
リボ払いのリスクから賢い住宅ローンの組み方まで
「いい家見つかった! 3SLDK!」
「川崎なら東京まですぐじゃん?」
「横浜、高っ!」
住宅情報サイトで数千万円のマンションを見比べながら、感想を口々に発するのは、高校2年生の女子生徒たち。
総合マネースクールのファイナンシャルアカデミーが品川女子学院高等部(東京・品川区)で行った「お金の授業」の一コマだ。高校生に、お金との正しい付き合い方を身につけてもらう目的で、2013年度から同授業は開講されてきた。

リボ払いにするとハンバーガー何個分?
今年度の授業は人生三大支出の一つと言われる「マイホーム」がテーマだ。新築物件と中古物件の比較、住宅ローンの正しい借り方などを事例として学びながら、お金の使い方・貯め方・備え方、トラブルの回避方法、正しい価値の見極め方などを身につけようというものだ。
この日、講師を務めたのは山本麗子さん。ファイナンシャルアカデミーの講師として、企業研修や個人向け講座を多数担当している。
「金融経済教育」と聞くと、難しいイメージを受けるが、授業で扱う内容は身近なものだ。例えば5万円の商品を月4千円の支払いでリボ払いすると、マックのハンバーガー38個分の金額が手数料として乗ってくる、というように、高校生にもわかりやすい例で説明される。

リセールバリューが高いものの条件
授業でまず始めに山本さんが説明したのは、価格(プライス)と価値(バリュー)の違いについて。
「例えば92400円のヴィトンの財布があります。オークションサイトで調べてみると、同じものが新品未使用で81000円で出てきました。どちらで買うのが正解、というわけではありません。本物である安心感とか、保証、正規店での買い物体験など、その人が何に“価値”を置くかによって選び方が変わります」
中古品でも価値が下がらないものは「リセールバリューが高い」と言われる。
リセールバリューが高いものの共通点として、
- 使い減りしない
- 愛好家が多い
- 流通が整備されている
- 稀少価値が高い
といった条件がある。「どんな例があるか探してみましょう」と講師が提案すると、生徒たちから「ワイン」「昔のおもちゃ」「楽器」などの声が上がった。
住みたい家を手に入れよう!
価格と価値についての考え方を学んだあとは、いよいよマイホームがテーマだ。新築住宅と中古住宅の違いについて学んでいく。
日本では、アメリカやイギリスと比較して、住宅の流通シェアのほとんどを新築が占める。マイホーム=新築という思い込みのほかに、中古はローン貸出条件が厳しいこと、新築の固定資産税が優遇されることなど、金融の仕組みにもその理由の一端がある。長期固定金利住宅ローン「フラット35」などの仕組みも解説され、高校生向けとはいえかなり現実に即した内容だ。
さらに授業後半では、マイホーム購入について具体的なシミュレーションをする。
生徒たちは1人1台手にしているiPadを使い、「10年後に住みたい家」を住宅情報サイトで探し出す。最寄り駅やアクセス、間取りや内装の写真を真剣に見比べながら、それぞれの好みに合わせて探しているようだ。
住みたい家が決まると、手に入れるための方法を考える。つまり「ローンを組む」という方法だ。
ここで講師の山本さんが賢い住宅ローンの組み方について、
- 借入金額は年収の4倍以内にすること
- ボーナスをあてにしないこと
- ローン期間を長くしすぎないこと
などのポイントを生徒たちに説明する。

ローン返済は固定金利か変動金利か
授業ではさらに一歩踏み込み、固定金利と変動金利の違いについても学ぶ。ローンを組む際に大切なのは、金利の状況を見分けること。高金利政策の時は変動金利、低金利政策の時は固定金利を選ぶほうがよい、と山本さんは話す。
「例えば固定のフラット35であれば、金利は約1.3%です。変動金利だと今は1%前後です。固定金利の方が少し高めに設定されていますが、変動金利だと今後金利が上がった場合に返済不能になるリスクもあります」
もう一度iPadを開き、今度は自分の選んだ物件の価格をローンシミュレーターに打ち込んでいく。毎月の支払い額から必要な年収を算出するだけでなく、職業別の平均年収と比較し、自分が就きたい職業で返済が可能かどうか、といった点までリサーチする。
ある生徒が選んだ物件は、月々の返済が24万7千円で、必要な年収は1180万円という結果に。一方で20代後半女性の現在の平均年収は約306万円であることが伝えられた。
住みたい家を手に入れるのがどういうことなのか、生徒たちにとっては、これからの職業選択や結婚観と結びつけながら考えるきっかけになったに違いない。

高校卒業までに金融リテラシーを
授業を受けた生徒の一人、荒井美羽さんは
「価格と価値の話が印象に残りました。安く手に入るものは、型落ちして価値がなくなってしまうかもしれない。大切にしようと思えるものを買うようにしたいと思いました」
と感想を話した。
2022年からは成人年齢が引き下げられ、高校卒業までに金融リテラシーを身につけるニーズがますます高まっていくことになるだろう。ファイナンシャルアカデミーでは、今後も児童・生徒向けのお金に関する出張授業を実施していく方針だという。