
2020年 都内の不動産はどうなる?
五輪イヤーを迎えた2020年の東京。都内の不動産はどうなっていくのか。
都心の高級物件を扱う不動産スタートアップ「TERASS」の江口亮介CEOに、これからの見通しを聞きました。
―――いよいよ2020年。都内の不動産はこれからどうなっていくのでしょうか
江口: 2013年から見ると、いまは1.3~1.4倍にまで不動産価格が上昇しています。その理由として、都心にディベロッパーがどんどん建物を作っていることが挙げられます。需要が高ければ人件費が高騰し、それによって新築マンションを作るコストが上がれば、販売価格も上がる。そのような関係性です。
―――五輪の影響はそれほどでもないのでしょうか
江口: もちろん全くないわけではありませんが、ほかにもさまざまな要因があるということです。海外投資家からみると、東京の不動産は「安い」と考えられています。ニューヨーク、ロンドン、シンガポールなどと比較すると新築で買っても比較的安く、円も安定性がある。中国の富裕層などもどんどん買っています。
―――五輪が終わったらどうなるのでしょうか
江口: もちろん金融商品という側面から見れば、調整局面は来るでしょう。ただ、どーんと一気には落ちることはないとみています。弊社の場合ですと、日本に住んでいる外国人から「家が買いたい」「投資をしたい」という相談がかなり来ています。永住権を持つ方は住宅ローンが使えるので、非常に安く購入資金を借りることができます。そういった需要は今後も大きいのではないでしょうか。
―――そういったニーズを満たす高級物件はたくさんあるのでしょうか
江口: まだまだ数は少ないですね。その中でベンチマークになるのは、1億4000万円以上の物件かなと思います。このランクの物件を買えるのは年収2000万円以上の人。つまり会社役員や芸能人、医師や弁護士などの個人事業主がほとんどです。これらの方は経済の好不況にあまり影響されない職種で、一定の需要がずっとあるイメージです。
―――逆に景気に左右されるのはどういう物件ですか
江口: マス・アフルーエント層、都内でいえば6000万円程度の物件を買う層です。この方々は住宅ローンを組んで買うため、景気動向が非常に影響します。都心部にマンションを作るときにも、一番量が多いのはこの層です。ディベロッパーとしてはここをどう売るかが勝負になりますね。

―――都内における最近のトレンドを教えてください
江口: 広さよりも立地条件が重要になってきていると感じます。都内は土地の値段が約7割といわれているので、駅からの近さが大きく価格に跳ね返ります。駅は街を構成する中心部にあることが多いですから、駅の再開発などが起きるとその周辺の土地の値段がポンと上がる、そんな感じです。
―――ほかにはありますか
江口: リノベーションした物件を買うのが爆発的に増えてきていますね。そのトレンドの起爆剤としては、住宅ローンとリノベーションのローンを同時に組めるようになったことがあります。さきほど述べたように都内の新築物件の価格は上がってきているので、昔に比べるといいマンションを手に入れるのは難しくなっています。たとえ築年数が古くても、リノベーションをして自分好みの満足できる暮らしをしたいというニーズは増えてきています。
―――技術の進化もありますか
江口: それも大きいですね。タンクレストイレや塗料なども価格が安くなってきました。また、同じスペースでもより大きなお風呂を入れることができるなど、スペースの使い方もどんどんうまくなってきています。ただ、こだわればこだわるほど価格も高くなる。カスタムメイドすると価格がだいぶ上がることもあるようなので、一概にリノベーションが安いわけでもありません。
―――賃貸物件はどうでしょうか
江口: 賃貸マンションだけでなく、いま申し上げたリノベーション物件もあるため、賃料の算出が難しくなってきています。もともと賃貸のほうが景気に左右されない、値段の粘着性が高いといわれていたのですが、大手ディベロッパーが運営する賃貸が家賃を軒並み上げてきています。
―――海外では多い「ホテルアパートメント」は普及していますか
江口: 日本へ働きに来る専門職の方、特に高度技術を持つ方が多くなってきているので物件数は少しずつ増えてきています。ホテルとレジデンスのフロアを分けて、需要に合わせてフロアごと変えるような動きも出ています。民泊は法律が厳しいですし、マンション側の管理も難しいです。五輪の開催中や前後には、ホテルが圧倒的に足らなくなると見ています。
―――最後に不動産業界のこれからの見通しを教えてください
江口: 業界全体は成長していますし、大手も中小プレーヤーも伸びてきてマーケット全体がにぎわっています。しかしながらAIなどテクノロジーがもっと進化したら、仲介業の存在意義が必ず問われるとみています。誰でもいいから安く売ってくれる人を探すディスカウントモデルか、手数料を払ってもこの人にお願いしたいというプレミアムモデルかに収斂していくのではないでしょうか。特に後者は付加価値のある提案ができる人、私たちは不動産エージェントと呼んでいますが、その人の資産状況や希望を聞きながら最適な提案ができる会社・人が残るのではないでしょうか。アメリカは日本の不動産業界の15年先を行っていると思いますが、日本も遅かれ早かれそうなると思っています。
―――とても参考になりました。ありがとうございました。