仕事と不妊治療の両立を目指して——厚生労働省の取り組み
2019.09.10
【厚生労働省】雇用環境・均等局 雇用機会均等課 母性健康管理係長
大野晃太さん

妊活や不妊治療に取り組むカップルの中には、仕事との両立で悩んでいる人が少なくないことから、働きながら妊活と治療に取り組める職場環境の整備が期待されています。行政でもこの問題を重視し、企業やそこで働く労働者に向けた実態調査や啓発活動をスタートさせています。その現状を、厚生労働省 雇用環境・均等局 雇用機会均等課 母性健康管理係長の大野晃太氏に聞きました。

【不妊治療を理由に退職した人は約16%】
仕事と不妊治療の両立について課題を浮き彫りにしたアンケート調査

——2017年度に政府としては初めて、厚生労働省で不妊治療と仕事の両立支援に関するアンケート調査を実施されました。その目的や実施の背景を教えてください。

近年の晩婚化等を背景に不妊治療を受ける夫婦が増加しており、行政としては、働く人の希望する妊娠・出産を実現するためには、育児休暇だけでなく、不妊治療と仕事の両立も重要な課題だと考えていました。

ただ、厚生労働省として不妊治療と仕事の両立に関するデータはまだなく、平成28年(2016年)に国会等で調査が必要との声が上がったこともあり、平成29年度(2017年)、不妊治療と仕事の両立の実態や問題点、企業における両立の支援への取り組みの状況を分析・把握するために企業と労働者の両方にアンケート調査を実施しました※。

なお、国立社会保障・人口問題研究所「2015年社会保障・人口問題基本調査」によると、日本では、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は、全体で18.2%、子どものいない夫婦では28.2%でした。これは夫婦5.5組に1組の割合です。

※平成29年度「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査」(厚生労働省)
企業アンケート調査(「女性の活躍推進企業データベース」においてデータ公表を行っている企業7909社から、従業員規模10人以上の企業4000社を無作為抽出してアンケートを配布。回答数:779社)
労働者アンケート調査(男女労働者2060人を対象として実施)

——アンケート調査の内容を紹介してください。

労働者アンケート調査では、不妊治療をしたことがある人は13%、そのうち、仕事と不妊治療の両立ができずに退職した人は16%(図1)でした。仕事と不妊治療を両立している人でも、87%の人が両立は難しいと回答しています。難しいと感じる理由は、「通院回数が多い」、「精神面で負担が大きい」、「待ち時間など通院にかかる時間が読めない、医師から告げられた通院日に外せない仕事が入るなど、仕事の日程調整が難しい」が多くなっています。(図2)

図1

不妊治療をしたことがある方
あなたは不妊治療と仕事の両立を、現在していますか
(過去にしていましたか)

図2

不妊治療と仕事の両立をしている方
不妊治療と仕事の両立が難しいと感じたことはありますか。難しいと感じたことがある場合、それはどのようなことですか。(複数回答)

企業アンケート調査では、不妊治療を行っている従業員が受けられる支援制度や取組を行っていると答えた企業は9%(図3)、個別対応をしている企業は21%で、合わせても3割ほどでした。従業員の柔軟な働き方を可能とする取組として、半日単位・時間単位の休暇制度、始業時間・終業時間の繰り上げ・繰り下げ制度、フレックスタイム制度などもありました(図4)。また、調査と合わせてヒアリングも行っていますが、企業独自の制度としては不妊治療のための休暇制度、不妊治療にかかる費用等を助成する制度などがありました。

図3

貴社では、不妊治療を行っている従業員が受けられる支援制度や取組を行っていますか。

図4

貴社における従業員の柔軟な働き方を可能とする取組(目的が不妊治療に特化されていない制度)について教えてください。(複数回答)

——アンケート調査から浮かび上がってきた課題などはありますか。

不妊治療をしたことがあると答えた人が13%いるなかで、仕事との両立の取り組みを行っている企業はまだ3割です。残り7割の企業が取り組みをしていないのは、不妊治療について事業主の理解が不足している部分があるのかもしれません。制度に関しても、不妊治療に特化した制度をつくればよいかというと、そうとも言えません。「不妊治療を受けていることを会社の人には言いたくない」という事情も考慮する必要があります。そもそも言いたくない、言えないというのは、治療の悩みを口に出せない職場環境ということですから、そうした職場環境を改善することも大切です。

2019年度に計画している
不妊治療のための休暇制度等環境整備事業とは?

——現在はどのような取り組みを行っていますか。

平成29年度の調査で企業の対応が追いついていないことがわかり、令和元年度(2019年)から「不妊治療のための休暇制度等環境整備事業」として、不妊治療のための休暇制度等の導入に取り組もうとする企業等を支援します。企業向けには不妊治療のための休暇制度等の導入マニュアル、事業主や労働者向けには仕事と不妊治療の両立について理解を深めるためのパンフレットを作成する予定です。どのような内容にするかは、産婦人科医などの不妊治療に詳しい専門家、企業の担当者などによる検討委員会を設けて検討していきます。

——マニュアルやパンフレットはどのような内容になるのでしょうか。

マニュアルに関しては、どのような制度をつくればよいかわからないという事業主へ、参考事例を織り交ぜてみせることを考えています。検討委員会の検討結果にもよりますが、不妊治療のための休暇制度、半日単位・時間単位の年次有給休暇制度、不妊治療に特化していないが両立を支援する柔軟な働き方(フレックスタイム制度やテレワーク制度)、年次有給休暇の取得に向けた取り組みなど、先進的な取り組みをしている企業にヒアリングして、それを反映していきたいと考えています。

パンフレットに関しては大きく3つの構成を考えています。1つめは不妊治療の概要やスケジュールなど事業主が知っておくべき事項、2つめは平成29年度の調査結果に基づき、両立が困難であることについて治療を受けている人の悩みや要望、3つめは、それを踏まえて両立を支援するための制度やその運営方法など、仕事と不妊治療との両立について事業主や上司、同僚の理解を深めるためのパンフレットを作成します。

働く人の多様化
個人の望む生き方に寄り添うために

——さいごに、企業に対して、厚生労働省が「仕事と不妊治療の両立」支援に取り組む意義についてお聞かせください。

厚生労働省の使命は、すべての人々が、安心して暮らし、働くことができる社会をつくることであり、働き続けたいと思っている人が働き続けられる環境の整備は重要です。治療を望む人を働く場面で支えていく。政府が企業に発信することで、企業の取り組みも進むのではないかと期待しています。

本事業を通じて、事業主に不妊治療と仕事を両立できる職場環境の必要性を知っていただくとともに、マニュアルやパンフレットを作成したあかつきには企業が制度を導入するための参考にしてもらい、仕事と不妊治療が両立できるような職場環境の整備がはかれればよいと考えています。マニュアルとパンフレットは2020年2月をめどに完成する予定です。労働局などで配布しますので、ぜひお手にとっていただければと思います。

PROFILE

おおの・こうた/2011年入省。2018年より雇用機会均等課にて仕事と不妊治療の両立や、男女雇用機会均等法に基づく母性健康管理の推進を担当している。

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