企業が変われば、人の意識も、社会も変わる
青栁光葉さん
経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室 室長補佐
神野真帆さん
(写真左から)

経済産業省では「ダイバーシティ経営」を推進すべく、さまざまな取り組みを行っています。とりわけ力を入れているのが、女性活躍の推進です。多様な人材が能力を最大限に活かすには、誰にとっても働きやすい環境を整えることが大切で、そのためにも、女性活躍の推進に力を入れることは重要だといいます。
現状について、経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室 室長補佐の神野真帆さんと、係長の青栁光葉さんにお話を聞きました。
多様な人材が個々の能力を最大限に発揮できないのは、
社会にとって大きな損失

——経済産業省が「ダイバーシティ経営」を推進する理由と目的を教えてください。
神野)少子高齢化で生産年齢人口が減少していく中、日本経済が持続的な成長をしていくには多様な人材の活躍が必要不可欠です。経産省では「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」を「ダイバーシティ経営」と定義し、この考え方を企業の経営戦略に活かしてもらうためのさまざまな取り組みを行なっています。
性別や年齢、人種、国籍、障害の有無にとらわれずというのはもちろんのこと、価値観や積み上げてきたキャリアの違いなども含めて多様な人材を活かしていこうというのが私たちの考えです。
目指しているのはすべての人が活躍できる社会ですが、今年6月に発表された日本のジェンダーギャップ指数が146カ国中125位(前年は146カ国中116位)と、先進国の中でもかなり低い順位だったことからも、特に女性活躍の推進については引き続き力を入れていく必要があると思っています。
——具体的には、どういった取り組みをされているのでしょうか。
青栁)一つは、テクノロジーを用いた製品やサービスで女性特有の健康課題を解決し、就業やキャリアの継続を支援していく「フェムテック」の活用です。
青栁)月経や妊娠、出産、更年期など、女性はライフステージによって様々な健康課題を抱えています。例えば、ある民間調査(※1)では月経前症候群(PMS)による一年間の労働損失は4911億円との試算が発表されました。月経やPMSによって仕事のパフォーマンスが低下していると自覚する女性は多いのに、適切な対処をしている女性は非常に少ないんです。
——メルクバイオファーマ社が行なった調査(※2)では、不妊治療による経済損失は年間で3892億円とも言われています。
青栁)不妊治療と仕事の両立ができずに退職した、あるいは、仕事の形態を変えたという女性が全体の3分の1いらっしゃる一方で、不妊治療を行っている従業員を把握していない企業は全体の3分の2に上るという調査結果もあります。また、更年期を迎える時期は管理職以上の役職に就く時期と重なるため、昇進の機会を得ても女性の半数は健康面での不安から辞退するというデータもありました。
日本の労働力の半分近くは女性ですから、女性が能力を存分に発揮できない状態を放置するのは、個人の問題というより、社会的な損失です。その対応の一つとして、「フェムテック」の活用を推進しています。
先進的な取り組みをしている企業や自治体の中には、自分のストレスの状態を可視化できるアプリや、アバターを使ってオンラインで気兼ねなく婦人科系の相談ができるサービスなどを取り入れているところも出てきています。「フェムテック」の活用で、婦人科受診への心理的ハードルが下がることや、時間の制約が多い女性の健康課題解決のきっかけになることに期待しています。例えば更年期障害は、症状が多岐にわたるため、数年たってはじめて「あれがそうだったのか」と気づくこともあると聞くので、普段から気軽に自分の症状を相談できる場があるのは、多くの方にとって有用なのではないでしょうか。
※1 Burden of menstrual symptoms in Japanese women: results from a survey-based study. J Med Econ. 2013 Nov;16(11):1255-66.|Tanaka E, Momoeda M, Osuga Y, Rossi B, Nomoto K, Hayakawa M, Kokubo K, Wang EC.
※2 メルクバイオファーマ「第5回妊活®および不妊治療に関する意識と実態調査」調査結果 慶応義塾大学 大学院経営管理研究科 岡田正大教授の試算による
意思決定層に女性を増やすことが、
日本経済の成長につながる

——女性活躍推進に関する取り組みとして、他にはどのようなものがありますか?
神野)東京証券取引所と共同で、女性活躍推進に優れた上場企業を「なでしこ銘柄」として選定し、中長期の企業価値向上を重視する投資家に向けて魅力ある銘柄として紹介しています。ある「なでしこ銘柄」選定企業の方からは、就職活動中の男子学生から「御社はなでしこ銘柄をとっていますよね?」と質問を受けたと聞きました。女性が活躍できる会社は、男性にとっても活躍しやすい会社だと捉えられていることもあるようです。自社の経営戦略に女性活躍を位置づけ、取り組む企業を広くご紹介することで、他の企業にも同様の取り組みが広がっていくことを目指しています。
他にも、主要な中小企業向けの補助金において、子育て支援や女性活躍推進に力を入れている企業に加点措置を講じています。こういった取り組みを通じて、女性活躍に積極的な企業の価値が市場や社会でしっかり評価され、企業の競争力の強化、ひいては日本経済の持続的な成長につながっていくことを期待しています。
——政府はプライム市場の上場企業について、2030年までに女性役員の比率を30%以上とする目標を掲げています。経産省では、リーダー層の女性を増やすためにどのような事業を行なっていますか?
神野)平成27年度から民間企業を対象に「女性リーダー育成研修(WIL)」を行なっており、経営層に求められる幅広い知見を獲得する場を提供しています。リーダー層の女性はまだ少なく、自社にロールモデルがないケースも多いことから、社外で横のつながりを作る人的ネットワークの構築も目的としています。ボリューム層は部長クラスで、これまでに7期、計245名にご参加いただきまして、そのうち59名が現在執行役員以上として活躍されています。
さらに、昨年度は試行的に企業横断のメンタリングプログラム「クロスカンパニーメンタリング」を実施しました。このプログラムを受ける前のアンケートでは、昇進を望む女性の割合は3割弱でしたが、メンタリングを受けたことで割合は7割強にまで上がりました。
——どんな内容のプログラムだったのでしょうか。
神野)課長級が部長級を目指すという階層と、部長級が役員級を目指す階層の2階層で実施しました。メンティー(指導される側)は、メンター(指導する側)からどんなキャリアを歩んできたのか生の声を聞くことで、自分にどんなスキルが必要か、そのために今なにをすべきかなど、課題が見える化できるようになります。内省を促す効果もあったようで、「自分にもできそうだ」と自信がついたという声もありました。
メンターは女性だけでなく、男性にも担っていただいたのですが、女性が昇進の際に障壁に感じる点について様々な気づきがあったとの感想を聞きました。男性メンターの、女性活躍や組織のダイバーシティに関する課題の自分事化としても有益だと感じましたので、経産省のホームページに掲載したノウハウ集「クロスカンパニーメンタリング実施に関するPLAYBOOK」(https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/wil/R4playbook.pdf)を参考に、ぜひ企業さん同士でも試していただけたらと思います。
青栁)女性のリーダーが意思決定層に増えれば、より女性の声も届けやすくなると思いますし、いろいろな考え方の人材が集まることによって、これまでになかった新しい価値が創造できる。そういったところに、我々としても支援する価値を感じています。
「平等」ではなく「公正」の視点で、
互いに尊重する社会に

——「ダイバーシティ経営」を推進する上で、課題だと感じていることはありますか?
神野)「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン」の、「エクイティ(公正性)」の理解は一つ、組織のダイバーシティやインクルージョンを進めるうえでも課題だと感じます。
青栁)「フェムテック」を導入しようとした企業でも、女性だけを優遇していると見られてしまうと導入しにくいという声を聞くことがあります。優遇ではないということをどう理解していただくか、ですよね。
神野)そうですね、「平等」と「公正」は違うということだと思います。働く人全員に同じ支援をするのが「平等」で、「公正」とは、生産性や企業価値の向上を目指していくにあたり、全員が能力を最大限発揮できるように、追加の支援が必要な人には支援をして、みんなが同じスタートラインに立てるようにしようという考え方です。
青栁)「エクイティ」への理解は人事部だけで進めてもなかなか浸透しないので、経営層が企業のビジョンを見える化して、社員一人ひとりに浸透させることが大切だと考えています。
——それぞれのライフステージに合わせた生き方、働き方を尊重し、「ファミリーフレンドリー」な社会を実現するために私たちが考えていかなければいけないことは何でしょうか。
青栁)周りに迷惑がかかるからと、体調が悪くても我慢する。こうした考え方のままでは、健康課題をネガティブにとらえてしまいますが、女性の健康課題の解決が前向きな取り組みとして世の中に広まっていけば、誰もが働きやすい社会になっていくはずです。
悩みやつらさは打ち明けていいんです。お互いのバックグラウンドを尊重してプラスの方向に進んでいけるように、自分も、周囲の人も、企業も、一緒になって考えていくこと、そうした雰囲気を醸成してくことが必要だと思います。当事者でなくとも、当事者の状況を知ろうとする姿勢を持つことが大切です。
神野)「なでしこ銘柄」は令和3年度までは、女性社員比率や育休取得率など定量データのみを選定基準としていたのですが、令和4年度からは企業の経営と女性活躍推進をしっかり結びつけて記述してもらう定性調査を新たに始めました。さらに今年度からは、子育てなどの両立支援に積極的に取り組む企業を選定しようと考えています。これは、“男女問わない”両立支援というのがポイントです。
例えば、今は共働きが増加していますし、若い世代では、育児休業をとって積極的に子育てをしたい男性の割合が年々増加しているというデータもあり(https://www.mynavi.jp/news/2022/02/post_33310.html)、働き方に対する考えに変化が起きていると言えます。このため、企業において、男女を問わない働き方改革や両立支援を進めていただき、誰もが柔軟にライフイベントと仕事を両立しながら活躍できる雰囲気作りを進めていくのが狙いです。
どんな人でも働きやすく、誰もが能力を発揮できる。これが「ダイバーシティ経営」が最終的に目指すところです。そうした企業の裾野を広げていくことが、社会を変えていくステップにもなるので、経産省としてもその後押しをしっかりしていきたいですね。





























