妊娠24週486gで生まれた男性 卒業論文のテーマにした「半生」

河原夏季
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24年前に妊娠24週486グラムで生まれた「小さな赤ちゃん」だった男性がこの春、公認心理師をめざして大学院に進学しました。心理学部に通っていた大学時代、卒業論文のテーマに選んだのは小さく生まれた〝自分の半生〟でした。(朝日新聞withnews編集部・河原夏季)

写真・図版

妊娠24週486グラムの超低出生体重児

都内の大学院に通う坂井立(りゅう)さん(24)。小さく生まれた赤ちゃんと、保護者の関係を研究しています。

24年前、坂井さんは予定日より3カ月以上早い妊娠24週、体重486グラム、身長29センチで生まれました。両手に収まるくらいの大きさでした。

家族から小さく生まれた話を聞いたのは、小学6年生のとき。ペットボトル1本分の大きさからここまで成長したことを「我ながら生命力がすごい」と感じ、涙が出たといいます。

多くの赤ちゃんは妊娠37~41週(正期産)で生まれ、平均出生体重は3000グラム、身長は約50センチです。妊娠22~36週での出産は早産です。

人口動態統計によると、2024年に生まれた赤ちゃんのうち、2500グラム未満で生まれた低出生体重児は6万7134人(9.8%)でした。

そのうち、1000グラム未満で生まれる超低出生体重児は2322人(0.3%)。早く小さく生まれるほど、病気や障害、命に関わるリスクが高いとされています。

「自分の意見がない子」と思われていた

新生児仮死状態で生まれた坂井さんは、蘇生処置を受けてNICU(新生児集中治療室)に入院しました。生まれたときは肌が透けるくらい皮膚が薄く、骨が浮き上がっていたそうです。

母親が初めて抱っこできたのは、生後2カ月のとき。生後6カ月で退院しました。

坂井さんは、知的な遅れや運動機能など障害の診断を受けていませんが、幼い頃から「生きづらさ」を抱えていたと振り返ります。

超低出生体重児の多くに苦手な傾向があるとされる折り紙やハサミを使う作業、算数の計算や図形・展開図の問題、友だちとのコミュニケーションには難しさを感じることもありました。

保育園では思いをうまく言葉にできず、小学校に入ってからも周囲から「自分の意見がない子」と思われていたといいます。

中学校では教師と合わず、1年生の夏休み前から3年生の終わりまでは不登校でした。

しかし、「社会とはつながっていたい」という気持ちはありました。近所の料理教室やパソコン教室に通ったり、卓球に打ち込んだりしていたといいます。

中学2年生のときには、学校へ行けない子どもたちの学習支援や心理面をサポートする教育支援センターに通うようになりました。そこで出会ったカウンセラーの影響で心理学に関心を持ったといいます。

通信制高校を卒業し、一浪の末、東京未来大学(足立区)に入学。心理学を学びました。

指導教員との出会いがきっかけで

坂井さんは大学に入るまで、自分が小さく生まれたと人に伝える機会はありませんでした。

転機となったのは大学3年生のとき。ゼミの指導教員で准教授の小谷博子さんと出会ったことでした。

何げなく「小さく生まれたんです」と伝えた坂井さん。すると小谷さんは「私の授業で大学1年生に向けて話してみない?」と勧めてくれたそうです。

坂井さんは、心理学専攻の授業のほか、幼稚園や小学校教諭を育成するこども保育・教育専攻の授業で話すことになりました。

坂井さんが学生たちに伝えたのは、「医療のおかげで小さく生まれた子どもたちが生きられる」「NICUに入院する子どもたちの可能性を信じてほしい」「困難があっても自立できる」ということです。

後輩からは「話してくれたことがすごい」「小さく生まれた子がいることに驚いた」といった感想が寄せられたといいます。

坂井さんは「自分の中で小さく生まれたことはそれほど重要な話ではありませんでしたが、授業を通して『自分にしか伝えられないことだ』と思いました」と語ります。

この経験から、卒業論文のテーマを「当事者研究」とし、「小さく生まれた自分の半生」を振り返ることにしました。

卒論は「超早産児青年期までの当事者研究」

小さく生まれた赤ちゃんの先行研究を調べると、「親御さんへのインタビューは多いけれど、ご本人に対するインタビューが国内ではほとんどない」ことに気づきました。

自身と同じく早く小さく生まれ、脳性まひで発語が難しい子どもがいることも知りました。

改めて「超低出生体重児として生まれた自分自身の困難さや、障害と認定されていない中での生きづらさ、アイデンティティーについて自己理解を深めて、言葉にして発信したい」と考えたそうです。

卒論のタイトルは「超早産児の青年期までの当事者研究 ―障害認定されない生きづらさ―」。A4サイズで58ページに及びました。

公認心理師をめざし、大学院で学ぶ

卒論にまとめたのは、あくまでも超低出生体重児の一例である坂井さん自身のことです。しかし、「当事者の声を集める第一歩」と位置づけています。

卒論の考察では、親のニーズと子のニーズは違うことを伝えたり、親には言えない本当の思いをインタビューなどを通して広めたりしていきたいと結びました。

この春、大学院の臨床心理学専攻に進学し、研究を続けています。

研究の柱にしているのは、「超低出生体重児の保護者と子どもとの関係性」です。

坂井さんは「保護者や本人がどのような情報をほしいと思っているかを研究で明らかにし、NICU退院時やフォローアップ外来で医療従事者が情報を伝えるときの参考になれば」と話します。

さらに、自身も保護者や本人へ情報を伝え、支援をしていきたいと、公認心理師の資格を取る勉強もしています。

「育児不安など親御さんの言語化できないモヤモヤに、一緒に寄り添っていける伴走者のような公認心理師になりたいと思っています」

低出生体重児に関する情報・サポート

◆早産児育児ポータルサイト「Small Baby」 https://www.small-baby.jp/別ウインドウで開きます

◆「はじめてのNICU」 https://www.nicu.jp/別ウインドウで開きます

◆日本NICU家族会機構(JOIN) https://www.join.or.jp/別ウインドウで開きます

母子手帳サブブック「リトルベビーハンドブック」に関して NPO法人HANDS  https://www.hands.or.jp/activity/littlebabyhandbook/別ウインドウで開きます

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この記事を書いた人
河原夏季
デジタル編成本部|withnews編集長
専門・関心分野
低出生体重児、早産、子育て、AED

連載 小さく生まれた赤ちゃんたち

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