
幸せの未来像とは
これからの日本の未来を担っていく1980年代生まれが、いまをどのように考えているか。今年1月、START!編集部とウェブマガジン「EL BORDE(エル・ボルデ)」(https://www.nomura.co.jp/el_borde/)が、全国の80年代生まれ588人に、「リスク」「チャンス」「ハッピー」について聞きました。
この結果をもとにしたEL BORDEとのコラボ連載「充実した人生を送るための6つのヒント」。最終回は、80年代生まれが考える「ハッピー」についてです。
①「A お金があること」 「B お金が必要ないこと」
②「A 愛する人がいること」「B 愛してくれる人がいること」
③「A 仕事があること」 「B 仕事がないこと」
どちらがハッピーな人生だと思いますかという質問には、いずれも約半数の人がAと答えました。「ややAだと思う」を含めると、お金に関しては8割以上の人が、愛する人については2/3以上の人が、仕事に関しては9割以上の人が、あること(いること)がハッピーだと回答しました。

80年代生まれのリアル
この結果を踏まえて、新宿・歌舞伎町ゴールデン街で「牧師バー」を開く牧師の中村透さん(64)に、80年代生まれについて話を伺いました。
「私のところに来る80年代生まれの人は、年齢よりしっかりしている部分もあるし、一方で非常に危うくもろい部分を持っているようにも思います。バーに入ってくるなり、涙をボロボロと流して悩みを話し出す女性もいるし、1対1でないとなかなか自分のことを話さないような男性もいます。でもどちらかというと男性の方が、自分の弱さをさらけだせないというのがあるかなあと思いますね」

中村さんは毎週土曜日に「酒場で教会!」として、バーの中で礼拝をおこなっています。参加するのは20代から60代まで、性別も年代もいろいろ。キリスト教に興味があろうとなかろうと、中村さんは受け入れていきます。
「本来、教会って気軽に立ち寄れる場所だと思うんですよね。日本の場合、防犯や人員の関係でなかなかそうはいかないけれど…。迷ったり悩んだりしている人がふらっと寄れるところがあればいいなと思って始めました」
日本で一番敷居の低い教会と中村さんがおっしゃるように、常連だけでなく新入りの方も多く参加するそうです。いつしか、みんな一体となって賛美歌をゴールデン街に響かせます。
未来のハッピーとは
アンケートの「愛情」に関する項目では、これまでの中で一番多岐にわたる答えを頂きました。
- 自分を必要としてくれる人がいることこそ幸せなことはない(男性・38歳)
- 愛してほしい人に愛される幸せは唯一無二(女性・38歳)
- ゆとりがなければ、ハッピーでいられないと思う(女性・31歳)
- 愛されることには、限りがなく、満たされず、不安なまま。自分が他の人に何をしてあげられるかが大事だと思う。(女性・35歳)
愛情や愛に関して思うところは、まさに十人十色。非常にさまざまな理想の形、人それぞれの価値観、自分の考えや思いがあるのだと改めて気づかされました。中村さんはこのように分析します。
「バーに来る80年代生まれの人から聞いたことで印象的だったことがあります。彼ら、彼女らは子どものころに、阪神大震災と地下鉄サリン事件などが立て続けに起きた世代ですよね。まだ社会のことがよくわからないうちに信じがたいことが起こって、ものすごく強い不安を感じてしまった。もうこの先、いいことなんて起きないだろうって思った。そのような変な予感がずっとつきまとっている。だから未来のハッピーなんてなかなか見いだせないんだ、そう言ってました」
「一方で、まだ自分のやりたいことがあって、それをやっちまえと突き進むことができる最後の世代じゃないかとも思っているそうです。会社でもまあまあのポジションを得て、上司とも人間的なつながり、生身のコミュニケーションが取れている。『じゃあ今から一杯いくか』という最後の世代かもしれないって言っていました。彼らの下の世代では失われつつあることのようです」
たしかに「仕事」に関する項目では
- 働くことは自分を保つための手段であると思う(男性・35歳)
- 仕事があると、人間関係も世界も広がる(女性・37歳)
- 仕事は、新しい出会いを強制的に作ってくれる(男性・33歳)
- 仕事は人生の大半、楽しいに越したことなし(男性・29歳)
- 仕事をしない生活なんて考えられない!(女性・35歳)
と、仕事を肯定的に見る意見が多くありました。
さらに仕事だけでなく、そこから派生する「自分の存在価値」「社会への貢献」「幸福感」などに言及した回答も見られました。

365回の『恐れるな』
中村さんはこう語ります。
「お金も愛情も仕事も、本当に不思議なものだなあと思います。どれも大事だし、どれも見通しが立たない。よくわからないものですよね。後になってみて『ああ、これは一本の長い糸でつながっていたんだ』って気づくことも多いです。だから私の場合は、自分の身に起こることはすべてが神様からの命令だと思って受け入れています。逆らわない、むしろ逆らえないと思っています」
「聖書には『恐れるな』という言葉が365回出てきます。つまり1日1回ですよ。逆にいうと、人間がいかに恐れる局面が多いか、神様は知っているのだと思います。だからそれに合わせて何回も何回も『恐れるな』と言ってくるのです。これは聖書の一番の大きなテーマだと思います。神様が恐れるなと言っているんだから俺は大丈夫だろう、私ならそう思います。人生は常にバラ色ではなく、上がるときも下がるときもあります。だからどんなことが起きようとも、恐れずに開き直って生きるのがいいのではないでしょうか」
どんなときでも恐れず開き直って生きる。この中村さんの言葉がとても印象に残った取材でした。実践するのは簡単そうで難しく、難しそうで簡単なことかもしれません。
これまでに「チャンス」、「リスク」、そして今回の「ハッピー」と三方向から80年代のリアルを見てきました。寄せられた回答を丹念に見ていくと、激しい時代の変化の境目を生きるこの世代が、いま何を考え、どのように行動しているのか、おぼろげながら見えてきたような気がします。
次回は総集編として、「現代の魔法使い」メディアアーティストで筑波大学学長補佐の落合陽一さんに、80年代の現在と未来についてインタビューします。
今回お話を伺ったのは

中村透(なかむら・とおる)さん
1953年生まれ。大学卒業後、アジア、中東、ヨーロッパ、アフリカを旅する。その後、牧師としてアメリカ西海岸で二十数年働き、4年前に帰国。現在は新宿ゴールデン街のバー「月に吠える」で『酒場で教会!』『牧師バー!』を開催。現役牧師の中村さんによる「説法タイム」を目当てに、さまざまな人が集まる。