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 いま、世界のスポーツ界で環境や人権を大切にする考えが広がっています。開幕まで2年となった2020年東京五輪・パラリンピックも、国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs〈エスディージーズ〉)」に沿った大会運営をめざしています。欧米でも動きが活発です。なぜスポーツに持続可能性が求められるのか。国内外の事例から、みなさんと考えます。

「SDGs五輪」準備段階から本格的

 環境や人権に配慮した東京五輪にするため、大会組織委員会は先月、運営計画を発表しました。SDGsの掲げる17の目標に沿い「会場などの電力は全て再生可能エネルギーを活用」「食品ロスを減らす」といった具体的な目標を設定。準備段階から本格的な「SDGs五輪」を掲げるのは、夏季五輪では初めてです。

 会場のある東京都や埼玉県も、排出量取引制度を使って大会で出る二酸化炭素を「実質ゼロ」にする活動に参加。組織委で持続可能性の分野を担当する荒田有紀部長は「多くの人が課題に気付き、解決策を考えるきっかけになれば」と願います。

 なぜ持続可能な大会をめざすのでしょう。巨大化した五輪をめぐっては、大規模開発や大量消費による環境問題が指摘されてきました。約1カ月の短期間に国内外から1千万人以上が集まり、莫大(ばくだい)なモノとエネルギーが消費されます。組織委の試算では、会場建設や観客や選手が移動する飛行機などで73万世帯分の年間排出量と同じ二酸化炭素が出ます。2012年ロンドン大会では食堂や売店で計1500万食が提供され、1500トンの食べ残し(食品ロス)があったとも言われています。

 いま地球規模で環境の異変が起き、解決策を見いだすため、国連は15年にSDGsを採択しました。相前後して、国際社会がスポーツ界を巻き込んで持続可能な社会をめざす考えも生まれ、大きな潮流になっているのです。国際オリンピック委員会(IOC)は、14年に改革案「アジェンダ2020」を策定。欧州サッカー連盟(UEFA)や24年パリ五輪の組織委は、世界自然保護基金(WWF)と一緒に活動をしています。

米のプロチーム すでに実戦

 米国のメジャーなプロスポーツのチームでは、持続可能性の担当を置くことが常識になりつつあります。

 大リーグのアリゾナ・ダイヤモンドバックスは17年、フェニックス市の本拠チェース・フィールドのコンコースにリサイクル箱200個を新設し、廃棄物のリサイクル率は前年比170%増でした。場内で残った食品から約1万6千食分、9トンの食料を地域に寄付し、外壁を使った菜園で野菜などの栽培もします。また水回りも見直しました。トイレを改修し、水の使用率を約50%削減。ペーパータオルをハンドドライヤーに変え、長さ600キロ弱分の紙が節約できました。グラハム・ロッシーニ担当部長は「投資は必ず成功すると信じていた。地域の人たちのお手本となる存在になりたい」。

 アトランタ市に昨夏オープンしたメルセデス・ベンツ・スタジアムは米プロフットボールリーグ(NFL)のファルコンズと、メジャーリーグサッカー(MLS)のユナイテッドの本拠です。最大約636万リットルの雨水を貯蔵できる巨大水槽などを造り管理用水などに再利用、一帯の洪水を防ぐ役割もあります。約4千枚の太陽電池パネルはNFL約10試合分のエネルギーを創出。電気自動車を48台を同時に充電できる駐車スペース、自転車での来場者へのサービスもあります。プロのスポーツ施設として、世界で初めてLEED認証最高のプラチナを取得しました。LEEDは建築や都市の環境性能を評価する格付けシステムで、設計段階から認証を意識する人や団体が多くなっています。

 米プロバスケットボール協会(NBA)、北米プロアイスホッケーリーグ(NHL)のチームでも廃棄物や水、エネルギーなどの効率化に取り組んでいます。活動をホームページで報告しているチームも多数あります。

カギは「改善の成果示すこと」

 持続可能性の取り組みは、プロスポーツがビジネスとして持続することにもつながります。例えば、NBAポートランド・トレイルブレーザーズ。連携企業と53の電力効率化プロジェクトを実施するなど、先行投資し実績をつくってきました。同チームで持続可能性を担当するケオキ・カキギ氏は「利益よりもブランド強化が優先。投資は後に返ってきて、財政負担軽減にもなる」と語ります。いまチームのロゴは高い持続可能性を示す「目印」ともなり、「他企業などへの支援で利益は数百万ドルにもなる」そうです。

 カキギ氏はグアム出身。米国で物理の学位を取りましたが、気候変動による海面上昇で故郷が水没する可能性を知り、環境保全の道に進みます。昨年までウォルト・ディズニー社の環境影響評価チームに所属、水やエネルギー効率などを測定し、3カ月おきに報告していました。数字は成果や課題を明確にします。

 昨秋から現職に。転職の理由は「スポーツには米国人の7割が興味がある」という大きな影響力です。

 東京五輪が成功するにはどんなことが必要でしょうか。カキギ氏は「過去大会の数字を調べ、どれだけ改善できたかを世間にきちんと示すこと。あとは専門家をできるだけ採用することが大事だと思います」。

世界から700人超 議論

 6月、米ジョージア州アトランタ市内で2日間にわたり、「スポーツ界における持続可能性」をテーマに大規模な会議が開かれました。北米で年に1度開かれ、今年が8回目。料金を払えば、誰でも参加できます。主催は、スポーツを通じて持続可能性社会の実現を目指す団体「グリーン・スポーツ・アライアンス」(GSA)。大リーグなど米4大スポーツを含む14カ国のプロリーグ、約600のチームやスポーツ施設などが加盟しています。

 今年は、700人超が北米だけでなく欧州やアジアなど世界から来場しました。行政やNPO、コンサルタント、環境に優しい商品を扱う企業の社員など、参加者の立場や肩書も様々。過去には五輪開催をめざす招致関係者も参加しています。

 再生エネルギー、食品ロス、スタッフ教育やファンへの周知など、次々とパネル討論会やワークショップが行われました。「2月のスーパーボウルでどう廃棄物を処理したか」「どんな業者と契約しエネルギーや水使用効率を上げたか」など実例に基づいた話が披露されました。

 様々な職種の人たちが一堂に会すため、いたるところで名刺交換が行われ、商談を交わす人も少なくありません。ビジネスチャンスの場にもなっています。会場のメルセデス・ベンツ・スタジアムのコンコースは見本市になり、古着を扱う業者や芝刈り機、冷凍庫などが展示されました。どれも「持続可能」がうたい文句です。同スタジアムのゼネラルマネジャーで、GSA取締役のスコット・ジェンキンズ氏は「経験を共有すれば効率の良い運営ができる。われわれはそう学んだ」と話します。

「健康分野でも貢献を」 登壇の沢田さん

 アトランタの会議には日本人も登壇しました。沢田陽樹(はるき)さん(39)。昨年12月に設立された一般財団法人のGSAジャパンの代表理事です。

 スポーツに深い縁があったわけではありません。きっかけは、大手商社のドイツ駐在員だった2年前。扱っていた炭素繊維などの液体化学原料が急に売れなくなりました。いくら値下げしても、買ってもらえません。理由を尋ねると、こう言われました。「サステナブル(持続可能)じゃないから」。15年に国連がSDGsを採択し、16年には地球温暖化の国際ルール「パリ協定」が発効。価値観が変わってきていたのです。

 そんな時、ベルリンで開催された生物由来のプラスチックに関する会議で米国GSAの代表者の講演を聴きました。「スポーツはあらゆる産業につながる舞台だ」と気づいたといいます。商社を辞め、GSAジャパンを設立しました。環境だけでなく「医療や健康などの分野でも、スポーツを通じた持続可能な社会づくりに貢献したい」と考えています。

 その一環として取り組むのが、職場でのスポーツです。40カ国以上の企業のスポーツ同好会が集まる世界大会を開催しているフランスの団体と提携を結びました。日本の参加企業を募る一方、日本国内で大会を開催することをめざしています。

 東京五輪後、日本は高齢化がますます進むとされています。「スポーツで健康寿命を延ばし、医療費を抑えていくことも、持続可能な社会につながる」と沢田さんは考えます。

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 メモを取る人、写真を撮る人。GSAのサミット(会議)で印象深かったのは参加者の熱量です。本当にビジネスの芽が転がっているからでしょう。スポーツの持続可能性を追求することがお金になるという考え方は、日本ではまだなじみがありません。百聞は一見にしかず。雰囲気だけでも、多くの日本企業に体験してもらいたいと感じました。(遠田寛生)

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 スポーツは、チームや競技場に様々な人、モノが集まります。そのつながりから生まれる化学反応で社会の課題を解決できる。その手応えが、世界のスポーツ界で持続可能性への取り組みを広げています。目の前の試合に注目するだけではなく、酷暑やゲリラ豪雨の異変について、できることを考えてみる。東京五輪は格好の機会になると感じました。(前田大輔)

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