ジェンダー平等を実現し、
誰もが自分らしく働ける社会に

2023.09.27
朝日新聞社ジェンダープロジェクト担当補佐
井原圭子さん

世界経済フォーラムが今年6月に発表した日本のジェンダーギャップ指数は、過去最低の146カ国中125位。特に「政治」「経済」の分野で男女格差が埋まっていないという状況が長年続いています。

そんな中、朝日新聞社では2020年に「朝日新聞ジェンダー平等宣言」を発表し、ジェンダー平等の実現に意欲的に取り組んできました。取り組みの内容と、性別やライフステージに関係なく、誰もが自分らしい生き方、働き方ができる「ファミリーフレンドリー」な社会の実現に向けて企業ができることについて、朝日新聞社ジェンダープロジェクト担当補佐の井原圭子さんにお話を伺いました。

ジェンダー平等の実現に向けて
掲げた四つの指標

——「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン」に関して、どのような取り組みをしていますか?

朝日新聞社では、2020年4月に「朝日新聞ジェンダー平等宣言」を発表しました。報道・事業・人材に関する三つの観点から四つの指標を掲げ、ジェンダー平等の実現に向けた取り組みをしています。

まず、取材対象や識者の人選で性別に偏りが出ないように心がけること。その指標として、朝刊の「ひと」欄で取り上げる男女の割合がどちらの性も40%を下回らないように定めました。当社では、事業として「朝日地球会議」をはじめとしたさまざまなシンポジウムを主催していますが、登壇者の男女の割合についても同じ数値目標を掲げています。それから、女性管理職比率を2020年度の12%から倍増させること、男性の育休取得率を100%にすることも課題としました。

この四つの指標の達成状況については、毎年公表しています。やはり明確な指標があると全社的に意識が高まるようで、「ひと」欄とシンポジウム登壇者の数値目標は2020年度のうちに達成し、男性の育休取得率は2020年度の12.1%から2021年度は33.9%に、2022年度には71.1%まで上昇しました。

しかし、女性管理職比率に関しては2021年度以降13~14%とほぼ横ばいです。これはやはり、メディアの多くが長いこと男性中心の組織だった影響が大きいと感じます。当社も、40歳前後までの社員に占める女性の割合は3~4割ですが、社員全体では2割ほど。そもそもの女性の数が少ないんです。

その上、女性はちょうど管理職になる一歩手前くらいの時期に出産や育児が重なることが多く、いわゆる「マミートラック」に入り込んでしまうという問題があります。40歳前後になって周りを見てみると、男性の同期や後輩は次長になっているのに、自分はまだ現場の記者のままという声をよく耳にしました。

一番の課題は女性管理職比率の低さ 
若手女性社員の研修を手厚く

——女性管理職比率を上げるには、どうしたらいいのでしょうか。

部長クラス以上の意思決定層に女性が増えれば、会社の方向性や、生み出すコンテンツ、サービスは大きく変わるはずです。持続可能な経営をしていくためには、組織の同質性よりも多様性、透明性を高めていく必要があります。そこで、社外から招いたアドバイザーの監修のもと、2022年10月に「朝日新聞社ジェンダー平等宣言+(プラス)」を新たに策定しました。

女性管理職比率の倍増の早期達成を果たすべく、「女性のいない会議をつくらない」「部門別に女性登用の数値目標を設けて達成する」という二つのマイクロ数値目標と、社内の男女格差を可視化する三つの見える化指標(全社の部門をまたぐ会議の参加者の女性比率、部門別・職位別の女性比率、年収の男女比較)を掲げ、さまざまなアクションプランを実行しています。

その一つは、「ジョブシャドーイング研修」です。ステップアップを目指す若手社員が役員と行動を共にして、会議や社外の方との会合などに参加します。昨年度は、30代の女性社員三名が研修を受けました。参加者からは「社内の女性は活躍しているという認識だったが、重要な物事を決める場に女性はほとんどいないと実感した」、「会社の仕組みや経営が自分ごとになった」といった感想が寄せられました。

女性社員を管理職に育てていくマインドを上司側が持つことも大切ですが、一方で、女性社員側にも管理職のロールモデルが少なく、どんな道筋で上を目指せばいいのか見えていない状況だったので、これは一つ大きな成果だったと思います。

——ジェンダー平等の実現に関する取り組みを進める上で、難しさを感じているところはありますか?

言葉にはしないまでも、女性を登用すると自分のイスを明け渡すことになるのではと感じる男性社員はいるはずなので、どう腹落ちしてもらうか、というのはあります。ただ、当社ではトップである社長自ら「朝日新聞ジェンダー平等宣言」のメッセージを出したのがとても大きくて、宣言を出すまでに重ねた会議の中では、管理職の男性から「女性にゲタを履かせるのではなく、男性が履いていた高いゲタを脱ぐっていう話だよね」という意見が出たと聞きました。また、「自分の子どもたちが大きくなったときに男女格差がない社会であってほしいから、変えていく必要がある」との声もあったといいます。

海外駐在経験がある記者からはよく聞く意見ですが、アメリカやヨーロッパでは政府や諸団体の男女比がほぼ半々になっているのがもはやスタンダードで、自分たちが特殊な世界にいるのだと改めて感じるそうです。メディアで仕事をするからにはそうした違和感に敏感でありたいですし、ジェンダー平等への意識はしっかり社員一人ひとりに持ってもらいたいと思っています。

男性の育休取得率が上昇するにつれ、
社内の空気も変化

——出産・育児をはじめ、自身の病気や家族の介護など、働く人を取り巻く状況はライフステージによっても変わっていくものですが、誰もが自分らしい生き方や働き方を選べる「ファミリーフレンドリー」な社会を実現するために、会社として注力していることがあれば教えてください。

2021年度は男性の育休取得率向上に特に力を入れた年で、男性育休に関する社内向けイベントをオンラインで行いました。前半は、育休を勧める社長のメッセージと、人事部による制度の説明。後半は、育休を取った男性社員とその上司らによる座談会という構成でした。年代・性別問わず多くの社員が視聴し、取得に前向きになったという感想がたくさん寄せられました。

これまでは育休を取得する側には「周りに迷惑がかかるのでは」「評価が下がるのでは」という負の感情がありましたし、上司は上司で「できれば取らないでほしい」という空気感を出してしまっていたと思うのですが、取得率が1割から7割に上がっていく中で、子育ては男性も女性も一緒にという認識が当たり前のものになりつつあります。

実は朝日新聞社は、国が定めた基準以上に育休の制度が充実していて、柔軟な働き方ができる環境は整っています。仕事柄、どうしても不規則な生活になりがちな社員も多いことから健康課題に関する取り組みにも熱心で、身体の不調に関するオンラインセミナーも頻繁に開催していますし、女性社員が相談しやすいようにと、産業医も女性です。ですから、ジェンダー平等の実現に資する取り組みを続けることで、すでにある社内の制度をさらに気軽に使ってもらえるような企業風土の醸成につなげていけたらと考えています。

——「ファミリーフレンドリー」な社会の実現に向けて、新聞社としてできることはなんでしょうか。

ジェンダー平等は、女性だけの問題ではなく、誰もが当事者として考えるべき問題です。私が所属している「ジェンダープロジェクト」は、執行役員をトップとして、社内の主だった部門の管理職やプロジェクトリーダーの男女20人弱からなる全社部門横断の組織ですが、もともとは「女性プロジェクト」の名称で、2016年に発足しました。同じころ社内では、現場の記者たちの有志が男女格差の問題を紙面で大々的に取り上げるために、「Dear Girls」という企画を立ち上げました。

きっかけは、2016年10月に発表されたジャンダーギャップ指数です。日本は144か国中111位と、前年の75位から大幅に下がりました。その危機感から、「これからは女性の多様な生き方を応援する情報発信をしていくべきだ」と考え、2017年以降、毎年3月8日の国際女性デーに合わせて「Dear Girls」のワッペンをつけて紙面で集中的に報じてきました。さきほど紹介したジェンダー平等宣言も、「Dear Girls」に携わってきた記者たちが取材を進める中で「朝日新聞社はどうなの?」と問われることが増え、足元から多様性を確保すべきだと社長に提案したことが発端でした。記者たちの提案をもとに宣言をとりまとめたジェンダープロジェクトが、その後も定期的に達成度を検証しています。「Dear Girls」はジェンダー平等宣言の後、「Think Gender」と名を改め、現在も続いています。

新聞は世の中の人と共にあるものですから、こうした社会の変化はどんどん捉えて記事にしていくべきです。だからこそ、「じゃあ、あなたたちはどうなの?」と問われても胸を張れるように、自分たちが率先してダイバーシティに取り組む姿勢を示し続ける必要があると考えています。

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