である山中漆器をつくる我戸幹男商店との協業では、この技術を活かして漆器の木地を製作し、伝統工芸品として生まれ変わらせることに成功しています。山中漆器は加賀市の伝統産業で、特に木地を挽(ひ)く技術に優れており、その技と私たちの新素材を組み合わせることで、新しい可能性を広げています。
また、チョコレート製造過程で出るカカオハスク(カカオ豆の外皮)も原料として活用しています。協業している大手食品メーカーの明治とカカオ産地の支援につなげていくことを目的とし、取り組みを進めています。
製品化と実証で広がる活用の可能性
——コラボレーション製品にも取り組んでいます。
明治とのコラボレーションでは、カカオハスクを活用した「CACAO STYLE」シリーズを展開しています。茶菓子器「CACAO ボンボニエール」やキャニスター、ペーパーカップホルダーなどを製品化し、ほのかにチョコレートの香りも感じられる独特の製品となっています。「CACAO ボンボニエール」は伝統工芸の山中挽きと漆塗りで仕上げており、高級感のある仕上がりとなっています。
我戸幹男商店は、都内のデパート等でも扱われる人気ブランドなのですが、多くの需要があっても、材料がなくて製品を作れないという状況に直面していました。
代表の我戸正幸さんは山中の伝統技術を残したいという思いと、職人の雇用を安定させたいという2つの課題を持っていました。
そこで私たちは、職人が削る木地形の金型を作り、MIRAIWOODで漆器の木地を製作し、山中漆器の特徴的な技術である「山中挽き」という削りの技術を活かせる製品開発に取り組みました。製品には漆を何度も塗り重ね、伝統的な技法で仕上げています。
さらに「EDO-NIHONBASHI」シリーズでは、江戸文化と工芸をモチーフにした製品開発をおこなっています。タンブラーや椀(わん)など、現代の生活に溶け込むデザインと機能性を備えています。2024年10月の松屋銀座でのポップアップショップでは、特に海外からの来店客に、環境への配慮と伝統技術の融合という点で好評でした。
——石川県加賀市での実証実験もおこないました。
加賀市での実証実験では、伝統産業や地域産業など持続性が求められる産業と実際の開発工程を実施することで、今後の本格的な社会実装への課題を発見するための取り組みをおこないました。
特に漆器の分野では、職人の技術を活かした製品開発を重視しました。山中漆器では若い女性職人も活躍していますが、これまでは材料の入手が不安定で雇用も不安定になりがちでした。MIRAIWOODの活用により安定した材料供給が可能になり、職人が安心して働ける環境づくりに貢献できると考えています。
この実証実験により、産業の製造プロセス、産業を取り巻く社会課題、地域社会に生活する人々の課題、そして最終製品のユーザー体験と回収リサイクルまでの循環を詳細に調査、分析しました。加えて、アップサイクルによって得られる資源の金融価値と循環経済システムなど、環境素材を社会実装するために必要な開発要素を具体的に定義することができました。
技術課題の克服と未来への展望
——製品開発における課題はありますか。
現状の大きな課題は耐熱性です。木材は180度から200度を超えると分解してしまうため、高温での使用には制限があります。通常のプラスチックでは分子量を上げることで耐熱性を高められますが、MIRAIWOODは木材が8割を占めているため、そういった調整が難しい状況です。
また、製品の厚みによってそれぞれ異なる課題があります。薄い製品を作る場合は型に材料を流し込む工程が難しく、肉厚な製品を作る場合は内部に気泡ができやすいという課題があります。
例えば我戸幹男商店との協業では、製品を削る際に中から気泡が出てきてしまい、きれいな仕上がりを妨げるという問題がありましたが、これについては新しい製法を開発して特許を申請し、解決に至りました。
このように、従来のプラスチック製品とは異なる技術的な課題がありますが、ひとつずつ解決しながら製品開発を進めています。
——今後はどのような展開を考えていますか。
2024年に「こどもたちのために、今できること」というパーパスを掲げ、人間社会を持続する循環型産業の実現を目指しています。現在、年間1000t規模の木材削減につながる大規模プロジェクトを進行中です。
このプロジェクトでは、5つのミッションを設定しています。社会課題を解決する事業設計、産業課題を解決する事業設計、自然環境を回復する事業設計、素材とエネルギーの循環を実現する産業設計、そして文化的な生活を持続するための美しく魅力的な製品設計です。
また、「MIRAIWOOD FORUM」という企業コンソーシアムを設立し、オープンなイノベーションを推進していく予定です。さらに「日本橋サスティナブルデザイン会議」を通じて産学連携研究も進めていきます。
戦後の大量生産によるコスト低減と行政依存の大量廃棄が前提の産業構造から脱却し、持続可能な循環型社会を実現する。それが私たちの目指す未来です。
朝日新聞SDGs ACTION!契約編集者
株式会社マガジンハウスで『Olive』『Hanako』『anan』『クロワッサン』などの雑誌編集者、米国テック会社のニュース編集者を経てフリーランスに。ウェルビーイング、テクノロジー、女性の働き方、旅などを主な取材テーマとする。 池田美樹の記事一覧
-
2025.01.20廃棄プラスチックを価値ある資源に 元航海士がアートの視点で描く循環型社会への挑戦 -
2025.01.09マテリアルリサイクルとは? 三つの種類や具体例、メリット・課題を解説 -
2024.12.01プラスチック条約に世界共通ルールを 「プラスチック若者会議」が提言書発表 -
2024.11.30サーマルリサイクルとは? リサイクルではない? 仕組みや現状、課題を解説 -
2024.11.29微生物が作る繊維が未来の循環型経済をデザイン 将来的に廃棄衣服の再資源化も視野 -
2024.09.09コートジボワールで学ぶアフリカのごみ処理近代化の道 日本から世界へ~「リバブル」な都市とSDGs【1】