松本亜樹子さん
メルク人事本部 トータルリワードマネージャー
日下智香子さん
医療法人三慧会理事長/HORAC グランフロント大阪クリニック院長
森本義晴先生
日本航空株式会社 人財本部 人財戦略部 人財戦略グループ
田村知子さん
フリーアナウンサー/医療コメンテーター
田村あゆちさん(司会)
(写真左から)

日本で1人の女性が生涯に産む子どもの平均数「合計特殊出生率」は、2016年時点で1.44(※1)で、年間出生数は初めて100万人を割りました。人口減少・少子化問題は、日本の経済社会全体にとっても深刻な問題です。にもかかわらず、妊活・不妊治療に対する社会や職場の理解は進んでいるとはいえません。仕事との両立に悩み、退職を余儀なくされる女性も少なくないのです。妊活・不妊治療への理解を深め、治療と就労を両立させるためにはどうすればよいのか。不妊治療専門医、不妊治療体験者、企業人事部門担当に話し合っていただきました。
※1:厚生労働省「平成28年人口動態統計月報年計(概数)」(平成29年6月2日発表)
司会 こうした企業のサポートシステムがあれば不妊退職という問題もなくなるのかなと思うのですが、ここからは具体的に妊活で女性が退職することがないようにするためにはどのようなサポートが必要なのかを話し合っていきます。
松本 求められているのはリモートワークや時間休だと思います。半日丸々かからないこともけっこうあるので、2、3時間遅れるとか、あるいは早く帰らせてもらって注射だけ受けに行くとか、そういうことができると、仕事をしながら不妊治療もやりやすくなると思います。
司会 制度があっても使いづらい。どこが問題なのでしょう。
松本 アンケートのコメントを見ていると、実情に即していない制度が多いように感じました。たとえば「休みの申請を1カ月前に出すこと」というところもあったのですが、不妊治療の場合、通院が決まるのは急なケースが多いので、予測が立てられず、1カ月前に休みの申請を出すことはほぼ不可能ではないかと思います。せっかく不妊治療の制度を作ってくださっているのに、治療の現状がわからないまま制度を設計すると非常にもったいないことになってしまうなぁと感じています。サポート制度がある企業は貴重で有り難いことですので、せっかくでしたら、ぜひ当事者にとって使い勝手の良い制度設計をしていただけると双方Happyではないかと思います。

司会 こうした制度を作るに当たり、一部の人だけが優遇されるのは問題だという意見はありませんでしたか。
田村 確かに以前、育児のサポートをもっと手厚いものにしようとなったときに、「それって、育児のニーズがある人だけメリットがありますよね」といわれたことがあります。ただ、今の日本の社会を考えると、働く女性の数が増えている一方で、高齢社会で労働人口はますます不足してくる。誰かにとってだけメリットがあるという問題ではなく、社会全体でいろいろな人のための制度をもっと柔軟に考えていく方向になってきているのではないかと感じます。
日下 まったく同感です。誰かのためにというよりは、それを作ることで1人でも多くの人が働き続けてキャリアが積めるのであればいいのではないかと思います。
森本 少子化がこれだけ言われているので、子どもを持ちたい人に持ってもらうのが一番いい。韓国は補助金を出すことになってから、実際に合計特殊出生率は多少上がっています。だから、そういう努力はするべきでしょう。
松本 だからといって、不妊の人ばかりサポートしてほしいとは考えていません。たとえば不妊治療だけをサポートする休暇制度である必要は必ずしもなく、それを育児にも、介護や自分の闘病にも使えるというようなものが、一番求められているのではないかと思います。人は誰でも生きていくうえで、さまざまな予想外の出来事や困難があるわけで、それが不妊治療である人もいるでしょうし、ご自身の他の疾病かもしれません。また介護かもしれません。そうした状況を「お互い様」とサポートし合える風土と制度があるのが望ましいと思います。企業が社員の「ライフ」を応援するためのしくみがあるかどうか、これは今後の企業力が問われるところでもあるのではないでしょうか。
森本 不妊治療の場合、いかにして患者さんの来院日数を減らすかが課題です。そういう意味では治療方法においても通院が必要ない自己注射は非常に大事です。世界の97%は自己注射をしているのに、日本ではいまだにクリニックに通っている人が多い。もう1つ必要なのが、医療機関の連携です。高度な治療を受けたくても地方ではできないところが多い。でも、注射などは地域の先生にお願いするなど連携をうまくすれば、遠い場所への通院の負担も減ります。
司会 仕事で責任あるポジションになってきた人が不妊治療のためにキャリアを諦めるのは、企業にとっても日本社会全体にとっても大きな損失です。そういった中で企業の経営戦略として妊活サポートシステムをつくる意義はどこにあるのでしょう。
田村 実際に不妊治療休職制度をとった社員の平均年齢をみると39歳でした。この制度を導入していなかったら辞めていたかもしれません。妊活や介護などいろいろな問題を抱えながら働けるような制度を会社が整えることと、それを理解する職場をつくっていくことが大事だと思っています。
司会 私は乳がんサバイバーの人と仕事をする機会も多いのですが、やはり治療と仕事の両立はなかなか難しいけれど仕事を続けたことで経済的にも精神的にも救われたという人が非常に多い。どちらかを選ぶのではなく、どちらも諦めないで、何かと仕事の両立が可能な働き方がこれからの日本に求められるのだと感じます。

日下 がんの治療をされる患者さんに対する理解は企業の中でも結構あると思うのですが、妊活というものがどれだけ負担がかかるかはあまり理解されていない。弊社で取り組みを始めたYellow Sphere Projectがもう少し社会に浸透して、広がっていくといいなと思っています。
司会 女性活躍の環境の実現に向けて、どんなことを推進すべきだとお考えですか。
森本 これから不妊治療がますます複雑かつ高度化して理解がしにくくなります。そうなってくると患者さんは余計にストレスを受けます。医療者としては、いかに患者さんがリラックスして通える治療の場を提供するか、そこで最先端技術をいかにうまく使っていくかが課題です。一方、患者さんはネット検索をして間違った情報をたくさん持ち、悩んでいる。産婦人科の立場としては、性教育を含めて、一般、特に男性に対して赤ちゃんをつくるというのはどういうメカニズムかをもう少し知らせる努力も必要だと考えています。
松本 私たち自助団体・当事者ができることは啓発と当事者サポートです。国や厚生労働省に声を届け続けることは大事な使命ですし、企業の方々に当事者の状況を伝える、不妊治療の現状を伝えることをこれからもできるだけやっていきたいと考えています。どういうサポートをしてほしいのか困っている企業もありますし、当事者にどう接していいかわかりませんという担当者もいます。そこをつなぐ蝶番(ちょうつがい)のような役割も必要だと思います。
田村 企業としてできることは2つです。1つは不妊治療に直面するご本人をサポートすること。制度面や職場で働きやすいように、できることを1つ1つやっていく。もう1つは、女性も男性もまだまだ不妊治療に対する理解や知識が足りないので、会社側から情報を提供し、発信していくことも大切だと考えています。
日下 企業側として一方的に制度を提供すればよいわけではなく、それが活用される組織・風土も大事なことを痛感しました。啓発活動などを通して、皆さんの理解を得られるような風土作りを心がけたいと思います。
司会 いま働いている世代のために、企業のサポート体制や社会全体の理解がすごく大事だと改めて思いました。メディアで働く1人として正しい情報を発信していくこと、1人の母親としては子どもに正しい知識を伝えていくことが重要だと感じました。本日はありがとうございました。
PROFILE
まつもと・あきこ/結婚後体験した不妊の経験を活かして友人と共著で本を出版。それをきっかけにNPO法人Fine(~現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会~)を立ち上げる。主な著書/『不妊治療のやめどき』( WAVE出版)、共著『ひとりじゃないよ! 不妊治療』(角川書店)くさか・ちかこ/ビジネスコンサルタントを経て、金融、製薬業界等の外資系企業にて人事業務全般に従事。現職では、主に報酬・福利厚生制度の設計を担当し、フレキシブルな働き方や妊活を支援する制度の導入を行う。
もりもと・よしはる/関西医科大学卒業、同大学院修了。世界最大の不妊・不育治療専門機関「IVFなんばクリニック」「IVF大阪クリニック」「HORACグランフロント大阪クリニック」を開設。年間1万1000人の体外受精を実施。専門は生殖超微生態学。
たむら・ともこ/2009年日本航空(総合職)入社。人財戦略グループにてダイバーシティを担当。グループ会社を含む全社の女性・介護・障がい者の活躍推進を担っている。





























