社員同士で相互理解を深めて働きやすく
人事部労務課長の長谷健太郎さん(中央)と社員のみなさん東京地下鉄株式会社(以下、東京メトロ)は、2018年度に不妊治療する社員を支援する休職制度を導入し、2020年度からは各職場の労務管理者に対して妊活に関する研修も開始するなど、子どもを望む社員を支援するための体制を整えてきました。より働きやすい環境を整備しようと動き始めた背景には、会社としてどのような思いがあるのでしょうか。人事部労務課長の長谷健太郎さんにお話を伺いました。
「妊活」の専門家に相談 会社がバックアップ

——2018年度から妊活支援に関する制度を拡充してきたとのことですが、なぜその必要があると考えたのでしょうか。
弊社は、「WORK × LIFE SMILE ACTION~社員一人ひとりの最大活躍のために~」をテーマに、全社的な働き方の見直し(働き方改革)や社員の健康増進への取り組み(健康経営)を進めることで、社員の働きがいを高め、東京メトログループの成長につなげていくことをめざしています。
その中の働き方の見直しの検討にあたっては、「育児、介護、治療と仕事の両立支援」を会社の重要な課題の一つとして取り組んできました。弊社では、駅係員や乗務員、保守部門の担当者など、基本的に宿泊勤務を前提とした現業部門の社員が全体の大半を占めています。そのため、仕事と妊活との両立はなかなか難しく、不本意ながら退職せざるを得ない社員もいました。
しかし、女性活躍推進の観点からもそのような状況は好ましくありません。社員それぞれのライフステージの変化に関わらず、長く、安心して働き続けられる環境を整備すべきと考え、取り組み始めました。
——具体的にどのような取り組みをしていますか?
まず、2018年度に不妊治療する社員を支援する休職制度を整備しました。更に今年3月からは、不妊治療の経済的負担も軽減するべく、休職期間中に一定の支援金を給付する制度を新たに設けました。
また、職場として妊活をサポートできる環境を整備する目的で、2020年度からは新任の監督者を対象に不妊治療に関する研修を行っています。監督者層にはまだまだ男性が多く、自分ごととして妊活を経験してきた世代ではありません。「職場の上司は妊活に理解がないから相談しづらい」といったケースをなくせるよう、社員同士で自然と助け合える職場風土を醸成していければと考えています。
——妊活中の社員のケアのために、工夫していることはありますか?
2020年度から、不妊症看護認定看護師や臨床心理士、胚培養士(はいばいようし)など妊活の専門家によるアドバイスを無料で受けられるオンラインのサービスを導入しました。
個人のスマートフォンを使ってオンラインで直接専門家とやりとりができるため、匿名性が担保された状態で気軽に利用できるのが利点です。妊活を考えている社員や不妊治療中の社員の不安解消につながると期待しています。
——妊活における不安や疑問の解消は外部の専門家に任せて、その先のフォローを自社で行うイメージでしょうか。
妊活はプライベートなテーマですから、周囲の人や職場の同僚には表立って相談しにくいと感じている方もいます。そういった社員は匿名という利点を生かして、相談できるのではないかと思います。こうした個々のニーズに答えるサービスに加えて、会社として妊活や不妊治療などのセンシティブな個人的悩みを受け入れる思いやりある企業風土を作っていきたいです。社員がやりがいを感じながら事業推進するには、仲間や上司、部下を受け入れようとする企業風土が大切ですね。
ライフステージや時代に応じた働き方ができるように

——経営的視点から見て、妊活を支援するメリットはありますか?
鉄道事業の運営には、これまでに蓄積された経験や知識、技術を次の世代へしっかりと引き継いでいくことが、重要となります。そのため、妊活を始めとしたライフステージの変化で貴重な人材を失うのは会社にとって大きなマイナスですから、会社として社員が継続して業務に取り組めるような環境整備を行うことは必要不可欠であると考えています。
特に若い世代は、仕事と家庭の両立ができるか、やりがいを感じられるかを重視する傾向にあるので、採用市場での人材確保の面でも、働きやすさは追求していくべきです。
妊活や育児だけではなく、今後は仕事と介護の両立を必要とする社員もより増えてくるでしょうし、健康問題は世代によらず、誰の身にも起こる可能性があります。どのライフステージであろうと誰もが最大限活躍できる環境を作るため、さらなる相互理解、多様性への理解が進むよう働きかけ、社員同士で支え合える職場風土の醸成に努めていきたいと思います。
先に述べた監督者層への妊活に関する研修にしても、妊活当事者への理解を促しているだけでなく、あらゆる状況に置かれた社員への想像力を持ち、その対応を自ら考えるために必要なものだという認識を持ってもらえるよう、私たちも周知を徹底していきます。
——そうした考え方は、SDGsとも連動してくる部分がありますね。
東京メトログループでは、グループ理念「東京を走らせる力」を通じて、安心で持続可能な社会を実現するため、サステナビリティ重要課題(マテリアリティ)を特定し、課題解決に向け自社の意思を込めた五つのテーマを設定し、昨年度公表しています。
妊活支援制度を含む「WORK×LIFE SMILE ACTION」の取組については、テーマの一つである「新たな時代を共に創る力を」につながる施策であり、SDGsに掲げられている17の目標のうち「働きがいも経済成長も」を中心に、「すべての人に健康と福祉を」、「ジェンダー平等を実現しよう」等への貢献につながると認識しています。
すべての社員が活躍できる会社、社会を目指す

——実際に不妊治療をはじめてみると、病院に通う頻度は個人の状況によってまちまちで、急な来院が必要なケースも出てきます。突発的な勤務スケジュールの変更には、どのように対応しているのでしょうか。
現業部門は宿泊勤務が基本であり、なおかつ、休む場合は必ず交代の社員が必要になるため、急な変更への対応は難しいのが現状です。あらかじめわかっている予定に関しては、事前に申請してもらうことで勤務の調整をしていますが、そもそも本来は妊活に限らず、病気やケガによりやむなく急な欠勤をする社員にも容易に対応できる制度設計であることが望ましいため、勤務形態の柔軟化、業務のやり方の改善は、私たちにとって大きな課題の一つです。
日勤のデスクワークに比べると、宿泊勤務を伴う労働は肉体的な負担も大きくなりますから、例えば、今は子育て中の社員や介護を行う社員が主に活用している短時間勤務制度の対象に、妊活中の人も加えるといったことを検討してみる必要もあるのかもしれません。
——社員には、どういった意識を持ってもらうことを期待しますか?
新型コロナウイルスの感染拡大によって、社会構造も、人々の行動様式も、価値観も大きく変わりました。従来の鉄道事業は鉄道の運営や保守に多くの人員を要する労働集約型の事業形態となっていますが、今後はDXを進めながら既存の業務やオペレーションを抜本的に見直し、次世代型へ変革していく必要があると感じています。
自分たちの仕事にやりがいを感じながら事業を推進していくこと。そして、すべての社員が活躍できる会社、社会を作っていこうと一人ひとりに自覚してもらうことを期待します。
社員全員が社会的意義を意識しながら自律的に働けるようになると、新しい目標に挑戦するマインドも、これまで以上に育んでいけるはずです。社員の意識の変革を進めるとともに、自律的に働く社員がやりがいと働きやすさの両方を実感できる環境を整えていくことは、今後の経営上の重要な課題です。
これらが達成できれば、社員の「エンゲージメント」も高まりますし、社員自身の「ライフデザイン」を支援することや「ワーク・ライフ・バランス」の実現にもつながっていくと考えています。
PROFILE
旅客鉄道事業の運営を中心に、関連事業の運営、駅構内店舗・商業施設の運営といった流通事業、不動産事業、広告・情報通信事業に取り組む。2004年設立。従業員は9881人(2021年3月31日現在)、うち女性は549人。本社は東京都台東区。




























