
この先どうなる中国デジタル社会
新型コロナウイルスの感染拡大は収まる気配がいまだ見られませんが、世界経済の見通しには薄明かりがさしはじめています。昨年12月に公表されたOECD(経済協力開発機構)の見通しでは、2022年の世界の成長率はプラス4.5%と堅調な回復が見込まれています。
2月から冬季五輪が開かれる中国国内の経済はどうでしょうか。キャッシュレス、政府による規制強化、Z世代のトレンドがどのように変化していくのか。現状と今後の見通しを伊藤忠総研・産業調査センター主任研究員の趙瑋琳さんに伺いました。
地方にも浸透、都市部では環境意識も
――コロナ禍で大きく変わった点はどういうところでしょうか。
ものすごく目新しい進展があったというわけではありませんが、農村地域や三線以下の小さな地方都市(※1)でキャッシュレスが加速した感じがあります。これまで中国におけるECなどのネットビジネスはどちらかというと都市部が中心でしたが、地方でも主流になったと思います。
※1 中国の都市は、人口や経済レベルなどの観点で、「一線都市」「新一線都市」「二線都市」「三線都市」「四線都市」「五線都市」の六つの階級に分けられる。
――三線以下の都市では、コロナ前はまだ現金が使われていたのでしょうか。
そうですね、まだまだ現金社会でした。やはり農村地域はインフラなど、いろいろな意味で都市部より遅れており、中国の2大キャッシュレスアプリである「アリペイ」「ウィーチャットペイ」が頑張ってキャッシュレスを浸透させようとしていましたが、それほど一気に進むことはありませんでした。
――地方で普及したのには、どのような理由があるのでしょうか。
都市部で働く出稼ぎ労働者たちが、地元に帰ってもキャッシュレスを使いたいというニーズは以前からありました。それに加えて、コロナ禍で外出できなかったことや、現金に接触することに対する不安というか、やっぱり現金を使いたくないという動きがキャッシュレス化を後押ししたようです。
――地方でもアリペイとウィーチャットペイが共存しているのでしょうか。
基本的には共存ですね。ただ農村地域では、よりウィーチャットペイのほうが大きなシェアを占めていると思います。ウィーチャットペイの強みは、SNSのウィーチャット(微信)です。農村地域では微信を使ったコミュニケーションがいまだに主流なので、アリペイより多く決済されている印象があります。ただ、どこの店も二つのマークがあって共存はしているわけですし、2社で9割以上のマーケットシェアなのは前からずっと変わりません。
――二つのアプリをどう使い分けているのでしょうか。
キャンペーンで割引クーポンが出るのは両社ともにありますが、アリペイは環境貢献という切り口で攻めていますね。アプリ内に「アントフォレスト」というプログラムがあって、請求書のオンライン化など脱炭素や低炭素につながる行動をするとポイントがたまり、一定のポイントになると砂漠に実際に植樹してくれます。これは本当にアリババがうまいところで、都市部に住む人は近年、非常に環境意識が高まっています。普段の自分の行動が、少しでも環境にいいことにつながるのであれば、みんな喜んで使う、そういう状態ですね。
――見える化、というのはいい切り口ですね。
そうですね。中国の旧正月の年末くらいに、一年でどれくらい貢献したかが可視化されるんですね。日本のPayPayなどでも「何%還元」というキャンペーンを随時やっていますが、中国では、よりCSR的な、社会貢献的なもので消費者にプッシュする傾向が見受けられます。
――都市部でのウィーチャットペイはどうでしょうか。
ちゃんとした研究、データではないのですが、行列ができる店ではウィーチャットペイが多く使われている印象を持っています。列に並んでいるときに微信を使っている、つまりウィーチャットのアプリを使っていることが決済時で使われる大きな理由でしょうか。ニュースを読んだり、メッセージを送ったり、他の人の微信の投稿を読んだりしながら待っているので、アプリを開いているその流れで決済するのかもしれません。
――クレジットカードはあまり使われていない印象があります。
そうですね。先進国と比べると中国のクレジットの普及率は非常に低いですね。これまでにお話ししてきたように、2大アプリを使ったスマホ決済の割合は非常に高いです。クレジットカードを持っている人はほとんど都市部の人ですね。いわゆる経済が発達している地域の人はみんな持っているけど、人口全体で見れば持っていない中国人の方が圧倒的に多いです。中国では個人に対する信用評価がなかなか難しいから、それが普及の進まない一つの要因でしょうか。

規制強化とZ世代の動き
――政府の規制強化はどうでしょうか。
中国政府は、民間企業の信用評価の仕組みに対して規制を強めようとしています。4~5年前とは状況が全く変わってきています。フィンテック、キャッシュレスだけではなく、中国国内のネットビジネス、プラットフォーマー全般に対する規制強化も昨年から始まりました。少しやりすぎなところがあったからです。各社の株価も下がりましたし、大きな影響を受けていると思います。
――個人情報への認識も変わりつつあります。
昨年11月に中国初の個人情報保護法が施行されましたが、実はその前から中国ではさまざまな議論がありました。「国際消費者権利の日」の3月15日に、中国国営中央テレビ(CCTV)が『315晩会』という特番を流しています。消費者の権利を守るために企業の問題点を暴露する番組です。昨年は、監視カメラが消費者の同意を持たないまま顔認証を取っていたというものがありました。国が個人情報を守るというか、これまでのようにデータを自由に使うということは難しいという一つのメッセージですね。一般人でもプライバシー、個人情報を守りたいという意識が以前よりだいぶ高まっています。それがバックグラウンドにあるので、国としてもやらないといけない状況なんですね。
――揺り戻しが出ているのでしょうか。
わたしはそれがいい方向に向かっていると見ています。GAFAに代表されるプラットフォーマーに対する規制は、欧米だけでなく中国も同じような課題に直面しています。もちろんプラットフォーマーが倒産するところまで追い込むつもりはないのでしょうが、これまでのような、行き過ぎ、やり過ぎの部分に対して規制をかける動きが強まっています。中国国内ではキャッシュレスもフィンテックもだいぶ普及が進んで、これ以上の新しい大きな成長は極めて難しい状態です。海外にいかないといけないというのはみんな分かっていながらも、対中国、中国企業に対する目は相当厳しい現実がある。『内憂外患』の状態と言えます。
――中国はデジタルネイティブ世代の層が厚いのはどのように見ますか。
総人口が日本の十数倍なので、デジタルネイティブも当然数が多いです。中国のZ世代はさまざまな特徴をもっていますが、比較的豊かに育てられてきたので、自分たちのユニークな世界観を持っているように思います。消費だけでなく文化も、中国に対する自信や誇りなど、これまでの世代と全然違う側面があります。最近は自国のブランド「華流ブランド」が流行しています。中国ブランドを買いたい、それに対する一つの愛国心みたいなことを言う若者が増えています。
――彼らの特徴はほかにもありますか。
最近、実は若者の間に公務員志向が高まっているようです。これまでとは全く違う印象ですね。中国経済も思ったようにはコロナから回復しているわけではなく、それを受けた流れのようです。もちろん中国のトップ大学を卒業した人の中では「起業したい」「自分のビジネスをしたい」と思っている人が多いのですが、中間層では安定志向が非常に強いようです。ただ、みんながみんな、日本のように安定志向というわけではありません。さきほど申し上げた政府の規制強化があって、民間企業はちょっと不安という、その影響が大きいですね。もちろん今年以降、状況が変われば若い人の就職志向は変わる可能性があります。中国はどんどん変わっていくので、定期的にウオッチすることが大事で、固定的な見方をすることは危ないといつも思っています。
――ありがとうございました。




































































