サステナブルなビジネスを切り拓くこと

アナウンサー起業家が挑むSDGs

START!編集部

コロナ禍の昨年6月、一人の社会起業家が小さな会社を立ち上げました。株式会社DEW(デュー)。DEWとは「露(つゆ)」という意味の英単語です。一滴一滴の露が、やがて大きな水たまりをつくるように、一人一人が取る社会のための行動が積み重なり、集まることで、とてつもなく大きなインパクトを起こす起爆剤となる。そんな思いが込められています。
代表は宇佐美佑果さん。名前を見て、気づいた方もいらっしゃるかもしれません。テレビ朝日のアナウンサーとして活躍された方です。なぜアナウンサーを辞めて、自らビジネスを立ち上げたのか。その背景を伺いました。

宇佐美さんは2012年4月にテレビ朝日にアナウンサーとして入社、報道やスポーツ、バラエティ番組などで大活躍されました。ブレグジットやトランプ政権の誕生など、世界で起きるさまざまなニュースを伝えるのは非常に刺激的だったと当時を振り返ります。
一方、仕事をしながら迷いも感じていたそうです。早朝の番組から収録、デスクワークなど多忙な日々が続き、自分の時間をなかなか持てない毎日が続きます。「アナウンサーとして伝えることはできるけど、そこから世の中を変えることは難しい」。そのように日々思っていたそうです。
そもそもアナウンサーの道を選んだ理由は、世の中の難しい出来事をわかりやすく噛み砕いて視聴者に伝えることで、一人でも多くの人が社会問題に興味を持つきっかけを作り、問題の解決につながる行動を促したかったからという宇佐美さん。自己分析を続けた結果、アナウンサーではなく、自ら社会問題を訴えかけていくキャリアを追求していくことを決意。まずはその分野での専門性を高めるために、大学院への進学を志します。 せっかく入学するならトップクラスの大学院に進学したいと思い、自分を追い込む環境を作るため会社を辞めてしまいます。もちろん、上司や同僚から何度も引き留められました。「でも、本気で追い込むためには、それくらいの覚悟がないとできないと思いました」。会社を辞め、無職になり、自宅にこもって1日15時間の勉強生活。「自分には後がないと強く感じました。誰にも会わず、まさに仙人のような暮らしをしていました」と笑う。

宇佐美さんをここまで突き動かす想いは、生い立ちが深く関係していました。
生まれてすぐに父親の仕事の関係で渡米し、5歳までは現地の幼稚園に通います。そのあと、イギリスでは現地校、ドイツではインターナショナルスクールで学び、9歳で日本に戻ってきます。海外生活から環境問題に興味を持ち、小学5年生のときにはスピーチコンテストでポイ捨てやレジ袋について話し、全国8位入賞をしたそうです。
そのまま日本で中学受験を経験。しっかりと第一希望に合格するも、直後に父親のチリへの赴任が決まります。中学時代は南米に滞在。住んでいたチリでは、赤信号で止まった車にストリートチルドレンが群がる光景が広がり、洪水によって家が流される貧困地域をも。社会的弱者や環境問題への関心が深まる日常を体験します。また、旅行先のアルゼンチンでは金目当ての男たちに襲われ殺されかけた経験もし、命の尊さを強く実感したそうです。
その後、また日本に戻って日本の高校を卒業。高校生の時に今の夢が芽生えたと言います。「当たり前かもしれませんが、平和で安全な日本で暮らしていた周りの学生たちは、世界で起きている問題に興味をあまり持っていませんでした。知る機会も少ないし、当事者意識もない。それを見た時に、自分はライフワークとして日本人の社会問題に対する意識を醸成していきたいという強い使命感を感じました」。

大学は慶応義塾大学に入りましたが、2年次に中退。改めてアメリカのルイス&クラーク大学に編入します。「国際情勢や環境問題について本場・アメリカで学びたい」と思って一念発起し、渡米しました。

大学時代の宇佐美さん

一緒に学ぶ生徒たちは非常に意識が高く、教授陣も元CIAや亡命してきた外交官など非常にレベルの高い授業がつづきます。「課題をやるのは当たり前、その先の自分なりの思考を徹底的に鍛えられました」。日本は世界の中でどのようにリーダーシップを取っていくのか。貧困や環境問題など世界の課題をどう伝えて、どう変えていけるのか。さまざまな国に住み、多様な暮らしを見てきたことが、そういう問題意識を持つようにつながったそうです。

話を戻します。仙人のような生活を経て、宇佐美さんは晴れてイギリス・サセックス大学の大学院に合格します。国際開発学では世界トップともいえる大学院で、「奇跡的に合格した」と謙遜します。ただ、ここで待っていたのは地獄のような生活でした。「牧場のようなのどかなキャンパスなのですが、与えられる課題や授業はもう二度と体験したくないくらいの質や量でした」。レポート提出時期には、連日徹夜に近い状況が続き、体調も悪化。検査で肝臓の値もかなり悪くなっていたそうです。

大学院時代のクラスメートと

しかし、その中で明確な気づきを得たといいます。「自分の価値を最大限に発揮できる場所はどこか、自分の経歴を振り返って客観的に見ることができました」。開発学を学ぶことで、豊かさとは何か、格差が縮まらない理由は何か、資金援助が本当に途上国にとって良いものなのか。国の発展における教育や人的資本の重要性など、さまざまな角度から考えることができたと話します。一方で、SDGsを果たす上での民間企業の重要性やビジネスの役割も改めて認識しました。卒論は、内戦が長期間続いたアフリカ・リベリア共和国の教育における官民連携の実態について。指導教授からは「この分野はいまだ誰も見てきていない分野、博士課程に行ってもっと研究すべき」と言われたほど。成長を重ねた1年間を終えます。

大学院を卒業後、ソーシャルビジネスで経験を積むためシンガポール発祥の教育ベンチャーの日本支社に就職、チーフコミュニケーションオフィサーとしてPR全般を担当します。そこでは、「せっかく社会にとって良い事業をしているのに、うまく広報できておらず埋もれていることがなんて多いんだろう」と気づいたそうです。アナウンサー、メディアでの経験を積んでいるため、訴え方を工夫すれば、より多くの人の心に届くこと。伝え方次第でより自分事としてとらえてもらえること。これまでの経験を違う方向から見ることで非常に視野が広がったと語ります。

そして、いままでの学びを生かすために、宇佐美さんは起業します。社会問題に対する人々の意識を上げながら、同時に社会的弱者がより豊かに暮らせる仕組みを作るためです。人や社会、環境を意識したエシカルでサステナブルな商品を販売して、社会問題を解決する。そんなコンセプトを考えました。
「社会問題を自分ごととするためには、日常の行動に結びつけることが大事だと考えます。投票によって国の在り方が変わるように、買い物は自分の選択ひとつで世の中を変える大きなパワーを持っていると思います。環境負荷が限りなく少ないものであったり、児童労働や労働搾取をせずに生産された商品であったり、そのストーリーを消費者にしっかりと伝えていきたいです」と宇佐美さんは話します。フェアトレードやオーガニック認証など最先端のサステナブル商品を揃えたセレクトショップを展開しながら、自社商品の開発にも今後力を入れていくそうです。まずは、環境負荷の小さい植物由来のマスクを発売予定とのことです。

トウモロコシの糸を使ったマスクを販売予定

「自分にとっては当たり前なことが、世界では当たり前じゃない。これを自分は育った中で体験できました。もっと多くの人にこの意識を広めていくことができれば、社会は変わるかもしれない」宇佐美さんの思いは強く、世界に向けて発信されていきます。

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